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第四十話 共生への道

 ベリちゃんは今のところクロエに抱っこされていても気にしていない。今はボア肉に夢中だからなのかもしれないけど、この調子で気にならなくなってくれると嬉しい。


 領主様の館に到着する頃にはお腹がいっぱいになったのか再び眠りについてしまった。赤ちゃんは寝るのも仕事なのだろう。




「遅い時間に申し訳ございません。領主様にお話があって参りました」


 クロエが門番の方に話をすると、やはり領主様はお待ちのようですぐに通してくれるようだ。


「賢者様、お待ちしておりました。領主様より話は伺っております。ロドヴィック様とダリウス様もいらっしゃると聞いておりましたが……」


「あぁ、二人はギルドに寄ってからこちらに来ますので少し遅れます」


「かしこまりました。ではお二人は先に奥へご案内いたします」



 案内された場所は前回通された執務室ではなく、広めの応接室だった。おそらく、こちらが通常来賓と話をする際に使用している部屋なのだろう。部屋には領主様ともう一人知っている顔が座ってお茶を飲んでいた。


「遅かったじゃない。といっても私もさっき到着したばかりなんだけどね」


「アリエス! 帰ったのではなかったのか?」


「えぇ、帰ったわよ。そうしたら新しいドラゴンが生まれたとヴイーヴルが言うのだもの。休む間も無く戻ってきたのよ」


「それは、なんだか申し訳なかったな」


「とりあえず無事なようで安心はしたけど、大変なことになってるみたいね」


 クロエが抱えているベリちゃんを見るとアリエスがタメ息をついた。


「賢者殿、宝石の巫女殿から話は聞いてはいたのだが、その抱えている動物はまさか……」


「はい、領主様。ドラゴンの幼生体でございます」


「やはりドラゴンですか……」


 領主様がベリちゃんを見て絶句しているところにちょうどロドヴィックさんとダリウスさんが入ってきた。


「もう話したのか?」


「詳細な話はまだしておりません。この子がドラゴンの幼生体だと伝えただけです」


 みんなの視線が寝ているベリちゃんに集まる。


「みな集まったようなので、まずはドラゴンを持ち帰った経緯も含めて誰か説明していただけるでしょうか」


「それでは私がまとめて報告させていただきます」


「うむ、ダリウス殿頼む」


 ダリウスの説明で大型のワイバーン討伐、竜の巣で発見した卵。それからハルトを親だと認識して生まれたドラゴンの幼生体。竜の巣の破壊までを順を追って報告した。


「大型のワイバーンですか……。今後も深淵には気を配らねばなりませんね」


「そうだな。あの大型のワイバーンはゴールドタグ10名レベルの難易度だった。俺達が倒せたのは奇跡だと言っていい」


「これだけのメンバーが揃いながら討伐が奇跡だというのか……。しかしながら、ニーズヘッグの脅威に比べれば全然であろう。それで、そのドラゴンの幼生体のことであるが」


「まだ善とも悪とも判断がつかねぇが、ハルトを親だと思っているのは好都合と言えるだろうぜ」


「領主様、ドラゴンの監視は賢者の務めです。ハルト君とクロエでそのドラゴンを善き方向へ導けばよいでしょう」


「うむ。実はそのことで宝石の巫女殿から提案を受けている」


 全員が一斉にアリエスの方を振り向いた。



「ヴイーヴルより、新しく生まれたドラゴンと会わせてほしいと言われてるのよ。その子の本質を見極めたいらしいわ」


「つまり、ハープナに来いということか」


「そうね。明日私と一緒に来てもらいたいの」


「賢者殿、状況的にドラゴンが生まれてしまったのはしょうがないと思う。領主としては今後のことを考えるとドラゴンとの共生が可能か、それとも距離を置くべきなのかの判断をしなければならない」


「そうですね。その判断をヴイーヴルと宝石の巫女の占いに一任するということですか」


「その方がクロエも安心できるだろうし、ハープナの民とヴイーヴルも納得するの。占いはどちらかというとついでよ。私のは予言ではなく、あくまでも占いだから」


「リンカスターの領主としても、宝石の巫女殿の意見に賛同させてもらう。早速で悪いのだが、賢者殿とハルト殿にはハープナへと向かってもらいたい。これからハープナの領主に親書を書くので到着したら渡してもらえるかな」


「はい、もちろんです」


「あ、あの。ちょっといいですか?」


「どうしたのかなハルト殿」


「もしもこのドラゴンの赤ちゃんが悪であると判断された場合はどうなるのですか?」



「その時は、まだ力を持っていない幼生体のうちに何かしらの対処をすべきであろう。物凄く酷いことを言ってもいいなら、ドラゴンという種族を調べる実験体としてその子を欲しがる領主はいくらでもいる。しかも信じられないぐらいの大金と交換してくれるだろう」


「そうですよね……」



「まぁ、そんなに心配するなハルト。少なくとも私はそんな嫌な感じはしていない。その子からは善悪とかではなくもっと純粋なものを感じているよ」


「ハルト殿、嫌な言い方をしたがそもそもリンカスターは隣街であるハープナの影響を強く受けている。共生をしているドラゴンの気持ちを踏みにじるような決断はしないから安心しなさい」


「は、はい。ありがとうございます」


 領主でありながらここまでぶっちゃけた話をしてくれるベルナール・リンカスターという人と隣街のおせっかい賢者様は信じてもいいのかもしれないと思った。

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