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第三十九話 ベリル

「ところでその子の名前はどうするのだ?」


「そうだね。白いから……」


「シロとか却下だぞ」


「い、いや、違うし……」


「じゃあ、何なのだ」


 安易な名付けはよくないな。もっとこの子のことを想って考えてあげないとね。


 特長を捉えた親しみやすいものを考えようじゃないか。肉球、ぷにぷに、真っ白な羽毛、青い瞳、アクアマリンか。


「この子の瞳なんだけど、僕のいた世界にあるアクアマリンという宝石に似ているんだ」


「確かに宝石のような美しく透き通るブルーであるな」


「アクアマリンは青色の緑柱石ベリルというんだ。ベリル、とかどうだろう……」


「いいのではないか」


「あれっ、妙にあっさりだね」


「真剣に考えておったからな。安易な名付けでなければ構わん」


 す、するどいじゃないか。


「じゃあ、寝てる間は私がベリちゃんを抱っこしよう。起きたらきっとハルトの方にいってしまうからな」


 そっとクロエに渡してあげたらぐっすり寝ているベリちゃんはそのまま優しく抱き締められている。


「ではリンカスターへ戻ろうか。ベリちゃんを起こす魔物は秒で片付けよう」




「すっかり年頃の女の子みてぇじゃねぇか」


「いや、今までがそうじゃなかっただけでクロエはまだ16歳だよ」


「そういやぁ、そうだったか。これで賢者の仕事から解放されるといいんだけどな」


「どうだろうな……今のクロエは解放されたくなさそうに見えるけどね」


「違ぇねぇな」


 ロドヴィックとダリウスの視線の先には16歳の女の子がぬいぐるみを抱き締めているようにしか見えなかった。





 その後、一切起きることのなかったベリちゃんとともに帰路は何の問題もなく、主にロドヴィックさんとダリウスさんが魔物を秒殺していき、その日の夜にはリンカスターに戻ってくることができた。



「先にギルドに素材を預けよう。あとクロエ、その竜の赤ちゃんは周りから見えねぇようにローブの中に隠しておけ」


「わかっている」


「何で隠すんですか? 流石にこの子を竜とは思わないんじゃないですか」


「少なくともギルドの連中は俺達が何処へ行ったのか知っている」


「ジャメルか……。クエストの情報を話すのとか罪に問えないのですか?」


「残念ながらそういうのはねぇ。どちらかというと誰が何処に行ってるとかはオープンだ。俺達はいつどこで死ぬかわからない職業だからな。ギルドでは行先とそのパーティメンバーを記録している」


「ハルト君、ジャメルも流石にニーズヘッグの生死確認のことは言ってないとは思うが、竜の巣へ向かったことは周囲に話している可能性がある」


「なるほど、やはり面倒な先輩ですね。それなら、僕とクロエは先に領主様の所へ向かっていますよ」


「その方がいいかも知れないね。私とロドヴィックで素材を預けるから後で合流するとしよう」


「了解です。ではまた後で」



 広場を抜ける頃、匂いにつられたのかベリちゃんが起床。いつの間にか僕でない人に抱かれていることにショックを受けたのか盛大に鳴き始めた。


「びぃぃ! びぃぃ! びぃぃ!」


「ハ、ハルト、どうしよう。ベリちゃんが起きてしまった。おぉ、よしよし、大丈夫。恐くないよ……」


「抱っこ交代しよう。クロエは、ボア肉を屋台で買ってきてもらえる?」


「わ、わかった」


 クロエがローブからこそっと取り出すと僕を見つけたベリちゃんはそのまま翼をバタバタと暴れながら突進してきた。


 淋しげに見つめるクロエを余所に僕のローブの中に入ると安心したのか落ち着いたように思える。ローブの中で撫でてあげているとザラザラとした舌で僕の手を舐めてくる。


 夜の屋台はお酒も販売しているため騒がしく、ベリちゃんの突然の鳴き声もそこまで目立たなかったようでひとまず安心だ。


「ベリちゃん、ボア肉の串焼きを買ってきまちたよ。お腹空いてまちゅかー?」


 一瞬匂いに反応したのか僕の胸元から顔を出したベリちゃんだったがクロエの顔を見ると逃げるように顔を引っ込めてしまった。


 クロエが赤ちゃん言葉による自爆で顔を真っ赤にしているけど今はそっとしておこう。


 何か仲良くなる方法とかないかな。餌付けもダメだしなぁ。ベリちゃんは僕のことをどうやって判別しているのだろう。といっても匂いとか見た目ぐらいしかないか。


「な、何をしているのだハルト? おっ!」


 僕はローブを脱いでベリちゃんをくるんだままクロエに渡した。ベリちゃんはローブから顔だけ出してキョロキョロしているが、そんなに不安そうな感じには見えない。おそらくだが僕の匂いに包まれていることで安心しているのだと思う。


「ベリちゃん食べる?」


「びぃぃ」


 もしゃもしゃと味わいながらご満悦な表情でおかわりを要求してくる。


 クロエが何か質問したそうな顔をしているが、シーっと口元に人指し指を持ってきて止めさせる。今はまだ声を発しない方がいいだろう。


「びぃぃ びぃぃ」


「ごめんごめん。はいっ、おかわりだよ」


「じゃあ、このまま歩きながら領主様の館へ行こう」


 クロエも頷いて一緒に歩いていく。広場より先の区画は夜になると人も疎らだ。顔だけ出しているぐらいなら大丈夫だろう。今は、ベリちゃんとクロエに少しでも仲良くなってもらいたい。


 僕の匂いに少しずつクロエの匂いが混ざっていっても大丈夫になれば慣れてくれるのではないかと期待している。


 ベリちゃんには騙すようで悪いけど、出来ればクロエとは仲良くなってもらいたいんだ。

しばらく毎日投稿頑張ります。

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エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
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