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第五十七話 シーデーモン

 ギルドを出て、この後の行動をどうするか話し合いをしていたら、ブルーノさんが血相を変えて走ってきた。


「た、大変だ! シーデーモンが出た! マルローさんはいるかっ!」


「は、はい。ギルドにいますよ。シーデーモンって!?」


 ブルーノさんは、大慌てでギルドに飛び込むと、すぐにマルローさんと一緒に出てきた。僕らを見て、明らかに嬉しそうな顔をしているマルローさん。どうやら緊急クエストが発生したようだ。


「やはり天使っ! こんな時に素晴らしいパーティが残っているなんて」


「まだ参加するとは言ってないわよ」


「緊急クエストです! どうか、お手伝いお願いします。報酬も倍です」


「アリエ……アリー」


「わかってるわよ。冗談だって」


「やったぁ! 上級職パーティに参加してもらえるなら勝てる!」


 マルローさんは、ローランドさんを見ながらガッツポーズをしている。なるほど、流石にローランドさんは有名人過ぎるし、マルローさんはハープナで勉強していたのだから当たり前か。そうなるとアリエスやクロエの関係性にも気づいている可能性があるかもしれない。


 まぁ、マルローさんには話してもいいのかもしれないけどね。


「マルローさん、港に向かいながらシーデーモンについてわかっていることを教えてください!」


「も、もちろんです。実は、シーデーモンについては、リンカスターのジャミルさんから情報を頂いております!」


 ん? ジャミルだと……!?


「それで、ジャミルは何と言っていたのだ? マルロー殿」


 ジャミルの名前を聞いてクロエが少し慎重になったように思う。まぁ、僕もだけど。


「はい。シーデーモンは、実態のない体と実態のある爪を併せ持った魔物です。弱点は頭部への火炎攻撃が有効とのこと。但し、頭部へ火炎攻撃を加える度に強さ、スピード、更には体の大きさも増します。火球(ファイアボール)で3回攻撃を与えることで消滅します」


「ちょっと、それ本当なの? 魔物を強くさせるだけなんじゃないでしょうね」


「不思議な情報だったのですが、私の目の前で確かに消滅させていました。2回目の攻撃の後、如何に素早く3回目の攻撃を与えるかがポイントになるでしょう」


「クロエ、どう思う?」


「奴の情報を鵜呑みにするのは危険な気がする。他の倒し方も考えておいた方がいい気がするな。マルロー殿、火炎攻撃以外でシーデーモンを倒したことはありませんか?」


「いえ、ありません。ジャミルさんが3体討伐をしたところで魔物が撤退しましたので、他の攻撃は試していないのです」


「ちょっと、マルロー! シーデーモンはカイラルによく出るの? マーマンクエストに、そのような情報は記載されてなかったわよっ」


「そ、それが、前に出たのは一年前でして。それからしばらくの間はシーデーモン討伐クエストを出していたのですが……」


「現れなくなったということですか」


「その通りです」


「そして、今回が2回目の出現という訳ですね……」


 僕達は港に走りながら対策を考える。現在、港には定期船がいるため、護衛の冒険者が船や港に近付けないように応対しているそうだ。魔物が街に入ってしまったら大変なことになる。


 僕の魂浄化(プリフィーソウル)で消し去るのが理想だろう。みんなの顔を見る限り考えていることは同じっぽい。問題は、この魔法を冒険者が大勢いる状況下で使いたくないということだね。


「マルロー! 察しはついているかもしれないけど、私とクロエは賢者なの」


 どうやらアリエスは賢者の情報を出すことで僕の魔法を隠す作戦に出たようだ。


「やはり、そうでしたか。神殿のパラディンがいるパーティなので宝石の巫女様はいらっしゃると思ってましたが、まさか、火の賢者様までいらっしゃっるとは……」


「シーデーモンを効率よく倒すために賢者の秘術を使います。マルローは港から冒険者を含む全ての人を撤退させなさい。申し訳ないけど、あなたもよ」


「し、しかし……いえ、わかりました。街に被害が広がるのは避けなければなりません。どうか、よろしくお願いします」



 その後、マルローさん指示のもと港で戦っていた冒険者や船員を僕達のパーティと入れ替わるように全て撤退させた。


 冒険者達が船から遠ざけるように戦線を移動させていたお陰で、船からは離れた場所でシーデーモンと対峙できている。


 全身を黒に近い濃紺で包まれた悪魔。その姿は、ゆらゆらとしており実態があるのかわからない。目は鋭く口角が上がっているせいか、常に笑っているように見え、何とも不気味な雰囲気を漂わせている。大きさは人間と同じぐらいのサイズから、火炎攻撃を受けたのか一回り大きいサイズになっている個体もいた。


「ローランド! 港に上がってこようとしているシーデーモンを牽制しなさい」


「はっ!」


「一応、ジャミルの情報を確かめてみる。ハルト、火球(ファイアボール)を撃つぞ」


「了解!」


 手前にいたシーデーモンの頭部へ向けて、僕、クロエの順番で火球(ファイアボール)を放った。


 一番小さいサイズだったシーデーモンは僕の魔法で一回り大きくなり、続けざまのクロエの一撃で3メートル程の大きさにサイズアップした。


「うわっ! あ、危ないっ!」


 格段にスピードの上がった大型のシーデーモンが、クロエに向かって突っ込んでくると、その鋭い爪を振り上げた。

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