第六十二話 ホワイトドラゴン
「何でしょうか?」
「いや、えーっとですね。そのベリちゃんのですね……」
「どうした、ハルト。はっきりしない物言いだな」
「いや、だからね。今更なんだけど、その、ベリちゃんの性別ってどっちなのかなぁーと……」
「何だ、そんなことか。女の子に決まっているだろう……えっ? ち、違うのか!?」
どうやらクロエはベリちゃんのことを女の子だと思って疑ってもいなかったようだ。二人してヴイーヴルの方を見てしまう。
「ふふふっ、そうですね。ベリルはどちらでもないのです」
「ま、まさか、ベリちゃんがそっち系だったとは予想外だわ。まぁ私としては、可愛い男の娘でもプリティーなレディでもどちらでも構わないのだけど」
おい、アリエス……。
「まだどちらに成るかわからないと申し上げた方がよかったですね。成体になる頃にはどちらになったのかわかることでしょう」
「そ、そうなのですか」
初期の人見知りベリちゃん。そして、レベルアップ後の少し活発になったベリちゃんを見ても微妙に変化はあった。次にレベルアップした時もまた変化があるのかもしれない。
「ヴイーヴル殿、ホワイトドラゴンという種族もヴイーヴル殿と同じようにヒトの姿に変身することが出来るのでしょうか?」
おー、クロエ。それはいい質問だね。
「おそらく出来ると思います。ほとんどのドラゴンはその成長過程で人化の術を使えるようになるはずです」
「えっ、そうなの? ということは、ニーズヘッグもヒトの姿になれたってこと?」
「もちろん、その可能性は高いでしょう。しかしながら人と敵対していたり、人を下に見ているドラゴンが、わざわざヒトの姿になるということはないでしょうね」
確かにそうかもしれない。あのニーズヘッグが隠れてヒトの姿になって、リンカスターの街に来ていたとか全く想像が出来ない。実際に来ていたとしても絶対に揉め事が起きているだろう。そもそもクロエの前任の賢者を恐れていたようだから、街に近づくことはなかったのかもしれないけどね。
「さぁ、ベリちゃんの採寸をするわよ。あなたたち、サイズを測りなさい」
神官さん達がベリちゃんの肩、胴周り、足の長さなどを計測していく。少し前の人見知りベリちゃんなら考えられない光景だが、完全にされるがままな状態のベリちゃんを見ると、ドラゴンとしての野生も少し必要なのではないかと思ってしまう。警戒する必要がないとわかっているのからなのだろうけどさ。
「今測ったサイズからベリちゃんの成長を加味してサイズアップを予測したものも数パターン作るのよ。生地が足りなくなったらケオーラ商会に行きなさい。ベネットの許可をもらっていると言えばいいわ」
骨までしゃぶり尽くしたいアリエスはその毒牙をハープナにあるケオーラ商会本店にまで伸ばし始めるようだ。
「ところで、アリエス。少し気になるのだが、そ、その、ベリちゃんの服のデザインとかイメージは出来ているのか?」
「クロエったら心配性ね。性別はどうあれ、プリティーな仕上がりになるのは間違いないわ。私の服も作っている神官よ。服職人に近いレベルで作りあげるはずだから仕上がりを心配する必要はないわ」
「そ、そうか。その方向性なら私は何も言わない。問題なしだなっ!」
どうやら可愛らしい服に仕上げる予定のようだ。淡いブルーの柔らかい生地はきっとベリちゃんに似合うだろう。ベリちゃん的にも肌触りをお気に召していたようだし、きっと気に入ってくれるはずだ。
「キュィ?」
もう終わりなの? 的な表情をしているベリちゃん。おそらくマッサージか何かと勘違いしていた可能性すらある。かなり人に慣れてきたといえる。そこに野生はもうない。
まぁ、これなら孤児院の子供達と打ち解けるのも早そうで安心だ。無事クエストが終了したら孤児院のみんなとビールや麦茶を作りながらのんびりしたいものだ。
「みなさん、食事の用意が整いました。こちらへどうぞ」
ローランドさんが、採寸をしている部屋に声を掛けに来てくれた。今日はゆっくり食事をとって、久し振りにのんびり休もうと思う。
「ローランド、今晩のメニューは何かしら?」
「ホーンラビットのもも肉香草炒め、野菜スープになります。ベリル様には薄く味付けしたボア肉のソテーをご用意しております。食後にはジュースとカットフルーツもございます」
「そう。明日の朝は軽めにして、昼食の手配もお願いするわ。あのマリエールの作った薄く切ったパンに葉物野菜と濃い味付けのボア肉をスライスして挟みこんだものがいいわね。ローランド、上手く説明してきてちょうだい」
「はい、かしこまりました」
「では、みなさん夕食にしましょう」
ヴイーヴルも、ベリちゃんと同じボア肉のソテーなのだろうか。アリエスも確かヴイーヴルはボア肉が好きだと言っていた気がする。
「私はボア肉のステーキを、ミディアムレアでジンジャーソースでお願いするわ」
ヴイーヴルは特注だった。
「あっ、私もそれもらうわ!」
「じ、じゃあ、僕も!」
「わ、私も食べたいぞ」
「キュィ!」
「あなた達、ステーキも全員分用意しなさい」
「か、かしこまりました」
予想外の注文に神官さんが少し慌てているようだ。ごめんなさい、でもステーキも食べたいんだ。あと、何気にベリちゃんも手を上げていたのだけど、ジンジャーソースは大丈夫なのだろうか。若干気になるところだ。
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