第三十二話 森の異変1
他の魔法の説明をしたところ、アストラルで普通にある魔法らしく何故か物凄くがっかりされた。お腹壊しても毒消治癒してあげないんだからね。
「なぁハルト、不思議な魔法を覚えたらすぐに知らせてくれよ。魔法によってはギルドとしても緊急時に力を借りたい時があるかもしれねぇ。戦略は多いほど人の命が助かるからな」
「緊急時ですか……。僕的には早く水魔法を覚えたいんですけどね。僕が水を出せれば荷物も大分楽になりますからね」
「おっ? ハルト、回復魔法はよかったのか?」
僕の希望を常々聞いていたクロエが気になったようだ。
「今のところクロエが使えるでしょ。後回しでもいいかなと。でもこればっかりは自分が覚えたい魔法を習得する訳でもないからなぁ」
「確かにそうだな。私も攻撃魔法が火属性しかないから同系統の魔物が現れた時に苦労しそうなのだ。その時にはハルトの水魔法を頼りにしたいところだな」
「すっかりパーティらしい考えになってきてるじゃねぇか。よかったなクロエ」
「ロドヴィック殿、私はハルトのお陰で自分が少し変われそうな気がしています」
「いや、もう大分変わってるんじゃねぇか」
「私も楽しそうなクロエを見て少し安心したよ。ハルト君に感謝だな」
ダリウスさんもなんだか嬉しそうだ。なんだろう、この娘を眺めるようなあたたかい目線は。ダリウスさん何歳ぐらいだろう。見た感じだと30前後かな。ロドヴィックさんも同じぐらいだと思う。
何はともあれクロエが言うほどいろんな人に嫌われている訳ではないことがこの数日でわかってきた。クロエのレベルアップで命を落としたり重傷を負った冒険者やその仲間、家族とかは許せない気持ちが強いのだろう。
一方お店関係は基本的に応援してくれているように感じなくもない。微妙にこっそり値引きしてくれたり、食料の買い出しはおまけしてもらえる。まぁ食料はマリエールというか孤児院への寄付的な意味合いも含まれてるかもしれないけどね。
「いやいや、僕の方こそクロエに感謝していますからね。転移して右も左もわからない僕を助けてくれたのはクロエなんですから」
「二人ともよかったじゃねぇかよ。俺はいいコンビだと思うぜ」
僕からしたらロドヴィックさんとダリウスさんの前衛コンビの鉄壁さの方が驚いている。今歩いている場所は中層になるんだけど猛ダッシュしてきたグリズリーを盾で受け流しつつ短槍で前足を突き刺し、動きが遅くなったグリズリーをダリウスさんが一刀両断。
何この流れるような討伐は……。もうね、見せるだけでお金とれると思うよ。
中層を越えてしばらく進んだ頃にロドヴィックさんが今後の注意点を説明してくれた。
「ハルト、これから先はフォレストエイプがいるテリトリーだ。魔法でのフォローしっかり頼むぜ。奴らは木の上から攻撃してくるから気をつけろ」
「木の上からどうやって攻撃してくるんですか?」
「奴らは投石や魔法、それから糞も投げるな」
投石はちょっと怖いな……ん? ふ、糞だと!?
「ふ、糞ですか?」
「糞は最終手段というか嫌がらせだろうな。魔法を使えない奴は投石で、魔法を使える奴は土魔法で石礫という石を飛ばす魔法で攻撃してくる」
「どちらにしろ石か糞が飛んでくるんですね。なんと恐ろしい……」
「我々は普通に避けられるから当たることはないがハルトは危ないと思うから気をつけろよ」
な、なんだその突き放すようなコメントは!
クロエが鼻を摘まみながら顔の前で臭い臭いと手を振っている。
「ま、まだ糞ぶつかってないってばっ!」
「ハルト君、慣れるまではロドヴィックの盾の後ろに隠れるようにして進むといい」
「ハルト、糞は俺も避けるから遅れるなよ」
「ぜ、善処します」
「それにしても、ちょっと変な雰囲気じゃないか?」
「ダリウスもそう思うか。何というか森が慌ただしいな……。」
ホゥーホゥ、ホゥーホゥ、ホゥッホー!!!!
「ハルト来たぞ! 早く俺のそばに来るんだ!」
木の上では興奮したフォレストエイプ達が叫びながら僕達には見向きもせずに通り過ぎていく。糞も石も飛んでこない。
「いや、やはりおかしい。なんで通り過ぎて行くんだ!」
「ダリウス、これはどういうことなのだろうか?」
クロエにも不思議な光景に映るようだ。明らかに何かしらから逃げているように見える。
「わからん! ま、まさかニーズヘッグなのか!?」
「ハルト君、この感じならばフォレストエイプは大丈夫だろう。ロドヴィックを先頭にして後衛に戻ってくれ。フォレストエイプが来る方角へ急いで進む!」
「了解ですっ!」
ロドヴィックさん、ダリウスさんの歩みも徐々に速くなっている。二人とも結構な重装備なのになんでこんなに速いの……。レベルいくつか聞くの忘れてたな。
それにしても異様な雰囲気だ。魔物が逃げている。この先にはいったい何があるのだろう。
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