第六十話 御者
僕達は再び馬車に乗って、ハープナへと向かっている。カイラルからハープナまでは50キロ程度で夜には到着できるとのこと。予定としてはハープナの神殿で一泊してからまた戻ってくるつもりだ。
「ヴイーヴルの反応が気になるところね」
「宝石の巫女的にはどうなのだ?」
「そうね。すくすくと健康に育っているわね。食欲も旺盛だし毛並みも素晴らしいわ」
「それは、私でもわかる情報だぞ」
「つまり、私が見てる分には何も問題ないってことよ」
「そうですね。ベリル様は体が大きくなられてラブリーさが更に増してます。そして、吸い込まれそうな青い瞳が一段と魅力的です。一度、思い切り吸いたいですね」
会話の終わりが変態的だよ、ローランドさん!
「いずれ抱っこ出来ないぐらいに大きくなってしまうのだろうな」
今はクロエの膝の上で丸くなってお休み中だ。やはり若干お疲れ気味に思える。ハープナまではゆっくり休んでもらいたい。ちなみに会話の外にいる僕は聞き耳をたてながら、一人馬車の操縦を頑張っている。
「ハルト、さっきから馬車が結構揺れるのだけどしっかり操縦なさい。ベリちゃんが起きちゃうじゃないのよ」
「ういーっす」
今ならローランドさんの気持ちがわかる。ここは、夕方以降は寒いし若干孤独だ。日が落ちるまでは僕の膝の上にいたベリちゃんだったが、寒くなるとあっさり馬車の中へ行ってしまった。寂しくなんくないんだ! お馬さんも頑張っているのだ。僕も頑張ろう。
「それにしてもベネットは良質の生地を用意してくれたのだな。柔らかい生地だからかベリちゃんも喜んでいるようだ」
「えぇ、きっと可愛い服が作れるわね」
そう、ベネットが用意したおそらく高級な生地はベリちゃんも気に入っているようで馬車の中で既に身をくるませてご満悦な表情をしながら小さな寝息をたてている。きっと、完成する服も喜んで着てくれることだろう。
慣れない馬車の操縦のため、お馬さんも疲れてしまったとのことで、途中何度か休憩を挟みながらの道程となった。お馬さん、申し訳ない。早く慣れるように頑張ります。
「随分と時間が掛かってしまったわね。明日はもう少し早くなってるかしら」
「が、頑張ります」
明日の御者も僕でいいそうだ。アリエス、ありがとう。しっかりと練習させてもらおうと思う。いつまでもこのパーティという訳ではいられないことはわかっている。いつか旅に出る時のためにも学んでおいて損はないはずだ。
「ようやく到着だな。やはり馬車の中は窮屈で疲れるな。ハルトもお疲れ様」
「うん、ありがとう」
街の中の操縦は流石に危険が伴うとのことで、ローランドさんに代わってもらっている。馬車は前回同様にノンストップでゆっくりと門を通過して、このまま神殿まで直行する。
「キュィ?」
どうやら神殿が近づいたことでヴイーヴルの気配を感じたベリちゃんが睡眠体勢から起き上がったようだ。窓の外を見たそうにしているが、神殿に入るまではもう少し我慢してもらおう。
「すぐに何か食べる物を用意させるわね。時間も遅いから、あまり期待はしないでね。食事の用意をさせている間にヴイーヴルにベリちゃんを見てもらいましょう」
「そうだな。アリエスありがとう」
「いいえ。前回もご飯ごちそうすると言っておいてフルーツしか食べてないものね。あっ、ローランド、果肉系のカットフルーツと薄く味付けしたボア肉も用意するように言っておいてもらえるかしら?」
「はい、かしこまりました」
「では、私達は竜の間へ行きましょう」
「そうだな。ハルト、ベリちゃん行くぞ」
「キュィ」
僕の頭の上に登ったベリちゃんが、元気に返事をしていた。さて、竜の間へと向かおうか。アリエスが問題ないと言っているので、少し落ち着いてはいる。だけどヴイーヴルが、もしもこのまま成長するとニーズヘッグになりますとか言われでもしたらそのショックが大きい。どうか、ここまでの成長に間違いがないことを祈りたい。
「ハルト、早く来なさい。何を緊張してるのかしら」
「いや、だってさ」
「ハルト、確かにベリちゃんの魔法には驚いたが、今のベリちゃんがそんなに心配に見えるのか?」
「キュィ?」
「そうだね。ちょっとビビり過ぎてるかも。前回ヴイーヴルと会った時よりも、意思の疎通がとれてるし、みんなとも仲良くなってるもんね。うん、大丈夫!」
「ほらっ、なら、さっさっと来なさい。終わったらご飯よ」
「ベリちゃんも久し振りに同族に会えるのだ。きっと楽しみにしているに違いない」
確かに、頭の上では何処と無く落ち着きのないような感じがしないでもない。ベリちゃんが少なからずヴイーヴルと会うのを楽しみに思っていることが伝わってくる。
そもそも僕にはセーブとロードがあるんだ。何も恐れる必要はない。確かにやり直すのはキツイこともあるかもしれないけど、ハッピーになるためなら何度でも繰り返そうじゃないか。
続きが気になった方は、ブクマやポイント評価を頂けると作者のモチベーションアップに繋がります。




