第六十七話 先代の賢者
ベリちゃんの後を追い、洞窟の中へと舟を進めていくと、しばらくして砂地の浅瀬となりこれ以上舟は進めなくなった。
「まだ先に続いているのだな。舟を降りてここからは歩いて探索するしかないな」
「ハルトとローランドは舟が海へ流されないようにしっかり固定しておくのよ」
「うん、了解」
僕とローランドさんと近くの岩場にロープを結んで舟の碇も落としておくことにした。
ベリちゃんは早く早くとパタパタ飛び回っている。いつにも増してやる気なベリちゃんである。本当にこの先にシーデーモンが潜んでいるのだろうか……。
「私とクロエはシーデーモンが相手だと役に立たないから、先頭はベリちゃんとローランドで後方をハルトに任せるわ」
「というか、ベリちゃんは松明代わりなのだがな」
どうやら、洞窟は奥へ行くほど当然のように暗くなっており光はない。先頭のベリちゃんを定期的に防御上昇でピカらせながら僕らは奥へと進むことになった。
「本当にこの先にシーデーモンがいるのかな?」
「痕跡は見当たらなかったですね。とはいえ、この間の戦闘でもシーデーモンは海の上に浮かんでいましたから、足跡とかつきようがないですよね。これでは何とも判断出来ません」
ローランドさんの言うことはごもっともだ。シーデーモンは身体の実体がない魔物だった。唯一実体があるのは鋭い爪の部分だけだろう。
「魔法攻撃は止めておいたほうがいいだろう。私とアリエスで隙を作るから、ハルトとベリちゃんでどんどん消し去ってもらいたい。近くに来たシーデーモンはローランド殿に対処してもらおう」
「そうね。出来れば魔物の詳細を知りたいところではあるけど、危険を犯してまで調べることでもないわね」
洞窟はかなり奥まで続いているようで、既に10分近くは歩いている。分かれ道などはなく一本道だったのはラッキーだと言う他ないだろう。
「静かに! 奥から光が漏れてきている。あそこで行き止まりか」
洞窟の突き当たりに部屋のように見える入口が見え、そこから光が漏れ出していた。
僕達は、部屋の手前にある岩影に身を潜めて待機する。確認しに向かったのはローランドさんで、足音を立てないようにゆっくりと近づいて行き、部屋の様子を窺って戻ってくる。
しかしながらその様子がどうもおかしい。
「どうしたのローランド。何があったのよ?」
「シーデーモンの数はおおよそ50体です。……あと、人間が2人います。あれは、おそらくですが、ジャミル。あともう1人、最強と呼ばれていた『火の賢者』……いえ、先代の『火の賢者』イシュメル様がおられました」
「はあっ?」
「アリエス様、声が大きいです」
「シー!!」
「イ、イシュメル様が!? い、いや、イシュメル様は死んだはずだ。な、何故、こんなところで魔物と一緒にいるというのだ……」
全員が混乱していた。魔物と一緒に人がいる。しかもジャミルと亡くなったはずの先代の賢者様だという。
「あ、あのー、みなさんにお聞きしますが、もしも先代の賢者様が敵だったと仮定した場合、このパーティで勝てますか?」
「無理ですね。イシュメル様のレベルは、確か亡くなられた時で45でした。我々が束になってかかっても手に負える相手ではありません」
「イシュメル様にプリフィーソウルが有効な場合は……。いえ、これは不確かね。一旦撤退するしかないわね」
アリエスは、呆然と立ち尽くしているクロエを引っ張るようにして来た道を戻り始める。
その時だった。
「キュィー! キュィー!」
忘れていたわけではなかった。振り返った時には既にベリちゃんが部屋へ突撃をしようとしているところだった。
全員が混乱していて部屋に近づくベリちゃんを見ていなかった。最早その突撃を止めることは誰にも出来なかった。
「ベ、ベリル様! みなさんは先に逃げてください。ハルト君は舟をすぐ出せるように準備を。私はベリル様を回収した後、すぐに撤退します!」
そう言い残すと、ローランドさんは部屋へ向かって走り出した。
「ク、クロエ、何してるの! 早く行くよ!」
未だに呆然としているクロエをアリエスと挟みこむようにして手を引いていく。ベリちゃんのこともローランドさんのことも心配ではある。でも、今僕に出来ることは、ローランドさんがベリちゃんを連れて戻ってくるのを舟の上で待つことだ。
「ロープは私が外すからハルトは碇を!」
「了解!」
クロエを舟に乗せるとすぐに碇を上げる。そもそも浅瀬なのでそこまで時間は掛からない。洞窟の方を見るとすぐに足音が響いてくる。既にアリエスも舟に乗っているから、ローランドさんだったら舟を出発させるだけだ。僕は舟をいつでも動かせるようにしておく。
足音と共に現れたのはローランドさん。しかしながら、ベリちゃんの姿は見当たらない。
「ローランドさん! ベリちゃんは!?」
「あぁ、大丈夫です。そんなことを気にする必要はないのですから」
「えっ?」
舟に乗り込んできたローランドさんは真っ直ぐに僕の前まで来て、滑らかに最小限の動きで軽く大剣を振るい、僕の首をはね飛ばしていた。
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