第七十一話 ヴイーヴル出陣
「ローランド、実はあなたに殺されたという被害者がロードして戻って来たようなのです」
ちょっ、ヴイーヴル、聞き方がストレート過ぎるって。
「ローランド、いくらハルトとはいえ、人を殺すのはよくないわよ」
おい、アリエス! お前は隠すつもりが全くないだろっ。
「なるほど、私はハルト君殺しの容疑者になってしまったのですね」
僕の顔を見ながら少し戸惑うような困ったような表情を浮かべるローランドさん。どうやら本当に心当たりがないようだ。
「動機はそうだな……ハルトさえいなくなれば、ベリちゃんの興味が少しでも自分に向くのではと思った。という感じで、どうであろう」
どうであろうじゃないよ。クロエまで面白がっているな。さっきまで先代の賢者様のことでかなり動揺しているように思えたけど、少しは落ち着いてきたようで安心したよチクショー。
「困りましたね。全く身に覚えがありません。状況を詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?」
改めて僕の方からローランドさんに説明をさせてもらった。こうして話を聞いてくれているローランドさんはいつも通りで、あの時僕の首を飛ばした時とも何も変わらない。僕の言葉だけでなく、ヴイーヴルも自分の考えを踏まえて補足をしてくれた。
「少しショックではありますが、短時間の間に私はシーデーモンに操られ、ハルト君に襲い掛かった可能性があるのですね」
「あくまでも可能性の話ではあるが、そう考えないと納得が出来ない部分も多い」
「舟を出す準備をするのに約10分。ローランド、イシュメル様に負けるの早すぎよ」
「私自身もレベル41のパラディンとしてそれなりに防御には自信を持っていたのですが、やはり賢者のレベル45というのは次元が違うということなのでしょうね」
「ベリちゃんが人質にとられていた可能性もあるだろう。ハルト、ローランド殿に火魔法で攻撃されたような痕跡はなかったのだよな?」
「そうだね。見た目には痕跡はなかったと思うし、洞窟で大きな魔法の音は聞こえなかったはずだよ」
「クロエ、火魔法で派手な音のしない強力な魔法とかあったかしら?」
「火魔法で地味な魔法はないな。上級な魔法ほどド派手になっていく。私はまだ広範囲魔法を覚えていないが、それは物凄く豪快な魔法だと聞いている」
「魔法を使わないイシュメル様に10分以内に敗れるローランド」
「あ、あの、アリエス様、地味に傷つくのですが……」
「そうなると、クロエが話していたように、ベリルを人質にとられていた可能性が強そうですね。あと考えられるとしたらイシュメル殿が囮役となって、警戒させたところをジャミルやシーデーモンが取り押さえた可能性ですか……」
「そうして、10分以内に敗れるのね」
「い、いや、だからですねっ!」
「しかし、ジャミルやシーデーモンを相手にローランド殿が敗れるというのは想像しにくいな」
「次はベリちゃんの突撃を事前に防いで、こちらから仕掛ければまた違うかもしれないわね」
「ロードして戻ってきたんだから、次はこちらから仕掛けられます。問答無用に魂浄化を撃っていけば勝てるんじゃないかな」
「そうですね……。最終的にはハルトとベリルの魔法に頼ることになるでしょう。しかしながら、敵には最強と云われた賢者イシュメルがいます。油断は出来ないでしょう。ですので、ここは私も一緒に行こうと思うのですが」
「えっ! ヴイーヴル、神殿出ていいの?」
「これは緊急事態といっていいでしょう。それに1日や2日ぐらいなら、大丈夫な程にはこの地は回復をしています。クロエとアリエスは洞窟の入口で待機をしていてください。私とローランドでハルトとベリルを守りながら対処しましょう」
「私達だって戦えるわよ。ねぇ、クロエ」
「そ、そうだな。ハルトとベリちゃんが危険な目に合うというのに待っているだけという訳にはいかない」
「気持ちは嬉しいのですが、敵に狙われるだけでしょう。それにクロエは、イシュメルを攻撃出来るのですか? ローランドをあっさり片付けるような敵なのです。弱みはなるべく見せない方がいい」
「そ、それは……確かにそうかもしれないが」
「そもそも、洞窟内のような狭い場所で広範囲魔法を撃たれたら、そこで我々は全滅してしまいます。イシュメルを如何に早く押さえるかがキーとなるでしょう」
「押さえると言ってもねぇ。相手が相手なだけに何もいい案が浮かんでこないわね」
「広範囲魔法かぁ……。そういえば僕、次のレベルアップで防御魔法を覚えるんですよ。一応、魔法の防御も可能でしたよ。流石に広範囲魔法をどうこうできるレベルのものではないでしょうけどね」
「まさか! 面白魔法の方なの?」
「面白って、まぁ、そうだけど。5分ぐらいの間、身体を魔力の膜で覆うことで防御してくれるんだ。見た目にも分かりやすく、ピカピカと光っている間は効果が続いているんだけど、攻撃を受けたり、時間の経過で光が消えていくんだ」
「なんだか恥ずかしい魔法ね」
「い、いや、でも洞窟内では松明がいらないから便利なのではないだろうか」
「ハルト、ひょっとしたらその魔法使えるかもしれませんよ」
前にも聞いたような気がするクロエからのフォローをもらいながら、ヴイーヴルには何か妙案が浮かんでいるようだった。
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