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第九十話 ハープナへ

 ヴイーヴルがハープナへと戻ってから2週間程度経った頃、継続的に行われたマーマン狩りが功を奏したようで、漁場でのマーマン出没回数も激減していった。マーマンの数が相当減ったこともあるだろうが、流石に狩り場所を変えたのではとの見解はギルドマスターのマルローさんだった。


 合計で1000近いマーマンの素材でウハウハのマルローさんが今日も忙しそうに書類と格闘していたが、僕たちとの別れが近づいていることを察していた。


「みなさんがどのような理由でカイラルを拠点にしていたのかはわかりませんが、シーデーモンの脅威も去り、マーマン被害による漁獲高の減少を救っていただき、干物という新しい特産物にもご協力いただけたとか。カイラルの街を代表して改めてお礼を言わせてください」


「そんな、偶然が重なっただけですからそんなに気にしないでいいですよ。マルローさんにはパーティの秘密を守って頂き、とても良くしていただきました。カイラルの街にいる人達もみなさんとても優しく接してくださり、ここはとても過ごしやすかったですから」


「それにしてもベリルちゃんは、この数週間でとても大きく成長しましたね。カイラルに来た時は小さな子猫サイズだったかと思っていたのですが、ホワイトウルフとおっしゃっておりましたっけ? やはり特別な生物なのでしょうね」


 ベリちゃんのレベルはとうとう5になり、幼生体から成体となり体の大きさが更にサイズアップしていた。今は大型犬ぐらいの大きさだろうか。大人の狼といってもいいサイズだ。毛の長さもかなり伸びてきて毎日のブラッシングが大変なのだが、毛のモフモフとその長さで翼を上手く隠せているのが幸いだ。


 最近は毛並みの美しさから普通とは違うどこか高貴な愛らしさが備わってきた感じすらしている。ローランドさんのベリちゃんを見つめる目がかなり変態性を帯びてきているからね。


「カイラルでの僕たちの使命は無事終わりましたので、これからハープナに行こうと思います」


「やはりそうですか。みなさんがいなくなってしまうのはとても残念ですが、またカイラルにも来られることもあるでしょう。その時は変わらずのご対応をさせていただきます。みなさんはカイラルの英雄なのですから」


 その後ブルーノさんや街の人達にもご挨拶をしてまわって、街を出発することを伝えた。みなさんが、とてもさみしがってくれているようで何だか嬉しい。


 ロカ達ネコ軍団も次々とベリちゃんのもとへ挨拶にやってきては熱烈な毛づくろいをしている。今のところ干物番もしっかりとこなしているようでブルーノさんからの信頼も厚いようだ。やはりカイラルはネコとともに生きる街。新しい仕事も増えたのでネコの数が多少増えてもご飯に困ることもないだろう。


「ベネット、借りていた家の清掃は本当に任せてもいいのだろうか?」


「大事なクエストのご報告なんでしょ? これぐらいのお手伝いはさせてよクロエ。それに貸出していたベッドやソファーとかの回収もあるからそのついででもあるしね! 馬車の準備も出来ているから安心して」


「すまないなベネット。とても助かる」


 一応、それなりには後片付けやら掃除をしてはいたんだけど、ケオーラ商会に任せておけば新品同様にして戻してくれるだろう。貸し出してくれた人も喜ぶだろうし、ここはお言葉に甘えさせていただこう。


「それでは、ハープナに向かいましょうか。御者は私がやりましょう」


 アリエスやローランドさんとの臨時パーティもハープナに着いてヴイーヴルへの報告が終わったら解散となる。アストラルに来てからいろいろなことがあったけど、僕がいるのが場違いな程に最高のパーティだったと断言できる。


「なんだか濃い時間を過ごしていたから寂しくなるわね。ハープナに戻ったらこのパーティは解散するんですものね」


「リンカスターにいつものように遊びに来ればいいのだ。領主様のお許しを頂けたら豊穣祭は私達がハープナへ見に行くぞ。アリエスの舞いを見られるのが今から楽しみなのだ」


「そうだね。領主様との話し合いになるだろうけどリンカスターはニーズヘッグの消滅を発表することになるだろうし、クロエとベリちゃんをリンカスターに縛りつけないように話を持っていきたいよね」


「あらっ、もし本当にハープナに来るのなら特等席を用意しておかないとならないわね。ハープナにとってもあなた達は得意先様になるもの」


「ベリちゃんの席もよろしくね。ベリちゃんもヴイーヴルのようにヒト型になれたらいいんだけどね。ヴイーヴルに聞いてみてリンカスターで練習しようね」


「キュィ!」


 リンカスターが賢者に自由を与える初めての街になるのか。……とても難しい判断にはなるだろう。どちらにしても早急に結論が出ることはないはずだ。


 しばらくの間はリンカスターで孤児院のみんなとビールや麦茶作りを手伝いながらマウオラ大森林で討伐をする生活となるだろう。


 アストラルの長い歴史の中で賢者が自由になったことはない。ましてや、ドラゴンと賢者がパーティを組んで旅をするなんてこともないことだし、想定されていないだろう。



 他の街からしてもドラゴンが旅のついでにやって来たら、いろいろと問題がありそうなのは理解できる。それ程にドラゴンの力は絶大で圧倒的で破壊的なのだ。アストラルで生きる人々にとってドラゴンは神にも等しい。この世界でドラゴンと旅をするということがどれだけ難しいことなのか理解しているつもりだ。そういう意味ではリンカスターで安寧と過ごすというのも一つの手なのだろうね。

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