第八十七話 魚泥棒
翌朝、干物の乾き具合をチェックしようとブルーノさんの家へと向かったのだけど、何やらブルーノさんとロカが喧嘩をしているようだった。そして目の前には食い散らかされた干物……。
「ブルーノさん、これは一体どうしたのですか?」
「やられちまった。ネコ達には充分にご飯を与えていたつもりだったんだが、まさか商品を荒らされるとは思わなかったぜ。コイツらは商品には手をつけないと思っていたんだがな……」
みっちり怒られた様子のロカも興奮冷めやらぬ様子でシャーシャーと周囲を威嚇している。地面に落ちている干物と空を眺めては、たまにチラッと僕達を見てくる。何か訴えているように感じられなくもない。こんな時にネコ語がわかれば話を聞いてあげられるんだけどね。ネコ語……。
その時、僕のお腹の中にいたベリちゃんが顔を出すと、ロカの元へと歩いていった。
「キュィ」
「ナァー」
「キュィ、キュィ」
「ナァァァ」
ベリちゃんがロカに話し掛けると、ロカが体を使いながら頑張って説明をしている。
「おい兄ちゃん。こいつらは、一体何をしているんでい?」
「ブルーノさん、どうやらうちのベリちゃんがロカの言い分を聞いているようです。ひょっとしたら何かわかるかもしれませんので、とりあえず様子を見てみましょう」
「兄ちゃん、ネコ語がわかるのか!?」
「僕はわからないですけど、そこのヴィーさんならベリちゃんの言いたいことが何となく理解できますのでロカの言いたいことも伝わってくるのではないかと思いますよ」
「そ、そうなのか」
「それに一応、僕たちが借りている家の中で干していた干物もありますので今日試食する分は確保できます。ひとまずご安心ください」
ベリちゃんとロカの話し合いは長く続いているが、どうやらロカが新たな証人を召喚したようだ。キジトラのネコがベリちゃんに近づいて追加の説明をしているようだ。
「キュィ」
ドラゴン語とネコ語が入り交じる中、どのように会話が成されているのかよくわからないのだけど、この場にヴイーヴルがいてくれて助かった。
「ヴィーさん、通訳をお願いしてもいいかな?」
「さっきから話に出てくるヴィーさんとは私のことだったのですね。わかりました。えーっとですね、ロカとミケはですね、あっ、ミケというのはキジトラの子です」
「キジトラなのにミケ!」
「それで、その2匹が嗅いだことのない豊潤な香りに誘われて干物の台に来たところ、既に荒らされていたそうなのです」
「ということは犯人を見てないの?」
「ミケが言うには現場には白い毛が落ちていた。これは我々の体毛とは違う種類だと言ってます。そしてロカはブルーノさんに犯人扱いされて、とても心外だと言ってます。我々は犯人に先を越されたのであって、まだやってないと」
「それ、やる気まんまんだよね!」
先程からロカが空を見上げているのだが、ひょっとして犯人は奴等なのか。
「カモメですね。この白い毛は羽毛のようです」
そういってヴイーヴルは落ちている羽を拾ってみせた。やはりそうか。さっきから少し離れた場所でカモメがこちらの様子を窺いながら周回しているのだ。
「兄ちゃん、つまりロカ達が犯人ではなかったというのか。すまねぇ、悪かったと伝えてもらえるか?」
「ロカ達も干物を明らかに狙っていた訳だから、別に謝る必要もないんじゃないかな」
「食べてないのに怒られたらロカも怒るだろ。明日は魚多めにあげるから許してくれと伝えてもらえるかい?」
「ヴィーさん、お願いできる?」
「えぇ、ちゃんと伝えておきますので明日は忘れずにお願いしますね。それから干物をご所望だそうです」
ロカとミケがブルーノさんに尻尾を立ててスリスリとし始めた。何とも現金なネコではあるが、とてもわかりやすいネコだ。それにしてもカモメ対策かぁ、困ったなぁ。
「干物は塩分が強いからロカ達には毒だよ。残念だけど今まで通り生魚で勘弁してもらえるかな」
ロカとミケが明らかに狼狽している。相当なダメージを負ったようだ。
「匂いを嗅ぐだけなら大丈夫か? と聞いてますが」
「もちろん大丈夫だけど、我慢出来るの?」
「そういうことならば、カモメからこの豊潤な香りの魚を守る手伝いを我々でやってみせると言ってます。我々はこの匂いだけで満足してみせるとのことです。この匂いとよりそってみせる! だそうです」
「それはありがたいね。じゃあ早速、今日からお願い出来るかな」
あっさりとカモメ対策が決まってしまった。この際、何故ドラゴンとネコが会話できるのかについては気にしない方向でいこう。通じているならそれでいいのだ。ネコ達は数も多いし、ローテーションを組んで対処してくれるだろうし、これでカモメ達も迂闊には近寄れないはずだ。
しかしながら、ネコの1日の平均睡眠時間を考えた時に若干心配になるが、最初から上手くいく訳ではない。普通にロカ達が裏切る可能性も無くはないだろう。流石にベリちゃんに心酔しているロカ達が裏切ることはちょっと考えられないけど、熟成された美味しい匂いは強烈なはずだからね。まぁ、今後は干物台を少し工夫していくとか、その辺りは今後運用していくブルーノさん達が考えていけばいいことだ。
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