第七十八話 巣窟
カイラルの港から小舟を出して間もなくベリちゃんが発見した洞窟が見えてきた。僕のマップ機能には死ぬ前に来ていた場所であるにも拘わらず、しっかりと洞窟までのマッピングが完了されている。これは、ある程度予想の範囲内であり、リンカスター周辺のマップがちゃんと見られたことから洞窟周辺はもちろんのこと、洞窟内のマッピングも出来ているのではと思っていたのだ。
そして今回、舟の操縦をしているのはクロエだ。一時的に僕の豆扱いが解除されている。
「ハルト、ここまでは魔物も出ずに順調だな。あの洞窟の奥にシーデーモンとイシュメル様がいるのか」
「うん。あと、ジャミルもね」
洞窟の中へとクロエの操縦で入っていく。マップ機能は洞窟内の表示に切り替わり、最奥までのルートを表示させている。分岐の道はなく他にシーデーモンが潜んでいそうな部屋はなさそうだ。
「ハルト、洞窟内の地図も大丈夫そうですか?」
「うん、予想通りだね。奥にある部屋以外には分岐も部屋もないみたい。広さは……結構あるね。奥行が100メートルで幅が40メートルといった感じかな。反対側にも出入り口があるようだよ。これはおそらく地上と繋がってそうだね」
「イシュメルやジャミルがいるのに洞窟側の入り口に痕跡が残っていなかったことからおかしいと思っていました。ここまでは予想通りですね。地上にある入口にはベリルにまわってもらいます」
「キュィ」
「ベリルは入口に到着したらそのまま待機していてくれますか。私たちが突入したのを確認したら静かに入って天井に張り付くようにして上から狙っていってください。最初に狙うのはジャミルです」
「キュィ!」
大丈夫だろうか。一人で買い物に向かわせるお母さんの心境だ。結構大事な役を任されているので余計に心配になってしまう。しかしながらベリちゃんを見ていると、とても凛々しい表情をしているので、ここは是非とも頑張ってもらいたいところである。
さて、念のためセーブしておこうか。
「ベリちゃん頑張ってね!」
「ベリちゃん無理はしないでいいのだからな。自分の出来る範囲で頑張ればいい」
「キューィ」
いい返事をしてベリちゃんはヴイーヴルの指示通り洞窟を出て外側にある入口の方へと向かっていった。僕たちも行こう。
「クロエ、じゃあ行ってくるね」
「うむ、ハルトも気をつけるのだぞ」
クロエは予定通り舟で待機になった。イシュメルさんに攻撃しづらく思っているクロエは最初に狙われてしまうだろうし、イシュメルさんもそこをついてくるはずだ。そもそもシーデーモンには魔法攻撃が悪手だし、お留守番もしょうがないだろう。
「では参りましょう」
足音に注意しながらゆっくりと洞窟の奥へと向かっていく。前回も奥の部屋に行くまでは気付かれなかったので大丈夫だとは思う。
先頭を歩くヴイーヴルはヒト型のまま進んでいく。最奥の部屋の天井高さによってはドラゴンになるかならないか決めるとのことだ。
「もうそろそろですよ」
突き当たりから明かりが漏れているのが見えてきた。あの時と変わらない光景だ。上手くいくだろうか……。不安はあるが、今回に限ってはこちらが攻める番だ。仲間を信じて自分の仕事に徹するのみ。
「ハルト君、準備はいいかな?」
「はい、大丈夫です」
「では、行きますよ!」
部屋を覗くローランドさんから合図が送られる。最初に飛び込むのは僕とローランドさん。
魂浄化×10
見える範囲全てに魔法を叩きこむ。ローランドさんは入口付近にいるシーデーモンを付与魔法で片付けながら僕を守ってくれている。
「て、テメー、賢者の仲間とか言ってる新入りか!?」
声のする方角にはジャミルとイシュメルと思われる人がこちらを訝しげに見ていた。あれが最強と云われていた賢者。すかさず、魔法を撃っていく。
魂浄化×3
二人を守るようにして盾となったシーデーモンが消滅していく。
「消滅した!? 何ですかこの魔法は? 光の魔法? いや、違いますね。厄介な魔法ですね」
「あんな真っ正面から来る魔法なんて足の悪い俺でも避けられるぜ!」
見えるように撃ったのはわざとだ。僕を警戒させておいて、後ろが疎かになっている。僕の目線の先にはベリちゃんがスタンバイ完了していた。
既に天井に貼り付くようにして口を大きく開けている。
「しかも、陸側の入口からも侵入者ですか。何故この場所がわかったのでしょうね」
前を向いたままイシュメルは天井に貼り付くようにして攻撃体勢をとっていたベリちゃんを魔法で撃ち抜いていた。
「なっ!?」
攻撃を予想していなかったベリちゃんは、イシュメルの魔法で撃ち抜かれるとそのまま力なく地面へと落ちていった。
「うおぉ! 後ろにもいたのかよ。危ねぇーな。流石はイシュメルだぜ」
「目線でバレバレです。駆け出しの冒険者ですか?」
ぼ、僕のせいだ。僕が目線を上に向けたせいでベリちゃんが……。
「アリエス、すぐに回復魔法を。ハルト、しっかりなさい。まだ始まったばかりですよ」
僕を後ろに下げるようにして、ドラゴンの姿に戻ったヴイーヴルがイシュメルの前に立ち塞がった。
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