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第三十八話 竜の赤ちゃん

 真っ白なふわっふわの羽毛に包まれていて、瞳はアクアマリンのように吸い込まれそうな淡いブルー。肉球はピンクでプニプニと柔らかくいつまでも触っていられる。


「びぃぃ びぃ びぃ」



「ハルト、私にもその肉球をさわらせるのだ」


 クロエもこの可愛い生き物に心を持っていかれてしまったようだ。このキュートな生き物が相手ではしょうがあるまい。


「うむ。少しだけだよ」




「ハ、ハルト君、そのドラゴンの赤ちゃんは君にとても懐いているようだけど、これは一体どういうことなんだい?」


「これは多分、刷り込みでしょうね。鳥類などに多いと聞くのですが、生まれて最初に見た動くものを親だと覚えこむ現象だそうです」


「つ、つまり、この子はハルト君を親だと勘違いしているというのか……」


「おそらくですが」


「こいつは困ったなぁ。ドラゴンの赤ちゃんなんか持って帰ってきたら領主様が倒れちまうんじゃねぇか」


 逃げていたロドヴィックさんがいつの間にか近くに戻ってきて領主様の心配をしている。


 しばらくクロエに抱かれていたドラゴンの赤ちゃんだが、僕が近くにいないことに気づいて再びパタパタと飛んで戻ってきた。インプリンティングは完璧なようだ。


「あぁ……」


「クロエ、多分お腹が空いてると思うんだ」


「お、おっぱいは出ないぞっ!」


「いや、知ってるよ。何か食べられそうな物と水をちょうだい」


「そ、そうだな。ちょっと待っていろ。ボア肉を用意しよう」


 生まれたばかりでボア肉を食べられるか不安ではあるけど、ドラゴンのボア肉大好き理論をニーズヘッグとヴイーヴルから得ている。何だかいけそうな気がする。


「ほぉーら、ママでちゅよー」


 クロエが自ら殺されそうになったニーズヘッグの子供と思われし個体にメロメロになっているのは感慨深いものがある。


 第一印象は見た目で9割近く判断されると何かの雑誌で読んだことがあるが、まさにお見事である。


「な、何故食べてくれないのだぁ……」


「僕に貸して」


「びぃー びぃー びぃー」


 一欠片のボア肉を見せると微妙に鳴き声が変わって、ジーっと僕を見てくる。どうやら食欲はありそうなので一安心だ。


「はいっ、ゆっくり食べるんだよ」


 小さな口を頑張って開けているドラゴンの赤ちゃんにボア肉を押し込むと目を細めて咀嚼し始めた。おっぱいよりボア肉でよかったようだ。


 この世界にドラゴン研究家とかいたら教えてあげよう。ボア肉万能説。


「か、可愛らしいのだな」


 食後に少し水を飲んだドラゴンの赤ちゃんは僕の腕の中でぐっすりと寝てしまった。敵に腹を見せるとは油断も甚だしい。


「お二人さん、そろそろいいか?」


 ロドヴィックさんが眉間にしわを寄せたまま眠るドラゴンを見ている。


「そうですね。どうしましょう」


「まぁ卵からかえってしまったものはしょうがねぇだろう。今のところ危害を加える気配とかは皆無だしな。この巣穴を破壊して街に戻る」


「ハルト君、ドラゴンの赤ちゃんが人に懐くとか聞いたこともないのだが、やはりその子はニーズヘッグなのだろうか」


「見た目が違いすぎますが、この場所にいたということを考えると今の姿がニーズヘッグの幼生体という可能性は高いかも知れませんね」


「こんな可愛らしい子があんな凶暴なドラゴンになってしまうのか!?」


 クロエが体を撫でながら驚いている。いや、普通に考えたらそうでしょうが……。


 それにしても卵の時とは事情が変わってしまったな。既にこの子は僕のことを親だと認識している。将来のことはわからないけど、領主様から小さなうちに始末しろと言われたとしても反対するぐらいには愛着が湧いてしまった。


 赤ちゃんはズルい。この愛らしい寝姿。僕への信頼を隠さないどころか裏切られるとか一切考えていないだろう。


 しかし、もう出会ってしまったものは仕方あるまい。


 僕の気持ちはもう固まっていた。


 この子の親となり味方となり守ろうと。


 もしも僕のこの判断が間違えていたのならまたやり直せばいい。


 僕はこの小さな命のために1番目のセーブを封印することにした。



「クロエ、魔力量が少ないところ申し訳ないがここの破壊を頼む」


「了解した」



 大きな破壊音とともに深淵とその周辺地域に長く影響をもたらしていた竜の巣が崩れ去った。


「ハルト、顔付きが変わったじゃねぇか。さっきまたセーブしただろ」


「あっ、わかりましたかロドヴィックさん」


「いや、なんとなくというか勘だ。それがハルトの気持ちという訳か」


「そうですね。これが僕に出来る責任の持ち方ですからね」


「ハルト君の気持ちに免じて、僕らも領主様には最大限フォローしてあげるとするよ」


 竜の巣を破壊し終わって戻ってきたクロエはどこまで僕達の話を聞いていたのかわからない。でも、僕の気持ちを汲み取ってくれたのか、はたまたメロメロにされたのかは定かではないがどうやら同じ道を歩き続けることを決めてくれた。


「安心しろ、私もハルトとともにその子の親になるからな」


 なかなかに男らしい賢者である。

しばらく毎日投稿頑張ります。

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エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
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