第二十九話 ハルトの秘密
「あっ、どうもです」
とりあえず、ジャミルらしき人はわざと見なかったことにしてロドヴィックさんとダリウスさんにご挨拶させてもらった。ダリウスさんはジャミルの方を見ながら苦い顔を見せつつ軽く手を上げてくれている。体が大きく面倒見のよい優しそうな印象の方だ。
「なんだシルバータグじゃねぇか。おいっ! こいつが行けて何で俺が行けないんだ! そこのハープナの賢者ではなくこのシルバータグの小僧なんだろ?」
「そうだ。私のパーティの一員でハルトという」
「ふざけるな! ちゃんと説明しろ!」
「説明も何も今回のクエストはあくまでも確認がメインのためスピード重視とさせてもらったまで。ニーズヘッグを消し去った瞬間は私が覚えている。ドラゴンスレイヤーの称号は残念ながら今回のクエストでは手に入らないぞ」
「お前が倒し損なっていて弱ったニーズヘッグが巣に残っている可能性があるだろうが!」
ドラゴンをバカにされたような気がしたのだろうアリエスが黙っていられなかったようだ。
「もしも手負いのドラゴンが巣にいたとして、あんたの魔法で倒せるわけないじゃない。ドラゴンを舐めてるのか?」
「隣街の賢者は黙っていてもらおうか。ここはリンカスターなんだ。口を挟むな!」
「口を慎めジャミル! 宝石の巫女殿、申し訳ございませぬ。ジャミル、ギルドとしてもクロエの言う通りスピード重視のクエストとして判断している。足に古傷のあるお前は留守番してろっ!」
「チッ! 大事なクエストで俺を外すとは賢者様も偉くなったもんだな。どけっ」
捨て台詞のようにそう言い放ったジャミルは入口付近にいた僕の肩を押して出ていった。僕の中の嫌な奴ランキングがダミアンに続き堂々の2位にランクインした瞬間であった。
「ふぅー、やっと出ていったか。ハルト君と言ったかな? クロエのパーティとは面白い、私はダリウスという。よろしく頼むね」
「はじめましてハルトです。ダリウスさん、こちらこそよろしくお願いします」
「ハルトはギルド登録初日に絡んできたダミアンを倒し、リンカスター最速でシルバータグになった期待の新人なんだぜ」
「ロドヴィック、それは本当か!?」
「あぁ、間違いないぞ。しかも登録時のレベルは確か5だった」
「その格好は魔法使いか? 何か特殊な魔法でも……」
「いや、あれっ? 拳で倒していたな……」
「ハルトはモンクを目指しているのか? 将来職に困ったらハープナで雇ってやってもいいわよ」
「いや、遠慮しとくよ」
「即答か!?」
「ダミアンを倒したのはまぐれだし、最速でシルバータグになったのもクロエのおかげなんだ。クロエ、扉を閉めよう」
「うむ、わかった」
クロエが部屋の鍵を閉めたのを確認すると僕は小さな声で外に声が漏れないように話し始めた。
そう、異世界からの旅人であることと魂浄化についてだ。
「なるほど、クロエとパーティを組んでいるのも納得した。ハルトは異世界からの旅人だったか」
「ダリウス、それよりもニーズヘッグを消し去ったという魔法だろう。まさかクロエではなくハルトがニーズヘッグを……ダミアンどころの話じゃねぇな。ハルト、その魔法の特徴を教えてくれないか?」
「クロエ! ハルトの話していることは本当のことなの!? このことはヴイーヴルにもちゃんと伝えるわよ」
「み、みんな声が大きいですよ。一応、ここにいるメンバー以外には秘密にしてほしいのです。領主様にも異世界からの旅人であることはお伝えしていますが魔法のことは話してません」
「す、すまない。いや、でも領主様に話さなかったのは正解かもしれんな。そんな魔法があると知られたら他の領主も放ってはおくまい。下手をしたら全てのドラゴンを消し去れとか無茶なことを言われかねないからな」
ダリウスさんの落ち着いた分析にみんなも頷いている。何それ怖いんだけど……。
「では魔法のことを話しますね……」
僕が説明したのは、『冒険の書』の魔法の欄に記載されていることをベースにして一部変更して伝えた。変更した箇所は魔法成功の確率部分だ。『失敗する場合もありその確率は不明』という部分を『失敗する場合が殆どで成功の確率は相当低い』と変えることにした。
正直なところ、あまりこの魔法に期待をされても困るのだ。
「邪なる者か……ヴイーヴルは違うよな……」
ドラゴンを消し去る魔法だけにアリエスは邪という部分が気になっている。
「確率は相当低い……。一体どのくらいなんだ?」
ロドヴィックさんもギルドマスターとしてギルドの一員である僕の魔法がどのくらい使えるものなのか気になっているのだろう。
「ハルト、今までプリチーソウルで消した魔物はどのくらいなのだ?」
「クロエと会う前にゴブリンとワイルドボアも消しているけど、細かい確率まではわからないかな。もちろん何度も何度も失敗しているよ」
「その魔法が人や共生をしているドラゴンにも効果があるのかは気になるな」
「ダリウスさんのおっしゃることもわかりますけど、こればかりは試す訳にもいかないでしょう。今のところわかっているのは、邪なるものの定義っていうのが魔物と獰猛なドラゴンに有効だということくらいですかね」
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