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第八十八話 干物の焼き魚

 ブルーノさんの家の前で干していた干物は全部ダメになってしまったので、借家にある干物をとってきて味見をしてみることにした。ロカとミケが悲しそうな表情をしているが、敢えて無視させてもらおう。この程度を我慢できないようであれば今後の仕事は難しいだろうからね。


「網焼きするならこれを使っていいぞ。試食の時も使えるだろう」


「これは素晴らしい、ありがとうございます!」


 ブルーノさんが用意してくれたのはバーベキュー用のコンロのようなもので真ん中に薪を入れられるようになっている持ち運びのできる網焼き用の器具だった。普段から魚や貝を焼いて食べているそうで、煙が出るから大抵は外で焼いているとのことだ。これはこれで干物が売れるようになったら需要が高まるかもしれない。


「ハルト、火はこれぐらいをキープすればよいのだな」


 火の調節はクロエにお任せして中火をキープしてもらう。何とも贅沢な『火の賢者』の無駄使いともいえる。


 旨味成分を逃がさないように先に身の方から少し焼いていき、次に皮面の方をじっくりと焼いていく。こうして旨味をしっかり閉じ込めていくことでミネラルたっぷりの焼き魚が完成する。アストラルでも様々な調味料はあるようだが、庶民的な感覚からすると異常に高い。干物の良い所は味や旨味がしっかり素材に染み込んでいる為、そのまま食卓に乗せることができるのが大きな利点ともいえる。主婦目線から見れば焼くだけでいいのだからありがたいはずだ。調味料の削減にも繋がるし、何より単純に美味しい。ヴイーヴルの目線も鋭さが増している。


「とても香ばしい匂いで食欲をそそりますね。乾いた身がこんなにもふっくらな身に焼き上がるとは驚きました。これは、海水の塩分が良い調味料となっているのですね」


 旨味成分をしっかり閉じ込め、魚の脂も逃がさないよう焼き上げれば完成だ。網から外して身を軽くほぐしていくとその身のふっくらさがよくわかる。先に一口頂いて具合を確かめてみるがこれは間違いない。旨味が凝縮されている。久々に食べる干物の味は、このままずっと食べ続けられる自信がある。塩分大事!


「ちょっと! ハルトだけズルいじゃない。早く私にも食べさせてよ!」


「ごめんごめん。みんなもどうぞ食べてみてください。これが干物の焼き魚だよ」


 全員が既に匂いでやられている。食べたらもっとびっくりするだろう。


「ハルト君、味付けを一切していないのに、こんなにも美味しいなんて驚愕ですよ!」

「美味しいっ! とっても美味しいわ! そして、これは売れるわね!」

「身がとてもやわらかいし、味もしっかりとしている。これは孤児院の子供達も喜びそうだな!」

「魚がこんなにも美味しくなるなんて、こりゃ驚きだ! 今まで食べた魚料理の中でも抜群の美味しさだぞ」

「しかも10日ぐらい日持ちがするというのですね。素晴らしい! さすが異世界の知識なのですね。アリー、どうやら干物に関しては魚料理を解禁としましょう!」


「やったわ! というか、ヴィーもただ干物が食べたいだけよね!」


「ブルーノさん、干物製造はカイラルでしか出来ないことです。生産量が増えれば、リンカスターやハープナ、王都へも輸出が可能になります。輸出に関しては今後、ケオーラ商会がルートを作っていくはずなので一緒に運んでもらえると思います」


「こ、これを俺たちが作っていいのか?」


「勿論、ただでという訳にはいきません。条件をいうのであれば、売上の一部をリンカスターに税金として納めてもらいたいのです」


「それだけでいいのか? それならば喜んでやらせてほしい! すぐに周りの連中にも声を掛けて進めさせてもらいたい。で、税金の相談はどうすればいい?」


「近いうちにリンカスターから、ブルーノさんのところに打ち合わせに行くよう伝えておきますね」


「了解した!」


「ハルトって意外とリンカスターに義理堅いのね」


「僕を助けてくれたクロエがいるとてもお世話になっている街だからね。知っている人も多いし、孤児院のみんなやマリエールさんも暮らしている。そりゃあ贔屓はしちゃうよね」


「ヴィー、ハープナも負けてられないわよ」


「そうみたいですね。焼き魚を焼くその器具ですが、早速ハープナで量産させましょう」


「その手があったわね! 新しい商業都市としての道が開けそうだわ!」


 リンカスターに続き、カイラルにおいてもコバンザメ戦法を貫こうとするあたりとてもたくましい。ハープナは宗教都市としてのイメージが強かったのだけど、トップの判断が早く、それに伴い信者も真っ直ぐについて行くから結果を出すのが早い気がする。ヴイーヴルとアリエスでそろそろハープナを乗っ取れると思うんだけど、その辺りどうなのだろうか。というか、ハープナの領主様と神殿の関係性が気になる。


 その日行った試食会でも、抜群の手応えを感じたアリエスはすぐに網焼き器具製作の打ち合わせをヴイーヴルと進めていた。ブルーノさんも試食の反響が大きかったようですぐに漁師仲間から協力を得られたとのことだった。リンカスタービールに続いて干物も売れるようになれば全体的に経済が良い方向に回り始めるだろう。

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エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
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[一言] みりん干しは出来ないのか~
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