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第五十話 旅する野良ネコ

「ベリちゃんは本当によく眠るな……。なんだかこんなにのんびり過ごすのは小さな頃、孤児院で遊んでいた頃以来な気がする」


「そういえば、クロエは孤児院出身だったんだよね。幼なじみとかいないの?」


「そうだな、一人同じ歳の男の子がいてな。気が弱くて冒険者向きではなかったのだが、頭の良さを買われてハープナの商人のもとへ奉公に出たのだ」


「そうなんだ。今度ハープナに行った時に紹介してよ」


「うむ。しばらく会ってなかったからな。私も楽しみなのだ」



 モゾモゾと目を覚ましたベリちゃんが僕の顔を舐めてくる。これは、おはようの挨拶……いや違うな。唾液が多い。ご飯か。


「クロエ、まだボア肉残ってたっけ?」


「なんだ、ベリちゃんお腹が空いたのか。こっちへいらっしゃい。ママがあげよう」


 嬉しさを体で表現するように飛び跳ねながらクロエに突進していく。



 ニャアー! ニャアー!


 ボスネコのロカがチャンスとばかりに挨拶しようと尻尾を立てながら近寄って来るが、ベリちゃんは全く見向きもせず相手にする様子がない。


 ボア肉を前にしたベリちゃんの気を引こうなど無謀にも程がある。しばらくして諦めたロカは、再びボリボリと骨ごと生魚を食べ始める。


 いや、あと魚臭いのも原因だと思うんだ。



 港街の野良ネコにとって漁師のおこぼれで貰える魚はもはや主食となっている。街の中で残飯を荒らされるならここで共存関係を築こうということらしい。


 食品倉庫が建ち並ぶ港付近には麦を狙うネズミも多いのでその対策なのだろう。たまに街の人もご飯をあげに港に来ているのを見かける。


 ネコと共存する街。これがカイラルなのだ。


 しかもこの野良ネコ達はネズミ退治の目的で王都への定期船にも船員が用意する魚につられて乗せられるそうだ。10日程度の勤務を終えて、そのまま再び連続勤務で戻ってくるネコもいれば、しばらく王都の港を満喫してから戻ってくるものなどいろいろらしい。


 ロカ達は旅する野良ネコなのだそうだ。

 なんかカッコいい。


 おそらく王都側の港にも同じようにネコ達のコロニーがあるのだろう。よく出来ている。



 そろそろ街の方へ戻ろうかと思った時に、こちらに向かって近づいてくる足音が聞こえてきた。


 振り返ると、そこには頭を掻きながらクロエの名を呼ぶ男の子がいた。


「ク、クロエ、だよね? 久しぶり」


「お前は、ベネットか!?」



「クロエ、この人は?」


「先ほど話していた孤児院で幼なじみだったベネットだ。ハープナにいたのではなかったのか?」


「今は特別任務というか、クロエを追っていたんだ」


「私をか? 一体私に何の用なのだ?」


「うん、それがね……」




「そこまでよっ! 私のクロエに何の用かしら。さぁローランド、捕まえるのよ」


「はっ、アリエス様」


「ちょ、ちょっ、えっ? アリエス様だって!?」


「ローランド! あなた、いきなり名前バラすとかいい加減になさい」


「も、申し訳ございません。アリエス様……あっ!」



 どうやらアリエス達が追っていたのはベネットのことだったらしい。


「とりあえずここでは何だし、借りている家に行って話そうよ」


「そうだな。ベネット案内しよう。こっちだ」



 借り家に入ると、複数の冒険者と思われるパーティと商人っぽい人が縄で縛られていた。口も布で縛られ声が出せないようにされ、ローランドを見てはブルブルと震えている。


「こ、これはまた凄い光景だね」


「せ、先輩! 冒険者の方も! こ、これは一体?」



 どうやらハープナから馬車を追い掛けようとしていたのはベネットで間違いないようで、挙動不審な追い掛け方をしたことは申し訳ございませんと謝っていた。


 なんでも馬車にクロエが乗っているかわからなかったから遠めから窓を覗こうとしたのだが判断できず。あまり街から離れても危険なので諦めたとのこと。


「そもそも、私がハープナに行ったのを知っている者など、ほとんどいないはずだが……」


「吐きなさい。今ならまだ罪は軽いわよ!」


「ち、違うんです。と、とりあえず、みんなの縄をほどいてもよろしいでしょうか」


「ダメに決まってるでしょ。理由を言いなさい」


 ベネットが受けた特別任務とは、火の賢者と行動を共にしている異世界の旅人と縁を繋ぐこと。ベネットがクロエと同じ孤児院出身であったことから任されたそうだ。


 クロエと僕がアリエスの馬車でハープナに向かったことはケオーラ商会のリンカスター支部が把握していたそうだ。


「やっぱり僕か……」


「ベネット、ハルトにどのような話があるのだ?」


「ケオーラ商会では、ハルトさんの生活に関わる全ての面倒を見させて頂く予定です」


「家から一歩も出なくていいんだね!」


「その代わりですが、異世界の知識を知りうる限り、商会に伝えてもらいたいのです」


「十分な情報を得られたらきっと処分されるのよ。サヨナラ、ハルト」


 アリエスが縁起でもないことを言うが、あり得そうだから怖い。


「そんなことはありません。会長はとても人情味溢れる方です。ハルトさん、会長のお話だけでも聞いていただけないでしょうか」


「話を聞くのは構わないけど、今は大事なクエスト中なんです。しばらく後、3ヶ月後のクエスト終了後のタイミングでもよいですか?」


「勿論です。よろしければ、クエスト中もケオーラ商会として何かお役に立てたらと思っています」


「えーっと、まだ話を聞くというだけですからね」


「それで結構です」


 とりあえず、縄をほどきましょうかね。

そろそろ毎日投稿厳しいかも。


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エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
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[一言] いや、軟禁されて使えなくなったら破棄だな もちろん、墓場に
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