第五十二話 お祝い
そもそもベリちゃんに、魔物を仕留めるという概念があるのか正直わからなかったのだけど、思いの外あっさりと討伐してしまった。幼生体とはいえ流石はドラゴンというべきなのだろう。
しかし、魔法攻撃が使用できるという発見は驚きも大きかったが、今後の討伐に向けてプラス材料だ。ぷにぷにの手足で魔物を仕留めるイメージが全く出来なかったからね。
ベリちゃんのレベルも上がったので、今日は出発時間も遅かったこともあって、すんなりと引き上げることにした。街に着くなりケオーラ商会でボア肉を発注するアリエスは流石である。
「今日はお祝いよ!」
「そうですね。ベリル様の記念すべき第一歩に立ち会えたこと大変光栄に思います。レベルアップと成長後の神々しい毛並み姿。とても美しいです」
「ハルトは美味しいお茶を作りなさい。クロエは私とボア肉料理を作るわよ」
「ベリちゃんは、意外にあっさりした味付けが好みだからな。アリエス、野菜スープと合わせたものを作るぞ」
「そうね、あとは無難にステーキにしましょう」
「アリエス様、私は何を手伝いましょうか」
「そうねぇ、ローランドは夕食のパンを買ってきて。あと、薪割りをしておいてくれるかしら」
「かしこまりました」
「キュィ?」
「あらっ、ベリちゃんも何かしてくれるの? 困ったわね。ベリちゃんにも出来ること……クロエ何かあるかしら」
「そうだな……では、ベリちゃんは家の中をパトロールしてくれるか。怪しいものがあったらママにすぐ報告するのだぞ」
「キュィ」
クロエの言葉をちゃんと理解しているのかはわからないが、ベリちゃんは2階への階段をゆっくり飛び跳ねるように登り始めた。体が大きくなったことで自ら動くことが多くなってきたように思える。
「ベリちゃんは賢いのだな」
「どこまで理解しているのかが気になるわね」
こちらの言葉をかなり理解してきているように思える。今日だけでもかなりの成長を見せてくれた。
「うーん、ホーンラビットの討伐を見る限り、かなりの理解力だと思うよ」
「確かにな。今はまだ小さいからいいけど、今後は翼も目立ってくるだろうし、何か目立たないようにする対策が必要かもしれないな」
「翼か、なら服を着せようか。嫌がるようなら別の方法を考えよう」
「おー、それは良い案だな。想像するだけで可愛いな」
「それなら、今度ヴイーヴルに報告する時に、ハープナで神官達に採寸させようかしら」
「いいのか? アリエス」
「即席とはいえパーティとなったのだし、レベルアップのお祝いに贈らせてもらうわ」
「てっきり、ケオーラ商会に生地を用意させるのかと思ったけど、贈り物だし、流石にそこまではしないんだね」
「それはいい案ね! ハルト、採用よ。生地を用意させるまではやらせるわ。採寸から仕上げは神殿に任せようかしら」
ベネットの疲れた表情が目に浮かぶが、頑張ってもらいたい。
「ハルトはベネットの件をどう思っているのだ? もしも嫌なら私から断りを入れておくぞ」
「ビールが軌道に乗ったら、きっとリンカスターから輸出することになると思うんだ。製造はリンカスターで秘密にしながら、樽でハープナやカイラル、王都にも運んでもらうことになるはず」
「ハルト、エールビールよね? いくら何でもそれは夢を見すぎじゃない。あんなの冒険者が安いからって飲むものでしょ。しかも不味いわよ」
「ハルトには何か考えがあるのだろうが、エールビールは製造から10日程度しかもたないと聞いたことがある。王都まで運ぶとなると日数的にも厳しいのではないか」
「それがね、あの薬草、ホップがあれば大丈夫なんだ。味も雑味もスッキリと、程よい苦味と香り付けが出来て、更には抗菌作用で日持ちもするんだ」
「こうきんさよう? 何だそれは」
「雑菌が繁殖しないようになることなんだけど、説明するのが難しいな……。実際に1ヶ月くらい経過した新作エールビールを飲んでもらった方が納得すると思うよ。もう少し待っててよ。試作品が出来るのはもう少し先だろうし」
「1ヶ月!? 飲んでもいいけど腹を壊したらすぐに魔法を頼むぞ。まぁ、いい。つまり、ハルトはケオーラ商会にエールビールの輸出と販売をやらせるということなのだな」
「うん。そのつもり。リンカスター内では孤児院を中心にしっかり利益を上げてもらうつもりだからね」
「そうか、孤児院とベネットの力になってくれて感謝だな。先に礼を言わせてもらおう」
「クロエ、礼はまだ早いわ。ちゃんと成功してからでいいわよ。とはいえ、ハルトがケオーラ商会に仕事を回す気があるのならもっと遠慮せずに利用させてもらおうかしら」
既に商会を利用しまくっているようにも思えるのだが、まだまだ遠慮があったらしい。アリエス、味方でいる間はとても心強いメンバーのようだ。
続きが気になった方は、ブクマやポイント評価を頂けると作者のモチベーションアップに繋がります。




