第四十一話 ローランド
翌朝、賢者二人と僕、そして僕のお腹に貼り付いているベリちゃんはハープナへと向かった。
昨夜は大分遅かったこともあり、孤児院の子供達とベリちゃんはまだ会っていない。好奇心旺盛な子供達はベリちゃんのいい遊び相手にもなってくれるだろうと期待している。ベリちゃんの人見知りさえ無くなればだけどね。
「アリエス、リンカスターからハープナまではどのくらい掛かるの?」
「馬車で半日ぐらいかな。道はかなり整備されているし、魔物も少ないからね」
馬車基準で話をされてもピンとこないのだが、話の雰囲気から30~40キロぐらいの距離にあるのだと思われた。
「なるほど、この揺れの酷い馬車の中を半日も耐えなければならないのか」
「そうね。昼には一度休憩するから我慢しなさい。ちなみに私はこの数日で二往復目なんだけどね」
「なんだかアリエスには申し訳ないな。ハープナに到着したら何かご馳走させてよ。お金はクロエが払うからさ」
「自然にお金をクロエに払わせようとするハルトのクズっぷりが素晴らしいわね」
「まだお小遣いないんだからしょうがないじゃないか。まぁ稼ぎも少ないんだけどさ」
「私もハルトと同じくアリエスには感謝しているから問題ないぞ。好きなだけ食べてくれ」
「人を大食い人間のように言うのはやめてくれるかしら。これでもハープナでは巫女様なの。あなた達の泊まる所から滞在中の食事は全てこちらで用意するわ」
「で、でもそれでは……」
「いいのよクロエ。気持ちだけ受け取っておくから。そもそもハープナでは普通のレストランとか私入れないのよね」
「そ、そうなのか?」
「クロエもリンカスターから殆ど離れたことがないからわからないかもしれないけど、私はハープナではそんなに自由がないのよ。リンカスターに来るのも無理言って護衛一人にしてもらってるんだから」
「えっ、護衛ってどこにいるの?」
アリエスが馬車の前方を指差している。つまり、馬車を操縦している御者がそうらしい。
「彼はパラディンのローランドよ」
「ご挨拶遅れました。アリエス様の護衛を務めておりますローランドです。クロエさんにハルト君でしたね。このような場所から申し訳ございません。道中よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくです」
「よろしく頼む」
濃い藍色の髪をしたイケメンが振り返りながら挨拶をしてきた。騎士の出で立ちで馬車を操っている姿は男の僕からみてもかなり格好いい。
「アリエス、今、パラディンって言った?」
「えぇ、だからローランド一人で護衛は十分なのよ」
「上級職かぁ。すっごいなぁ」
「アリエス、ハープナには他にも上級職の者がいるのか?」
「いいえ、ローランドだけよ」
「むぅ、相当な努力をされたのであろうな」
すると馬車の揺れで目が覚めてしまったのか、もそもそと僕のローブの中からベリちゃんが顔を出した。
クロエを見て一瞬怯みながらも目をパチパチさせている。すぐに引っ込まない所を見るに少しは慣れてきたのだと思いたい。
次に目線が隣に座っているアリエスに移る。すると鼻をスンスンさせながら近づいていくではないか。
「びぃぃ?」
「ベリちゃん!? な、なんで私には近づかないのにアリエスには近寄っていくのだ!」
「赤ちゃんはやっぱり胸が大きい女の子が好きなんじゃないかしら?」
「なっ! そ、そんなに変わらぬではないか!」
顔を赤くしたクロエが自分の胸を押さえながらアリエスのと見比べている。
アリエスがゆっくり手を伸ばすとその匂いを求めるかのようにパタパタと飛びながらベリちゃんは見事腕の中に収まった。
「というのは冗談で、多分だけど私に染みついているヴイーヴルの匂いに反応しているのではないかしら。ほらっ、鼻を動かして匂いを探ってる感じしない?」
確かに言われてみるとアリエスに懐ついているというより、匂いを嗅いでいるという方がしっくりくる。
「可愛いわね。ハルト、ボア肉を出すのよ」
「ご、ご飯は、私があげるぞ」
クロエとアリエスでベリちゃんにご飯を与えてくれるようだ。多少ビビりながらもボア肉の魅力には抗えないようで啄みながら、たまに僕の顔を見てくるのが可愛らしい。
「びぃぃ」
美味しそうに食べている。近くに僕がいるから安心しているのもあるかもしれない。でも1日でかなりの進歩だ。頑張るんだベリちゃん。
共生の道を考えるならば少しずつでも人に慣れていくのはベリちゃんにとってもプラスなことだと思いたい。それにしても人にびびる竜の赤ちゃんってのもレアだよね。
「ハルト君、ゴブリンが現れたみたいだ。ちょっと討伐してくるから手綱を抑えていてくれるかな」
「わ、わかりました」
馬車の中がほんわかした感じになっていたというのに全く空気の読めないゴブリンだ。それにしてもゴブリンどこにいるの? 僕からはその気配全く感じられないんだけど。
しばらくすると何事もなかったかのような涼しげな表情でローランドさんは戻ってきた。戦っているような音とか叫び声とか全然聞こえなかったんたけど本当にゴブリンいたのだろうかとか思ってしまう。上級職の戦闘というのを一度見てみたいかも。
「すまなかったね。じゃあ行こうか」
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