第五十九話 情報の修正
港から街へと戻る途中でマルローさんや冒険者の人達が倉庫が建ち並ぶ街の入口近くで簡易的なバリケードを張って武器を構えていた。
この場所にいたのなら、港どころか海も見えないだろう。約束を守ってくれたマルローさんに感謝だ。
「ア、アリー様、みなさんがお戻りということは……シーデーモンは?」
「安心して、全て倒したわ」
「うぉぉぉ!!!!」
「すげぇぇぇ!!!」
「た、助かった……」
やはり、シルバータグ中心の冒険者達ではかなり厳しい戦いを強いられていたようだ。尊敬の念と安堵の表情を浮かべる者と様々なようだ。
「流石です。みなさんはカイラルに誕生した新しい英雄です!」
アリエスが手を上げて声援に応えている。クロエは慣れていないのか恥ずかしそうに俯いているし、ローランドさんは僕のお腹を見つめている。もちろん、ベリちゃんは魔法の使いすぎなのか僕のお腹に張り付いて深い睡眠に入っているのだが……。
まぁ、これで定期船は無事に出港できるだろうし、みんなも一安心だろう。
それにしても、英雄ね……。なんか大袈裟な気がしないでもないけど、街のみなさんに喜んでもらえたなら嬉しい。しかしながら思いの外、目立ってしまったのが残念なところだ。マルローさんには賢者と上級職がいるパーティだと知られている。そこに不思議生物のベリちゃんと普通のシルバータグだ。僕だけ普通の一般的冒険者なのだ。どうにも違和感しか感じないだろう。いろいろとチェックされそうだな。
「マルローさん、シーデーモンについて話があります。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「えぇ、もちろんですよ。では、ギルドに戻りましょう」
少なからず、僕達パーティに関する口止めとジャミルの情報を修正しなければならない。まぁ、みんなの前でアリー様と呼んでるあたりを見る限り大丈夫だろう。マルローさんは、ギルドに戻った僕達を扉のある部屋に案内し、お水の用意をしてくれている。何というか、一人ギルドの哀愁を感じさせる背中だ。
「お待たせ致しました。では、シーデーモンについてのお話をお伺いさせてください」
「先ずは、ジャミルの倒し方についての追加情報を。3回目の火炎攻撃で消滅することは確かに確認しましたが、そもそも3回目の攻撃を与えることが非常に困難です」
「それはどういうことですか?」
「マルローさんも一度、倒した所を見たとのことですが、ローランドさんがいなければ、クロエ、いや、火の賢者は殺されていました。それぐらいスピード、パワーともに凌駕していました」
「な、なんと!? そんなはずは……」
「そんなはずはないと? 何が言いたいかというとですね、2回の火炎攻撃を与えるとシーデーモンの強さはゴールドタグでも手がつけられなくなります。その倒し方は上級職、またはゴールドタグの盾持ちが数名いる場合といった感じに修正を頂きたいのです」
「な、なるほど、かしこまりました」
「クロエ、ジャミルはどうしてシーデーモンを倒すことが出来たのかな? レベル20そこそこの魔法使いが倒せるとは到底思えないんだけど」
「そこは何とも言えないが、シーデーモンにも強さに個体差があるのか、それとも運良く偶然倒せたのか……」
「運で倒せるレベルじゃないわ。それはクロエが一番わかっているでしょ?」
ジャミルについては、ギルドから一度聞き取り調査をした方がいい気もするが、言っていることが間違っている訳でもないので判断に困る。何か、決定的な証拠でもあればいいのだが……。
「ジャミルさんは最初から倒し方をご存知でした。既に何度も倒しているように手慣れた印象を受けましたが……そ、それでは、またシーデーモンが現れたら、どう対処すればよいのですか!」
「付与魔法の剣で普通に倒せました。頭部を狙わずに胴体狙いで大丈夫でしょう」
「ローランドさん、それは本当ですか! それならば、なんとかなりますね」
「主な攻撃は爪攻撃のみでしたから、盾持ちと一緒に攻撃にあたれば、より安全に戦えるでしょう」
「ありがとうございます。ギルドでも情報を徹底します。周辺のギルドにも伝えておきましょう」
「よろしくお願いします。僕達は、一度ハープナに行きますが、またすぐカイラルに戻ります。くれぐれも僕達のことは内密にお願いします。その、あまり、英雄とか騒がれるのは本意ではありません」
「それは失礼しました。しかし、あの場で私が言わなかったとしても、みなさんは英雄と呼ばれたでしょう。すぐにハープナに向かわれるのですか?」
「はい、このまますぐに向かうつもりです」
「そうですか。では、またのお越しをお待ちしております」
しばらく街を離れれば英雄騒ぎも少しは落ち着くだろうし、ちょうどいいかもしれない。次に戻ってきたらマーマン狩りは勿論のこと、シーデーモンについても詳しい生息場所を押さえておきたい。
「ハルト、ケオーラ商会に寄ってもらえるかしら? ベリちゃん用に頼んでいた生地を引き取りに行きたいのよ」
「おぉ、そうであったな。ハープナに行くのであれば採寸してもらえるのであったな」
ベネットが素敵な生地を用意してくれていることを期待したい。
さて、ヴイーヴルはレベルアップしたベリちゃんをどう感じるのだろうか。
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