第八十九話 ケオーラ商会
昨日試食会が無事終わった後に、ケオーラ商会のベネットと先輩さんに声を掛けて、借家にご招待して輸送に関しての話を初めてしてみることにした。ケオーラ商会では、麦茶というか賢茶、あとリンカスタービールに今日の試食を行った干物についても既に情報が入っているようだった。
僕がベネットの立場だと焦ってしまうところだが、こちらにそんな素振りを見せずに待っていてくれたことを有り難く思う。クロエに対しての信頼的なものがあったのかもしれないけどね。
「それでは、ケオーラ商会はこのリンカスタービールと干物を各地へ運ぶルートを確立させ、それに伴う荷馬車の整備、そしてリンカスター以外での販売を行う権利を頂けるということですね」
2人には、リンカスタービールと干物を焼き魚にしたものを飲食してもらいながら話を聞いてもらっている。肉とも合うけど、焼き魚とビールもいいね。干物の塩味で冷えたビールがより進む。
「どう? ベネット的にこれで商会長さんは納得してくれそうかな?」
「納得するもしないも、ハルト様の商売の中にケオーラ商会を組み込んでいただけたことを我がことのように喜んでおります!」
「喜んでおります!?」
「はいっ、私の隣におりますのが先輩改め、商会長のケオーラ様なのです」
ベネットの横には先輩だと紹介されていた方がニコニコ顔で喜んでおられる。やべぇ、確かこの人初対面でアリエスとローランドさんに縛られてなかったっけ?
「えーっと、その節はいろいろと申し訳ございませんでした」
「いえいえ、私どもが焦って行動した故のことです。気になさらないでください。それよりも素晴らしいお話を頂けたこと、とても嬉しく思っております。配送ルートが確立されればハープナからリンカスターへと現在運んでいる古麦もお安く運び入れることが可能になるかと思います」
鋭いな。流石は商会の会長というだけはある。情報はお金になるとはいうが、しっかりと調べられているようだ。
「見たところ、かなりお若いようですが」
「はい、私は2代目になりまして、商会を継いで3年目の30歳です。ちょっと頼りないですか?」
「そんなことないですよ。よく情報を集められているので感心しておりました」
「父にはもっと現場に出て学べと怒られたものですが時流を読むのが楽しくて、つい情報を集めてしまいます。しかしながら、父の言うように私にはもっと現場での勉強が必要ですね。みなさまをお調べするのに必死で、不審者扱いされてしまったのですからね」
確かに言われてみればもっとやりようはあったのかもしれない。ベネットというカードも持っていたのだからね。今後そのあたりも経験値として合わさればもっと良い商会になっていくのだろう。
「どの商品も製造数量がある程度まとまるようになるまで、まだもう少し時間が掛かると思います。それまでに、荷馬車や馬の購入などを進めておいて頂けると助かります」
「はい、もちろんでございます。ギルドへ護衛クエストの見積りもとっておきましょう。お金が動きはじめますね」
「ですね!」
物が動けばお金も動く。その本質は異世界であっても変わらない。物流も商品の一部なのだから必要なコストであるし当たり前のことだ。ビールや麦茶による地場産業が活性化、ハープナでは麦の増産、そしてカイラルの日持ちする海産物。それらを各地へと運ぶ物流機能の構築とギルドによる護衛業務。あまり深く考えてなかったものの結構な大事業に発展してきている。リンカスターの領主ベルナールさんも満足してくれることだろう。
「それでは、私は先に準備のためハープナに戻ろうと思います。カイラルには引き続きベネットを滞在させますので、何かございましたら言い付けください」
「ではケオーラさん、よろしくお願いします」
ケオーラさんと握手を交わして別れた。ケオーラ商会では魔力回服薬などのポーションをメインに扱っているそうなので、飲食物を取り扱うのは慣れているとのことだった。
ケオーラ商会にはどんどん頑張ってもらってビールや干物を王都へ売ってもらおう。王都というのだから人口も多いはずだし、各地からも商人が集まるだろう。そこで目につけば更なる展開も見込めるはずだ。
「さて、僕達は引き続きマーマンの数を減らしていかないとね」
「そうだな。ブルーノさん達が安全に干物を作るにはマーマンから漁場を奪い返さなければならぬからな」
「ハルト、私はこれでハープナに戻ります。アリエス、ローランド、引き続き頼みましたよ。そして、ベリル。みんなを助けようと行動することはとても素晴らしいことです。でも無理は禁物ですよ。あなたはまだ幼生体なのです。強くなるためには我慢することも必要となるでしょう。今は信頼できる周りのみなを頼りなさい」
「キューィ」
ヴイーヴルは優しくベリルを撫でながら諭すように話しかけている。母親っぽさが滲み出ている気がしないでもない。クロエにライバルが出現している予感だ。
まぁでもベリちゃんが信頼できる仲間というのが、これから増えていくといいなと思う。
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