第七十二話 鉄壁の防御
「私はどちらかと言うと防御型タイプなので、まともに戦ってもイシュメルには勝てないでしょう」
「ヴイーヴルでも勝てないって……それじゃあどうするの？」
「そこで、ハルトの魔法の出番です」
「僕の？」
「はい、新しく覚えるという防御魔法です。ハルト、今回の戦いで一番相手にやられてはならないことは何ですか？」
「えーっと、先代の賢者様に広範囲魔法を撃たれること？」
「えぇ、その通りです。私の体はかなり頑丈に出来ているので、多少なら広範囲魔法にも耐えられます。しかもその後、自動回復もするのでハルトの魔法と組み合わせることで何の問題もなくなるのです。今回の新魔法は、確率で発動する魔法ではないのですよね？」
「そうですね。魔力が続く限り大丈夫です」
というか、自動回復とか何て羨ましい。強力な敵が持ってたら一番厄介なのが自動回復だと思うんだよね。そして、僕はそういう魔法を早く覚えたい。
「ならば、広範囲魔法が続いている間、私にその魔法をかけ続けてください。そして効果が切れる度にかけ直すのです。そうすれば私がみなを守れるでしょう。そうですね、その間、アリエスはハルトの側で魔力回復薬を飲ませ続けてください」
えっ？ またしてもタプタプ地獄の予感。
「どんな魔法を撃たれてもヴイーヴルが居れば防御できてしまうのね！ パッとしない、ちょっと恥ずかしい魔法だと思ってたのに、相変わらずのインチキ魔法ね！ これで無敵じゃないの！」
「ヴイーヴルが居たらでしょ。いつも居てくれる訳じゃないんだから」
「しかし、今回に関していえば守りは固いな。次は攻撃をどう加えるかだな。ヴイーヴル殿、私の役目がまだないようだが、どうすればよいのだろうか？」
「クロエは残念ながら待機です。先程話したように今回の戦いにおいて私達の弱点は間違いなくクロエになります。この戦いに限っては舟で留守番をしていてください。舟の運転もクロエでお願いします」
やはり、舟の運転はマメ扱い。普段の自分の境遇が目に染みるよ……。
「そ、そうなのか……。い、いや、しょうがあるまい……」
クロエが若干寂しげだけど、これはヴイーヴルの優しさでもあると思うんだ。ジャミルは別として、近しい人と戦うのはやはり抵抗があるだろう。無理に戦う必要はないし、嫌な思いをすることもないのだ。
「イシュメルの魔法を私とハルトの防御魔法で押さえます。押さえている間にローランドとベリルにはジャミルは勿論、シーデーモンを片付けてもらいます」
「かしこまりました」
「ローランド、ベリちゃんの足を引っ張らないようにするのよ」
「お、お任せください」
「そして最後は、全員でイシュメルを倒します。いくらイシュメルといっても魔法を封じられては勝機も薄いでしょう」
「完璧な作戦ですね。話を聞いてるだけでいけそうな気がしてきました」
「そうですか？ 正直相手は強いですよ。もう少し策が必要でしょう。それから、明日はマウオラ大森林へ行きます。あまり好ましいことではないのは理解しているのですが、ハルトのレベリングを行いたいと思っています」
「レ、レベリングですか？ それって魔物を仕留めるところを全て僕がやるってこと？」
「そうです。今回の戦いではハルト防御魔法が一つのポイントになります。早めにレベルを上げて魔法を見てみたいといのもあります」
「確かにそうですね」
「明後日の朝までにはカイラルに到着していた方がいいでしょう。なるべく同じ時間に洞窟へ向かうべきでしょうからね。それまでに１つか２つ更にレベルを上げてもらいたいのです」
「新しい面白魔法を覚えるかもしれないものね。いい案だわ」
「私も当日役に立てない分、ハルトのために最大限手を尽くそう」
「他にも話を詰めていくとして、ひとまず食事をしながら続きの策を練りましょう。ベリルは採寸があるのでしたね。ローランド、隣の部屋へ連れて行きなさい」
「はっ、よろこんで！」
「それから、時間が勿体ないので明日からの移動は私の背中に乗ってもらいますね」
ハルト「えぇっ！」
アリエス「乗れるの？」
クロエ「お、落ちないのか」
ローランド「素晴らしい！」
「キュィ！」
「馬車は神官達にカイラルへ運んでおいてもらいましょう。それでは食事にしましょうか。私はボア肉のステーキをジンジャーソースで頂きます」
「ヴイーヴル、ちょっと待って。私、背中に乗れるとか聞いたことがないんだけど本当に大丈夫なの？」
「神官達にライド用に皮製の補助具を作らせておいたから大丈夫ですよ。まだ試してはいないのですけどね。ふふふっ」
ふふふっ、じゃないって危ないでしょ。
「まだ試してないって、全然大丈夫じゃないじゃない！」
「あらっ、アリエスの信頼厚い神官達のお手製ですよ。それに、大丈夫だから心配しなくてもいいですよ。４人乗り用なので、ベリルは誰かが抱っこしてくださいね」
「本当に安全なの？」
「万が一の場合でも、ハルトがロードしてくれるから安心でしょ？」
「それ、確実に誰か死んでるからっ！」
「ゆっくり低く飛ぶから、そんな不安な顔しないで大丈夫です」
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