第三十四話 ワイバーン1
木の影からゆっくりと覗き見るとフォレストエイプの無惨な姿と食事に夢中のワイバーンが背中を向けていた。
「クロエ、あれ思っていたより大分デカイんだけど。本当に大丈夫なの?」
「確かに大型ではあるが何とかせねばならん。ダリウスから合図が出ている。やるぞ」
僕とクロエはそれぞれ左右の翼目掛けて魔法を放つ。先に言っておくが僕の魔法はおまけみたいなものだけどね。
火炎竜巻!
僕の使える中で一番威力のある全体魔法だ。左側の翼を中心に魔法を撃った。
MP消費5
煉獄乱舞!
こちらはクロエの放った全力火属性魔法。同じく全体魔法で発動後の効果がとても長く続く魔法だ。粘着性の高い炎がまるで生きているかのように舞い狂い対象にまとわりつく。
MP消費20
ギュアァァァァァァァァ!!!!!!
ほらっ、僕の魔法いらなかったよね。
翼というより背中一面に広がるように燃え盛り暴れるワイバーンを見ながら僕とクロエは一時撤退する。これで翼は使い物にならないだろう。ここからはロドヴィックさんとダリウスさんのコンビの出番だ。
「ほらっ! こっちだワイバーン」
ロドヴィックさんが盾を構えながらワイバーンを挑発する。一瞬僕の方を睨んでいたワイバーンがくるりと振り返る。ロドヴィックさん素敵です!
怒り狂ったワイバーンはロドヴィックさんに突進していくが、ここで魔法を一つ。
深眠
カクンっと膝から崩れ落ちていくワイバーン。
効果は抜群だ!
「ナイスだ! ハルト君!」
ダリウスさんがすぐさま木陰から飛び出して首を中心に攻撃を加えていくが鱗が硬いようで剣が弾かれてしまっている。
「ダリウス! 俺が突き刺すから背中を狙ってくれ」
続けてロドヴィックさんが短槍で首もとに突き刺していくが数枚の鱗が剥がれただけ。何だこの防御力は……。
「そろそろ目覚めそうです! いったん離れてくださいっ!」
「了解!!」
追加だ、喰らえ! 深眠!
ギュアァァァァァァァァ!!!!!!
効果無し。ヤバい、失敗した……。
煉獄乱舞!
続けざまにクロエが撃った二回目の魔法も同じく背中にヒットする。暴れるワイバーンに対して流石のコントロールだ。伊達に火の賢者を名乗ってはいない。
ギィヤァァァァァァァァ!!!!!!
右側の翼は焼け落ちており、攻撃が通りそうだ。狙うならそこだ! もちろん僕が最初に狙った左側の翼はまだなんとかくっついていた。
「背中だ! ロドヴィック殿、ダリウス! 翼の右側なら攻撃が通るはずだ!」
「よし、わかった! ダリウス行くぞ!」
「了解したっ」
ロドヴィックさんが正面に立ち、ワイバーンの攻撃を受け流しながら意識を前方に向けさせる。その隙をついて後方からはダリウスさんが着実に背中の傷を抉って広げていく。
「ハルト君、隙を見て例の魔法を頼む!」
「オッケーです」
例の魔法ってのはもちろん深眠のことである。この魔法、味方にも効いてしまうので注意が必要だ。戦闘中に仲間がぐっすりいってしまったら目も当てられない。細心のコントロールが求められる。
「ハルト君、今だっ!」
ダリウスさんのヒットアンドアウェイが見事に決まった瞬間、魔法の狙いどころがやってきた。
深眠!
その瞬間、再び目を閉じてバタリと倒れこむのはワイバーン。
よしっ! 決まった!
「クロエ、ハルト君来てくれ!」
「ダリウスもちょっといいか?」
ロドヴィックさんがワイバーンの側にみんなを集める。何か作戦があるのだろうか。
クロエの方を見ると頷いて行くぞっ! っとワイバーンを指差している。仕草がいちいち男前な賢者である。
「ハルト、このワイバーンはこちらから攻撃しない限りはしばらく寝てるんだろ?」
「そうですね」
「こいつの防御力はかなり高ぇ。このまま削っても勝てるとは思うがかなり時間が掛かってしまうだろう。そこで手っ取り早くだな、こんな方法はどうかと思ってな」
ロドヴィックさんの作戦はワイバーンが眠っているからこそ出来る作戦。何というかちょっとズルい攻撃ではあるが、効き目はとてもありそうに思えた。
「ダリウス、もう少し持ち上げろ。そーっとだぞ」
「ロドヴィック、これ俺達も魔法の影響受けないだろうな!」
「クロエを信じろ。魔法をぶちこんだら逃げるぞ」
作戦の内容はこうだ。ロドヴィックさんとダリウスさんでワイバーンの上顎を持ち上げる。そして、クロエがワイバーンの口の中目掛けて先程の強烈な魔法を放つ。外側の防御力が高いなら中から焼いてしまおう作戦である。
ちなみに僕の役割は失敗した時の時間稼ぎで火炎竜巻をワイバーンの顔面にぶつけてくれればその間に態勢を立て直すので逃げてくれとのこと。
クロエが集中して魔法の発動準備をしている。左手に持っている杖はワイバーンの口の中に半分入っている。魔法を撃った後はロドヴィックさんがクロエを抱えて離脱する。
「準備はいいな。いくぞっ」
煉獄乱舞!
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