第八十二話 終結
「ローランド! 左からも来ているわ!」
「っくぅ、了解です! アリエス様、これでしばらく時間が稼げるでしょう! 少し下がってくださいっ」
持っている盾は歪み、爪跡で抉れている。激動のような攻撃をなんとか凌ぎきり、少し間延びしたせいか一息つけそうだった。
ハルト達がイシュメルを追い掛けていった後、シーデーモンをひきつけながら洞窟内に誘導するのにかなりの体力を奪われていた。
しかしながら2人の付き合いの長さからか、アリエスの指示のもとローランドが防御と攻撃を行い、回復役をアリエスが担うことでなんとか耐えていた。
盾役のローランドがいたから。更に言えば早めに狭い洞窟内に移動したことが、2人を生き残らせていた。
「ちょ、ちょっと、きりがないわね……。魔力回復薬を大量に持っていて、本当に助かったというか運が良かったわ。あと、このステータス表示があるから回復を効率よく出来るのはありがたいわね。HPゲージ半分ぐらいまでは我慢してもらうわよ。それにしてもハルトは大丈夫かしら?」
「い、今は、ここを乗り切ることを考えましょう! 数は減ったといってもまだ半数は残っています」
「そ、そうね。早速3体来るわよ!」
「はっ!」
後方では、けたたましい魔法の爆裂音が鳴り響いている。イシュメルとジャミルを相手に戦っているのだろう。早くここを片付けて向かってあげたいところだが難しそうだ。まだ大量のシーデーモンが狭い洞窟をところ狭しと溢れている。ん? 溢れている?
「ローランド! ひょっとして今なら奴ら魔法避けられないんじゃない?」
「えっ? あれっ? い、いけそうですね!」
「迷っている場合ではないわね。ローランド、もう少し引きつけるわよ」
「かしこまりました!」
岩塊
アリエスが撃った魔法は土属性の小範囲魔法。洞窟の通路と殆ど変わらない大きさの岩の塊を勢いよく射出した。洞窟内で固まっていたシーデーモンはその魔法を避けることなど出来ない。魔法攻撃を受けたシーデーモンの多くは3度目の攻撃により消滅。2度目の攻撃だった者は、怒り狂ったように最強の姿に変わって飛び出してくる。
「ローランド堪えるのよっ!」
2体、3体と襲い掛かる最終形態のシーデーモンに、その大きな盾に遂にひびが入ってしまう。
「アリエス様、もう、げ、限界です……」
「ご苦労様。もういいわ」
盾を投げ捨て、後ろに飛び去るようにして下がるローランドと入れ替わるようにして、杖を構えたアリエスが魔法を撃った。
部屋の近くまで飛んでいった岩の塊は、その役割を果たしかのように霧散して消えていった。
「こ、これで、かなりの数を倒せたわよね」
「盾を持っていた左腕がパンパンです。アリエス様、出来れば回復をお願いしてもよろしいでしょうか」
「そ、そうね。HPだけだと疲労度までは判断できないものね。今のうちに態勢を整えておかないと。まだ、あいつら残っているものね……」
大地の恵
洞窟の奥からは濃い藍色のゆらゆらと動くシーデーモンの姿が見えている。今の内に戦線を押し戻そうか……。
「アリエス様、盾が使い物にならなくなりましたので、ここで迎え撃った方が安全かと思われますが」
「そうね。でも地上側の入口から抜けられてハルト達が挟撃されることは避けなければならないわ。ここは多少無理しても戦線を押し上げるわよ」
「流石アリエス様です。ローランドが全力でお守り致します」
「では、行くわよ」
「はい、ストーップ!! 2人とも無理しなくていいよ。残りはじっくりみっちり逃さずに、まるっと掃討するよ」
防御上昇×2
「ハルト!」
「ハルト君!」
「イシュメル達は倒した。クロエも無事だよ。反対側の入口はベリちゃんが回り込んでいるから僕達も大部屋の方にシーデーモンを倒しながら向かうよ」
「全員無事なのね?」
「うん。もう少しで終わりだよ」
「ローランド、ステータス表示はどうなっている?」
「どうやら普通のハルト君で間違いないようですね」
「つまり?」
「あと少しで終結かと」
「よし、シーデーモンの弱点を発表するわ。奴らの弱点は光魔法よ! 最終形態から第2段階に戻すことも出来るわ。そもそも最初から光魔法を使っていれば楽に勝てたわ」
「いや、光魔法って言われても。アリエス使えるの?」
「私は『地の賢者』よ。土属性の魔法以外使える訳ないじゃない」
「ち、ちなみにローランドさんは?」
「勿論使えませんよ」
「誰も使えないんじゃないか! そんなの発表されても意味ないって!」
「今後の対策としてギルドに伝えれば助かる人も増えるはずよ。今はハルトとベリちゃんがいるからいいじゃない。さぁ、行くわよ。ほらっ、ローランドが先頭ね」
「あ、あの、盾がもうないのですが……」
「大丈夫よ。それだけピカピカに光ってるんだから問題ないわ」
「それを言うならアリエス様もピカピカに……」
「うるさいわね。文句あるの?」
「い、いえ、ですよねー。はぁ。ベリル様がお待ちでしょうし、我々も向かいましょうか」
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