第四話 ロード
セーブデータより何番をロードしますか?
マウオラ大森林1
ハルト(16)レベル1
マウオラ大森林2
ハルト(16)レベル1
僕は暗闇の中、宙に浮いているような不思議な感覚のなか頭に響いてくる声に回答した。
そりゃ、まぁ2番だよなー。1番だとまた草を掻き分けて進まなきゃならないしさ……。
「2番で」
セーブデータ、マウオラ大森林2をロードします。……………ロード中……………ロード完了しました。
目が覚めると、腕の傷も足の傷も無く時間が巻き戻ったかのように場所も変わっていた。
「た、助かったのか。い、いや、あの痛みは確かにあった。嫌な感触も残っている……間違いなく僕は一度殺されたんだ。ここは2回目にセーブした場所なのだろう」
景色も見覚えがある。というか、明らかに僕が草を掻き分けて進んできた跡が残されていた。
「ゴブリンがどこから来たのかはわからないけど、これは襲ってくださいと言っているようなものだよな……」
改めて思うとこりゃ大馬鹿だな。明らかに何者かが川に向かって進んでいる形跡がみてとれた。
水のある場所はわかっている。最終的にはそこに向かいたい。しかしながら、その場所は一番危険な場所でもある。
この先を考えるならレベルを少しでも上げて選択肢を増やしたい。レベルアップの恩恵がどんなものかわからないがやるしかない。
ゴブリン一匹ならやれるはずだ。殺らなければこっちが殺られる。どうやら死んでもロードして戻れるみたいだが二度とあんな思いして戻りたくないし、もう死にたくない。今度はこっちが殺ってやる。
ゴブリン達が最初から川に潜んでいた場合は別だが、奴らが僕の川に向かう痕跡を追ってきていたのならば5分もせずにこの場所にやって来るのではないだろうか。
「せっかくならこの馬鹿っぽい痕跡を上手く使って罠とか考えられないかな」
とはいえ、5分で作れる罠なんて知れている。僕が作れたのは草と草を繋ぎ合わせた足を引っ掛けるようなもの程度だった。
罠の上にある木に登り息を潜める。持ち物をもう一度確認しよう。僕の手元には脱いだ靴下に小石を詰め込んで縛ったもの。それからキーケースから自宅の鍵を取り出しギザギザが見えるように手で握りこんでいる。
正直言うとこれらの武器は近接戦闘用なので出来れば選びたくなかったのだが、この状況で無い物ねだりは出来ない。気持ち的には毒吹矢とかでソッと仕留めていきたいのだけど、毒の知識も吹矢もこの場にはないのだからしょうがない。
足音と何かを喋るような声が聞こえてきた。緊張で喉が乾く、手汗もすごい。落ち着け、よく観察するんだ。木の棒を持ったゴブリン二体が話をしながら歩いてきたのだが、僕の作った痕跡を見つけて何やら話をしているようだった。
「ギィー、ギョォォ、ギュイ?」
「ギュイ? ギュイギュイ」
ちっ、二体か。いや、二体なら何とかなるか!? しばらく様子を伺っていると一体が残り、もう一体がその場から離れていった。仲間に伝えに行くのかもしれない。これはチャンスだ!
ゴブリンが見えなくなってしばらく時間が経つ。残ったゴブリンは木を背中にして座っている。あまり遅くなると仲間がやってきてしまうかもしれない。い、行こう!
僕は木の枝からソッと飛び降りると急に現れて驚いているゴブリンの頭目掛けて小石の詰まった靴下で思いっきり殴った。
ウギャー!! グギィー!!
二発目、三発目を振りかぶったところでゴブリンは何も言わなくなり後ろ向きに倒れた。
「ほ、本当に死んでいるのか!? 念のためだっ!」
僕は近くにあったゴブリンの頭ぐらいのサイズはある石を両手で掴んでその頭に落とした。
グチャッ!!!
ものすごい嫌な音が聞こえた後、ピクピクと動いていたゴブリンの動きが止まった。
するとゴブリンの胸の辺りから光が飛び出すと僕の胸に吸い込まれるように飛び込んできた。
「うおぉぉぉ!!! 何か入ってきたぁぁ!」
トクンッ
熱い、体中を熱いものが駆けめぐる。力がみなぎってくる。知識が頭に刻みこまれる。体が……最適化される。
「こ、これが、レベルアップか。なんか魔法を覚えた気がする……そ、そうだ『冒険の書』出ろ! セーブ!」
『冒険の書』は光輝いてページが勝手に捲られていく。
バサバサバサッ この場所でセーブしますか?
「はい」
セーブ1に上書きしますか?
それともセーブ2に上書きしますか?
それともセーブ3に保存しますか?
「えーっと、セーブ3に保存」
セーブしました。
マウオラ大森林1
ハルト(16)レベル1
マウオラ大森林2
ハルト(16)レベル1
マウオラ大森林3
ハルト(16)レベル2
「やっぱりレベルが上がってる! よ、よし、ステータスを見せて」
バサバサバサッ
ハルト(16)レベル2
☆新しい魔法を覚えました
職業:魔法使い
HP:30
MP:10
筋力:10
耐久:5
早さ:5
魔力:20
運:70
魔法:☆魂浄化
装備:小石入り靴下+5、自宅の鍵+5
次のレベルアップまで経験値あと50
どうやら異世界に来たことでサラリーマンから魔法使いに転職させられてしまったようだ。
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