第五十八話 掃討
「くっ、うぁぁぁぁ!」
致命傷を避け、左腕を深く抉られたクロエは叫び声を上げ、転がりながらも何とか距離をとる。このシーデーモンとんでもなく速すぎる!
助けようにも魔物のスピードが速すぎて魔法を当てられる気がしない。このままでは不味い! 体を起こしたクロエの後ろでは既にシーデーモンが攻撃体勢に入っていた。
ガッキーン!!!!
金属がぶつかり合う高い音が辺りに響く。
ローランドさんだ。大剣で爪攻撃を間一髪で防いでいた。あのスピードに対応できるなんてやはり凄すぎる。
「何してるの! ハルトっ、今のうちに!」
「あっ! うんっ、火球」
動きを制限されているためチャンスだ。シーデーモンは頭部に当たった魔法攻撃により、あっさりと霧が霧散するかのように消滅していった……。3回目の攻撃で消滅するというのは間違いではないらしい。
「こ、こんなの、あのジャミルが倒せる訳ないわ。ローランドがいなかったらクロエは殺られていたかもしれないじゃない」
「ク、クロエ、大丈夫?」
「癒しの風……だ、大丈夫だ。ローランド殿、助かりました。それにしても、こんな危険な魔物が街の近くに現れるなんて……」
目の前には様子を伺いながら少しずつ距離を縮めてくるシーデーモンの群れ。
その内、一体がローランドさんに向かってきた。
大剣で攻撃を振るうと実態のない体をすり抜けるようにしてダメージが通っていない。笑うような表情を浮かべて唯一実態のある爪を振り上げる。
暴風剣!
強力な付与魔法を纏った大剣は効果抜群のようで、さっきのように霧散するようにして消滅した。
「考えている時間はないわね。クロエ、ハルト、火魔法はもう禁止ね。ハルト例の魔法頼むわよ」
「ハルト、私が念のため街から魔法が見えないように煙幕を張る。その隙に魔法を頼む」
「う、うん、了解! いつでもいいよ」
火炎竜巻!
クロエが海から背を向け、街の少し上空に向けて広範囲に魔法を放った。これで街の方からは、こちらの状況を見ようにも火炎の煙幕に隠れ見えないはずだ。
僕は後ろの轟音を聞きながら、杖を構えてシーデーモンに向けて魔法を何度も唱えた。
魂浄化!
波の上を滑るように広がっていく光の粒子がシーデーモンの足下を徐々に囲いこむと、そのまま上へと伸びていく。そして、気がづいた時には体を包み込むように一塊になっていく。
余裕の表情を浮かべていたシーデーモン達が一転して苦しみ、逃げようともがいている。
次の瞬間、ブラックホールに吸い込まれるかのように全てのシーデーモンが光の中に小さくなって消えていった。
火煙が消え去り、視界が良好になる頃には、海上にいた無数のシーデーモンは、全て消え去っていた。
「こ、これがドラゴンをも消し去るプリフィーソウルなのね……」
アリエスが驚いたように小さく声を漏らしていた。流石に20体以上もいた、シーデーモン全てを一気に消し去るとは思ってもみなかったのだろう。
「凄い……ですね。あのシーデーモンが全て消え去ってしまいました」
「あれっ、ベリちゃん起きた?」
走ったり、戦闘したり、魔法をぶっ放っしても起きなかったベリちゃんがこのタイミングで起きるという……。
ローブから顔だけ出して様子を伺っているベリちゃん。何やらキョロキョロと海の方を、何かを探すように見つめている。
すると、顔を出したままの状態から口をくわっと開けるとブレス? を放った……。
「うぉっ! べ、ベリちゃん!?」
「こ、この魔法は、まるで……」
いつもの火の玉とは違う。このブレスは魂浄化のように光の粒子と同じようなものだ。
ベリちゃんのブレスは、大型船の影に隠れて逃げようとしていた、一体のシーデーモンを包み込むと同じように消し去った。
「どういうことなのだ!?」
「これはまるで僕の魂浄化……だよね」
「キュィ」
ベリちゃんが自慢気だ。いつもより若干声が高い。まるで褒めてもらいたそうに僕を上目遣いで見つめてくる。とてもプリティーだ。いや、既に撫でてあげているんだけどね。
「い、今の魔法、見られていないわよね?」
「アリエス様、少なくとも港の近くに人の気配はございません。大丈夫かと」
「そう、それならよかったわ。それにしても、ベリちゃんもプリフィーソウルが使えるなんて……」
「キュィ」
また撫でてもらえると思ったのだろう。ベリちゃんはアリエスに向かってジャンプすると胸に抱きついた。
「な、なんと羨ましい!」
ローランドさんが顔を紅潮させて羨ましがっている。つい先程まで抱いていた尊敬の念を返してもらいたい。
「全く、可愛いは正義ね。何も聞かずに許してあげたくなっちゃうけど、一度ヴイーヴルの所へ行くべきかしら」
「レベルが上がったことで、新しく覚えた魔法ということなのだろう。しかし、何故あの魔法を……」
「異世界からの旅人であるハルトしか使えない面白魔法をベリちゃんが使った。間違いなく、ハルトが関係しているのでしょうね。ベリちゃんは、何でパパの魔法を使えるのかなぁ?」
「キュィ? キュィ」
どうやらベリちゃんは、翼を広げてその下を撫でるように要求しているように見える。
残念ながら話が通じていないようだ。
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