第八十話 想い
「ローランド、ここは任せますよ! アリエスも何とか耐えなさい。私はあの子達を追います」
「任されました」
「頼むわよ!」
ヴイーヴルもハルトを追うように狭い洞窟を進めるようヒト型へと姿を変え走っていく。
そして、目の前にはまだ多くのシーデーモン。しかも強化された個体が殆んどである。
「ベリちゃんが幾らか消滅させてくれたけど、数的にはまだ厳しいと言わざるを得ない状況よね」
「そうですね。私達も狭い洞窟の方で対処した方がいいでしょう。この広場だと時間の問題でやられそうです」
「随分と弱気なのね」
「それがですね、ハルト君とベリル様の後ろ姿を見たせいか、何気に気合いが入っております」
「あらっ、気が合うわね。私も気合いが漲っているわ。ローランド、シーデーモンを引き付けながら洞窟で倒すわよ!」
「かしこまりました。一体たりともハルト君達のいる方へは行かせません」
◇◇◇◆◆
全速力で来た道を戻っていく。少しでも早く戻るんだ。奴らの姿が見えたら魂浄化を撃ち込む。いや、この魔法は邪なる者にしか効き目のない魔法。見えなくてもいい。MPは満タンに近いんだ。ならばこっからでもガンガン撃っていく!
「届けぇぇぇぇぇ!!!!!! 魂浄化!」
走りながら何度も撃つ。魔力回復薬を飲みながら、また何度も撃つ。何度も何度も繰り返す。
間に合え! どうか無事でいてクロエ!
最早、洞窟の中は明かりが必要ないぐらいに魂浄化の魔法で光り輝いていた。そして気が付いた時には、洞窟の先が見えないくらいに真っ白になっている。走っていても地面が見えないため躓いてしまう。盛大に転びながらも、すぐに起き上がりまた走ろうとする。
「ハルト! 少しは落ち着きなさい。これでは何も見えないじゃないですか」
ヒト型の姿に戻ったヴイーヴルが追い掛けてきたようだ。肩に手を掛けられて、はじめて気がついた。
「そ、そうだけど。で、でも急がないと!」
「そうですね。この狭い洞窟の中でこの魔法の使用方法としては素晴らしく効果的な運用に思えます。でも先が見えなくなるまでやるのはどうかと思いますよ」
「ご、ごめんなさい」
その時、舟のある方向から大きな爆発音が響いてきた。
「ヴイーヴル!」
そして続けて聞こえてきたのは、ジャミルと思われる叫び声だった。
「ひ、ひゃあ、あ、足が、足が動かねぇ!! イ、イシュメル! た、助けてくれぇ」
「残念ですが、あなたはもう消滅してしまうようですね。せめて最期に、この靄を風の魔法で散らしてもらいたかったところですが……もう無理そうですか」
「ひぃ、ひぃやぁぁぁ!!!! イシュ、イシュメルぅぅ、お、おり、おれ、俺を、たぁ、助けろぅぉぉ……」
僕とヴイーヴルが舟を止めてある場所に辿り着いた時には、ジャミルの体は次々に折り畳められるように小さくなっていき、ブラックホールに吸い込まれるようにして光の中へと消えていくところだった。
「クロエ、大丈夫! なっ!?」
「ハ、ハルトか! 他のみんなは? 無事なのか?」
頭から血が滴り落ちるように火傷を負っているクロエは、目を閉じており声だけで判断しているようだった。そして、イシュメルに無理やり立たされるように後ろから羽交い絞めにされ、その首にはナイフを突きつけられていた。
「クロエ、いつ喋っていいと言いましたか? 海の方からもあの魔法が来ていますね。すぐにこの魔法の欠点を教えなさい。早く教えないと本当に殺しますよ」
どうやらベリちゃんも僕と同じ考えだったようで海側から魔法を放っていたようだ。舟の反対側からイシュメルとクロエを見ながら飛んできている。
「私を殺せば、盾を失ったあなたもすぐに消滅するでしょう。あ、あなたは、イシュメル様はもう死んでいるのです。死者を操るなど許されることと思うな悪魔よ」
「勝手に喋るなと言っているでしょう」
そう言うと、首にあてていたナイフを脅しのように薄くスライドしていく。クロエの首筋からは線を引くように血が滲んでいる。
「ぐっ……」
舟を囲い込むようにして白い靄が包み込もうとしているが、イシュメルがその靄を近づかせないように魔法を放って霧散させていた。
「や、やめろ!」
「キュィー!!」
「ちっ、そこの少年! 私を見逃してくれるのであればクロエの命は助けましょう。しかしながら、これ以上その魔法を撃つようならこのナイフをクロエに突き刺しますよ。そこの小さなドラゴンにも言い聞かせるのです!」
「クロエを離すのが先だ!」
「駄目です。私がこの舟で洞窟を出るまではクロエは人質です。洞窟を出たら解放しましょう」
「そんな話を信じろとでも?」
「あなた達には選択肢はないのです。クロエを殺されても構わないのなら別ですけどね」
ヴイーヴルがイシュメルに聞こえないように小さな声で後ろから僕に話し掛けてきた。
「……ハルト。こちらを見ずに聞いてください。いいですか? ハルトの……」
な、なるほど、今の状況なら可能性が高そうだ。僕はヴイーヴルにだけわかるように後ろ手でサインを送った。
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