第五十六話 カイラルのギルド
港に戻ってくると、漁師のブルーノさんとボスネコのロカが待っていてくれた。多分、たまたまロカにご飯をあげていたところに僕達が戻って来たのだろう。
「おぅ! お疲れー。早い割りに、なかなか大量じゃねーか」
舟に大量に乗っている左耳と爪を見ながら声を掛けてきた。
ブルーノさんは、カイラル漁師組合の組合長をしている人だ。見た目はかなり厳ついのだが面倒見もよく、街のみんなからも慕われているようだ。
実際、腕にも自信ありの人でマーマン討伐にも参加していたそうだが、数が増えたマーマンを相手には厳しかったようで、ひどい怪我を負ってしまったそうだ。最近は港の近くでしか漁をしてないとのこと。
「ただいま戻りました! 明日も頑張って討伐してきますね」
「おう、頼むぜ。で、何体狩ったんだ?」
「今日は40体ぐらいですね」
「若いパーティだからと、少し心配をしていたんだが、凄い成果だな。こりゃ驚いたぜ」
そういうと、ブルーノさんは僕達に頭を下げた。
「や、やめてください。これはクエストでちゃんと報酬も頂いているんですから」
「あんな少ねぇ報酬で引き受けてくれる奴なんて、そういねぇのはわかっている。すまねぇな」
「僕達も理由があって討伐をしているのですからお互い様ですよ」
実際、ホーンラビットを狩り過ぎてしまうのはブロンズ冒険者に嫌な目で見られてしまうだろうし、王都への定期船の護衛は目立ち過ぎてしまうから出来ない。人気がなくて適度に討伐出来るマーマンクエストは今の僕達には丁度いい。
ニャー ニャー ニャー!!
「なんか、ロカが凄い勢いで絡んでくるのだが、どうしたのかな」
「あー、舟が港に戻ってくるとな魚を貰えると思ってやがるんだ」
朝は港に戻ってくる舟からのおこぼれを目当てにネコ達が集まるそうだ。しかし今は、多くのネコ達がお昼寝中のため、今この場にはロカしか来ていない。
「おいロカ、お前にはさっき魚あげたばっかじゃねぇか。マーマンの耳は不味いからやめとけや。はっはっはっ」
しばらくウロウロして、何も貰えないとわかったロカは諦めたようで、不貞腐れたように昼寝の態勢に入った。この不遜な態度、さては僕のお腹にベリちゃんが貼りついていることを知らないとみえる。
「さて、まずはギルドに行くわよ。ローランドとハルトは討伐証明と爪を運んでくれるかしら?」
「はい、アリー様。ハルト君、そっちの袋をお願いできますか」
「了解です。ではブルーノさん、引き続きマーマンクエスト頑張りますね」
「おう。よろしく頼むぜ」
ちなみに、ローランドさんが言ったアリー様というのは一応、宝石の巫女様とバレない為であり、周りに人がいる時はそう呼ぶことになったのだ。クロエの名前はそこまで売れていないので、そのまま呼ぶことになっている。賢者も格差社会なのだね。
「ローランドさん、マーマンの爪とホーンラビットの角はどちらの方が高く買い取ってもらえるんですか?」
「マーマンの爪の方が若干安いかな。でも爪は両手からとれるから、結果的にはマーマンの方が稼げるんですよ」
なるほど、とはいえマーマンとの戦いは魔法か弓などの遠距離攻撃が必要な訳で、ブロンズタグが一般的にホーンラビットに流れてしまうのはしょうがないことなのだろう。
そんなことを考えながら歩ているとカイラルのギルドに到着した。建物の造りはリンカスターのギルドをかなりこじんまりとした感じだ。受付にはギルドマスター兼受付のマルローさんが一人で頑張っている。
「なんでこう、うちのギルドは儲からないのか……船の護衛とかじゃなくて、もっと魔物の素材とか売りに来ないかな。ボア肉が欲しい。ワイルドボア、草原でなんとか繁殖させられないものか……はっ! よ、ようこそ、カイラルのギルドへ」
マルローさんの深い心の闇を垣間見てしまった気がする。ローランドさん情報によるとマルローさんはレベル20の魔法使いだそうだ。冒険者を引退してからハープナのギルドで勉強し、数年前からカイラルのギルドマスターになったそうだ。
「相変わらず、一人で大変そうねマルロー。ご希望の素材なんだけどよかったら買い取ってもらえるかしら?」
どうやら売上の少ないギルドには、人件費を支払える余裕がないらしい。目の下に深い隈、頭髪も若干寂しげな、不幸系ギルドマスターである。
「アリー様、今何とおっしゃられましたか?」
「期待してもらって申し訳ないけど、ボア肉ではないわよ。はい、マーマンの爪と、討伐証明よ。よろしくね」
「おぉ! 売り物が来た!」
「売る前にちゃんと買い取りしてくださいね」
「爪が62本に、左耳が40ですね。爪は1本500ゴールドで買い取りですが、傷物が含まれているから全部で3万ゴールドです。それからマーマンの討伐は1体千ゴールドなので、こちらは4万ゴールド。計7万ゴールドでよろしいでしょうか」
4人と1匹で半日7万ゴールドの稼ぎは悪くないんじゃないかな。マーマン、通常ならこんなに討伐出来ないだろうからね。不謹慎ながら、マーマンが大量に増えてくれたお陰で、しばらくは稼げそうだ。
「それにしても計算早いですね……」
「なにぶん1人ギルドなものですから、効率を求めないとやっていけないんですよ。みなさんは明日も引き続きマーマンクエストですか?」
「あっ、はい、そのつもりです……うぉっ!」
マルローさんが、ガっと手を掴んでは涙を流してプルプル震えてている。そ、そんなにか!?
「みなさんはカイラルに舞い降りた天使なのですね。きっとベリルちゃんも神の使いか何かに違いありません」
いや、ベリちゃんは竜なんだけどね。
続きが気になった方は、ブクマやポイント評価を頂けると作者のモチベーションアップに繋がります。




