第三十五話 ワイバーン2
ブォビィァァァァァァァ!!!!
ブォォン! ブォォン! ブォン!
叫び声にならないような音を発し、尻尾をこれでもかとぶん回しながら暴れまわっている。
ま、まだ生きてるのかよ……。
最後の力を振り絞っているのならいいのだけど、見た目にはよくわからない。
みんなは何とかワイバーンの攻撃を食らわずに離脱に成功している。よし、僕も攻撃しておこう。
火炎竜巻!
見事顔面を捉えた僕の魔法はそれなりに効いていたのか条件反射のように繰り出された尻尾で吹っ飛ばされた。あれっ? 前にもこんなことがあったような……。
「ハルトっ!!」
「だ、大丈夫……ごふっ」
クロエを心配させまいと声を出したけど一緒に血も吐いてしまった。
「もっと離れて魔法を撃て! 危ないだろう。癒しの風」
「ご、ごめん。助かったよ」
ロドヴィックさんが盾と短槍をぶつけ音を立てながらワイバーンの気を反らしている。何度も頭部に魔法をもらったことで目が見えてないようだ。つまり、ダリウスさんの動きは見えていない。
剣に魔法を付与したのであろう。紅い闘気のようなものを纏ったダリウスさんの剣はヤバい雰囲気を醸し出している。
ワイバーンの後ろから飛び上がり背中の抉れている傷を目掛けて斜めに斬りかかる!
「パワースラッシュ!!!!」
誰もがこれで決まったと思っていた。いや、決まるはずだった。
その瞬間、動きに陰りが見えていたはずのワイバーンは目を見開くと俊敏に振り返り、まるで待ち構えていたかのように斬りかかる寸前のダリウスさんの胸を空中で貫いた。
「カハッ……」
「ダ、ダリウスさん!?」
「クロエ、回復魔法を急げっ! 俺が時間を稼ぐっ!!」
ワイバーンは自らの尻尾に突き刺さっている異物をどけるかのように振り回すとダリウスさんは飛ばされ、勢いよく木の幹に叩きつけられるとそのまま頭から倒れていった。
ピクリとも動かない……。それは既に手遅れだと感じさせるに十分だった。
「うおぉぉぉぉ!!!!!」
ロドヴィックさんが猛攻を仕掛けるものの爪と尻尾を使いあしらわれている。何で怪我してからの方が強くなってるんだよ!
「ハルトっ! ワイバーンを消すのだ!」
「でもっ」
ロドヴィックさんが付かず離れず戦っているため、魂浄化が撃てない。
「ハルトぉ! 俺に構わず魔法を撃つんだ! その魔法は邪なるものにだけ効くんだろうがっ」
そ、そうだった。僕の頭もかなりパニックっている。とにかく急いで魔法をっ!?
スパンッ! プシュゥゥゥゥゥ
「ロドヴィック!」
「ロ、ロドヴィックさん……」
鋭利な刃物のように尖った尻尾はロドヴィックさんの頭をはねると血のシャワーを浴びていた。
残りの獲物を探すかのようにゆっくりとこちらを見るワイバーン。それは捕食者の顔だった。
「ハ、ハルト、すぐに逃げろ! わ、私がしばらく足止めをする。最初に会った滝のある川で再度集まるぞ……」
嘘だ……。
わかりやすく足が震えてるの見えてるんだからね……。
何かを決心したようなその目。前にも見たことがある。また自分を犠牲にして僕を逃がそうとしているのだろう。
「とうしたのだ! は、早くっ」
「ロード」
グラリと頭が揺れると急激に景色が切り替わっていく。時間が巻き戻っていく感覚で気分が悪い。何とも言えない気持ちの悪さが残るなか、僕はセーブした場所に戻っていた。
ギュオォォォォォ!!!!!!
ワイバーンの叫び声が聞こえる。
「ロドヴィック止まろう! 私がこの先の様子を見てくる。みんなは少し休んでいてくれ」
「わかった。ダリウス無理はするなよ」
「あぁ、わかっている」
そう言うとダリウスさんはさっきまでよりも更に速いスピードで進んでいった……。
「二人に話があります。今から僕が話すことが本当だったらこれから起こることを信じてもらいます」
急に神妙な顔で話し始めた僕を見て二人ともちょっと驚いている。
「急にとうしたのだハルト」
「何か隠してることがあるんだな?」
「はい、そうです。ロドヴィックさん」
「なっ、どういうことなのだ! ハルト?」
「クロエ、ちょっと静かにしていろ。ハルトいいぜ話せよ。今は休憩中だからな」
「そ、その前に水をください。走っていたことを忘れていましたよ」
疑問だらけの顔をしながらもクロエが水筒を取り出してくれる。
さっきまでの戦闘と今現在の走って喉が渇いている状態が微妙にリンクして変な感じになっている。
「……さて、何から話そうか」
ロドヴィックさんもクロエも気になるようで僕をジッと見ている。
「ロドヴィックさんがレベル38でダリウスさんのレベルは36。次いでに言うとジャミル先輩がレベル30になったばかりです」
「なんでそんなこと知っている。俺らのレベルはハルトには言ってなかったはずだが、ギルドで誰かに聞いたのか?」
「つい10分ぐらい後のロドヴィックさんから聞きました」
「はぁ? 俺はそんな話してねぇぞ」
「はい。今目の前にいるロドヴィックさんではなく、10分後のロドヴィックさんです」
「クロエ、ハルトの言ってる意味わかるか?」
「うーん……」
クロエもよくわからずに唸っている。
「ではもう1つ、ダリウスさんは戻ってきたら大型のワイバーンがいると言います」
「ハルト、一体何が言いたいんだ」
「何の話をしているんだい? ところで、困ったことに巣穴の近くにワイバーンがいた。しかも大型のワイバーンだった。通常の2倍近いサイズはあったな」
「大型のワイバーンだと!?」
「ハルトどういうことだっ!」
「えっ、何か変なこと言った?」
「ダリウスは黙っていろ!」
「静かにするのだっ」
これでどうにか信じて貰えそうだ。
問題はこの後どうするかだね……。
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