第四十四話 アリエスの占い
馬車を降りた場所に戻ってくると神官さん達が来た時と同じように並んで待機していた。アリエスとローランドさんがもう少しヴイーヴルと話があることを伝えると近くの部屋で待つことになった。
「ハルト、フルーツの盛り合わせがあるぞ」
「好きに食べていいらしいよ。ベリちゃんも落ち着きがなくなってる気がする。フルーツ食べたいのかな?」
ボア肉以外で反応を示したのは初のことだ。栄養バランス的にはビタミンや食物繊維もしっかりとってもらいたい。
「ベリちゃんおいで。ママがフルーツを食べさせてあげよう」
クロエの声に反応してローブから顔を出すとそのままクロエに抱き着いた。
「びぃぃ」
「ハルト! 見ろ。ベリちゃんが私に抱き着いてるぞ」
フルーツパワーなのか信頼の証なのかはまだよくわからない。
「見てる見てる。ほらっ、フルーツ早く食べたそうだよ」
「おぉ、そうだったな。ベリちゃんどっちが食べたいのだ? こっちがいいのか」
柑橘系のフルーツと果肉系の甘そうなフルーツを両手に選ばせているが匂いを嗅いで果肉系の方を選択していた。酸っぱいのは苦手なのかもしれない。ボア肉も種類は違うが油に甘みのある肉だ。今度他の甘味も与えてみよう。
それにしてもこの1日でクロエとベリちゃんの距離が一気に縮んだようで僕も嬉しい。クロエのローブに掴まって甘いフルーツにご満悦な表情を浮かべている。
「待たせたわね。おぉ、ベリちゃんはフルーツも好きなのか」
「びぃぃぃ」
「そうかそうか」
何か会話のように聞こえるがお互い何を言ってるのかはわかっていないはずだ。
「私もあげようね。はい、ベリちゃん」
「びぃ」
「なんだもうお腹いっぱいなのか」
「アリエス、ベリちゃんは柑橘系は好きじゃないようなのだ」
「そういうことなのね。ベリちゃん。はい、こっちをどうぞ」
「びぃぃぃ」
今のは何となくだけど会話がわかった気がする。そして、ローランドさんがアリエスの後ろで、フルーツを持って並んでいるのはご愛嬌だろう。じっくりと信頼を勝ち取ってもらいたい。あっ、拒否されている……。
「さて、じゃあ占いの部屋に行くわよ。ついてきなさい」
神殿の中に占い専用の部屋を用意しているらしく、その場所には中央に高台を設けており、階段を登った先には大きな水晶があった。
「この部屋はね、この水晶に力が集まるように設計されているのよ。太陽からの光を反射させ増幅させる様々な宝石達。私はこの石の力を通じて未来を覗く宝石の巫女よ。さて、貴方達のことを占いましょう」
いつもの雰囲気とは違い、急にそれっぽくなるアリエス。この部屋の厳かさがそうさせるのだろうか、場の空気ががらりと変わった。水晶を覆うようにして両手から魔力を流している。
「クロエ。あなたの少し先の未来を占います」
魔力を帯びた水晶からは、本来映し出されるはずのない映像が途切れ途切れに映し出されていく。
「これは、どこの風景かしら……。大きな海が見える、船があるわね。クロエ、あなたは近い未来、リンカスターを離れて旅をするでしょう。その旅は希望と願いを纏っているわ」
「私が旅に出るというのか……」
「次にハルト。あなたの少し先の未来を占います」
魔力を帯びた水晶からは黒い靄がかかり、透明の水晶からは何も見えなくなってしまう。
「こ、こんなことは初めてね。もう一度やるわね」
何度やっても黒い靄がかかり、水晶からは何も映し出されない。
「ハルト、あなた近い将来、洞窟に閉じ込められて死ぬんじゃないかしら」
「じょ、冗談だよね!?」
「私に何か隠していることがあるわね。それがあるから占えないのかもしれないわ」
なるほど、そう言われると逆に信憑性が高く聞こえるから不思議だ。
「そうか、ハルトには未来を変える力があるからだな……あっ」
おいっ、クロエ、何を口走っている。
慌てて口を塞ぐも、アリエスの細めた目線が見逃さない。
「クロエ、どういうことかしら? 今、ハルトが未来を変えられるって言ったわね」
こうなってしまっては、もう隠さない方がいいだろう。これからしばらくパーティを組むのだし、この二人になら伝えてもいい。
「全く、クロエも気をつけてよね」
「すまぬ。アリエスには話してたような気になっていたのだ」
「それだけアリエスのことを信用しているということだろうから僕も別に構わないんだけどさ」
その言葉の後に何故か、アリエスとローランドが顔を合わせ苦笑いを浮かべていた。
「そ、それで、どういうことなの?」
僕はロドヴィックさんとダリウスさんに説明したように二人に『冒険の書』の話をした。
「つまり、深淵で大型のワイバーンに本当に一度敗れていたというのか」
「ハルトの話ではそうらしい。私にはそんな感じは全くしないのだが、ワイバーン戦でハルトが考えた作戦は見事と言わざるを得なかった。そう、まるで一度戦いを見ていたかのようにな」
「アリエス様」
「わ、わかっている。しかし、本当なのか。何か証拠を見せてほしい」
「うん。何がいいかな。じゃあ、その水晶の周りにある小さな石の色を当てようか。好きな色を手で握っててよ。僕は後ろを向いてるからさ」
セーブ
「石の色か。わかった」
なるほどね。ロード
「アリエスは石を持っていないね。後ろのローランドさんが青い石を、クロエが赤い石をそれぞれ持っている」
「せ、正解だ。ローランド、ハルトは此方を見ていなかったよな?」
「はい。目を瞑ったまま此方を一切見ておりません」
「ふむ……ハルト、クロエ。もう一度ヴイーヴルの所へ行く。ついてきなさい」
しばらく毎日投稿頑張ります。
続きが気になった方は、ブクマやポイント評価を頂けると作者のモチベーションアップに繋がります。




