第八話 ワイルドボア
MPを消費するのは勿体ないけど、ここでゴブリンを燃やすことで大量のワイルドボアがやってくるのだと思われる。ならばやることは決まっている。
火球
さっきと同様に左の掌から勢いよく飛び出した魔法はゴブリンのお腹にめり込むと穴が開くぐらいに盛大に爆発した。首よりお腹の方が燃えやすいようだ。1回目なんだけど何度もごめんよ。
「さてと、あとは同じように木に登って隠れながら奴らが来るのを待つとするか」
暫くするとやはりというかゴブリンの焼けた匂いに釣られてやってきたワイルドボア御一行は同数の20頭やってきた。現在、グロいくらいにゴブリンを貪り食っている。仲間内でゴブ肉を取り合って喧嘩しているくらいにプギープギーと食事に夢中だ。やるなら今だろう。
火球! 火球!
どうだ! 煙がとれると2頭のワイルドボアが倒れていた。効果は抜群だ、いけるぞ!
火球! 火球!
倒れたワイルドボアから光が飛び出し、僕の胸に吸い込まれるように飛び込んでくる。よし、倒せている。
トクンッ
体が熱くなる。体中を熱いものが駆けめぐっている。力がみなぎってくる。レベルが上がった! よし、これでMPは全回復しているはずだ。
でも、今は確認しているは暇はない。僕の攻撃に気がついたワイルドボアが木の上にいる僕を血ばしった目で見上げている。これ木とか奴らの牙で簡単に切り倒されるな……。
近い奴から魔法で倒していってどうしようもなくなったら飛び降りよう。レベルが上がってMPがまた10増えていたら30になっているはず。つまり今なら火球が10回は撃てるはず。それに力も上がっているはずだから自然に相棒の攻撃力も上がっているだろう。
木に近づいて来ようとするワイルドボアの頭を狙って魔法を撃っていくが、さすがにワイルドなイノシシだけあって魔法を避けられてしまった。避けられた火球は、たまたま後ろにいたワイルドボアの後ろ足にヒットして倒れてくれたのはラッキーとしかいいようがない。
「おっ、運がいいな……」
ま、まさか! 運ってこんな程度なのか!? そ、そんな訳ないよね。もっと僕の運はこれから活躍してくれるはずだよね!?
「それにしても不味いな……。食事中の奇襲は成功したけど、今は完全にロックオンされちゃってるもんね。どうしたものか」
僕の魔法を警戒しながらゆっくりと木を囲み始めようと動いている。意外に賢いイノシシでもある。僕も隙をついて魔法攻撃を何度か加えて、一進一退の攻防を繰り広げている。
火球! 火球!
我慢出来なかった若いワイルドボアだろうか。一気に距離を詰めて木に体当たりしようと向かってくる2頭を魔法で弾き飛ばした。やはりイノシシはわかりやすく猪突猛進できてもらわないと困る。
「よしっ! この感じで近づいてくるまでじっくりいこう」
しかも突っ込んできたワイルドボアがいい具合に木の手前でファイヤーしてくれているので簡易的なバリケードになってくれている。そしてとても香ばしい香りが辺りを包む。
ぐぅぅぅー
お腹が空いてきたじゃないか! ワイルドにいい匂いを漂わせやがって、このままでは黒焦げになってしまうけど数はまだまだいっぱい残っている。
川で水飲みながらかぶりつきたい。血抜きして香草とかで包んで焼いたら最高なんだろうな! 誰かお願いだからナイフか包丁を貸してください。
そんなことを考えていたらワイルドボアが動き始めた。火を避けるように左側に回り込むのが2頭、右側からは3頭。一気に走り出してくる!
「甘いな! 木の上からは丸見えなんだよ」
数の多い右側から潰していく。これだけ近くまでくれば外さない。3頭を敢えなく撃沈させると左側へ2発の火球!
トクンッ
よっしっ! レベルアップだ! 新しい知識が頭に刻みこまれる。うぉぉぉ、これは新魔法来たぁぁぁ! とはいえ、今は確認している時間はない。ワイルドボアが丸焦げになる前に倒そう。
前を向き直して様子を伺おうとした時、ものすごい音とともに激しい振動が襲ってきた。辛うじて落ちずに済んだが、下には涎を垂らしているワイルドボアが2頭待ち構えていた。慌てて魔法を撃とう思ったのたが、ゆっくりと傾き始めた木はとうとう倒れ始めてしまった。
「すでに回り込んでいたワイルドボアがいたのか!?」
僕は木の棒を一本だけ右手に持つと木から飛び降りた。ここからは混戦、乱戦だ。気合いを入れていこうか。
どこか落ち着いていられるのはロードでやり直しが出来るのもあるけど、自分の力が強まっているのを肌で感じているからだろう。結構な高さから飛び降りたはずだけど足はまったくといっていいほど痛みを感じていない。もっとジンジンしてもいい高さなはず。レベルアップの恩恵で体が頑丈になっている。
「木の棒だけでいけてしまうかもしれない……。まぁ、そんな危なっかしいことはしないけどね! 火球! 火球! 火球!」
木から飛び降りると同時に下にいた涎まみれで口の汚いワイルドボアを吹っ飛ばした。
それにしても、食べられる側の気持ちがこんなにも気持ちの悪いものだとは知らなかったよ。
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