第二十八話 ジャミル
次の日、クロエとともにギルドに向かうと一緒にアリエスもついてきた。この賢者、用事とか大丈夫なのかな?
「そういえば、アリエスさんはリンカスターに何か用事があったの?」
「う、占いで啓示があったのよ。リンカスターの方角で何かが起きていると。それにヴイーヴルがニーズヘッグの魔力が消えたというからクロエを心配して……一応その、顔を出しに来たのよ」
「アリエス、忙がしいのに私のためにすまないな」
「べ、別にクロエだけを心配してる訳ではないんだから。リンカスターで何かあったら隣のハープナだって危険なのだから当然のことだわ」
占いで啓示とかちゃんと巫女っぽいところもあるようだ。流石、『地の賢者』なだけはある。
「それで、クロエからニーズヘッグの話は聞いたんでしょ」
「えぇ聞いたわ。でも、とても信じられない話だわ。歴史的にもドラゴンが消えたことなんてないの。何かしらの理由があってニーズヘッグが身を隠しているか、または生まれ変わっている可能性の方が高いと思うわ」
「なるほど、深淵にあるドラゴンの巣に生まれたばかりのニーズヘッグがいるならその場で丸焼きにして食べよう」
「生まれ変わったばかりだとしても油断しないことね。ドラゴンを甘く見ない方がいいわ。人の世界を壊すのなんて簡単にやってみせるのだから」
やはり普段からドラゴンと向き合っているだけあって言葉が重く感じられる。
「ありがとう、アリエスさん。もちろん気をつけて油断はしないようにするよ」
「あなたがクロエの友達なら私のこともアリエスと呼び捨てで構わないわ。ただ、ハープナではアリエス様と呼ぶようにした方がいいわね。こうみえて私の信者は嫉妬深いから」
「り、了解。宗教は何かと怖いっていうからね」
「ふん、よく理解しているじゃない」
「そうなのか? 信心深いのはいいことだと思うのだが」
「甘いわね」
「わかってないなクロエ」
「ふ、二人して何なのだ!?」
「私が言うのも何だが、宗教は良い意味では心の平安と安らぎを与えてくれるものだけど、行き過ぎてしまうと個人としての思想が失われていくの」
「それは悪いことなのか?」
「そうだな、想像してみるといい。皆が同じ考えで動き、個々の考えが失われていく世界。誰かが間違った行動をしたら全員が粛正に動き、その事を誰も何とも思わない」
「それはちょっと怖い世界だな」
「何事も行き過ぎはよくないということよ。一応、言っておくけどハープナはそんな危険な宗教の街ではないからね」
「そうだね。自分の考えがしっかりとあった上で信じる神様に祈りを捧げるのはとても素敵なことだと思うよ」
「ハルト、お前は何歳なのだ?」
「ハルトは私と同じ16歳なのに、たまに変に大人びたところがあるのだよ」
「考え方が爺くさくて悪かったねっ!」
「なるほど、異世界からの旅人ならではの知識ということか」
「そうかもね。魔法がない代わりに様々な技術力が発展した世界だよ」
「ほぅ。詳しく話を聞かせてもらいたいものね」
「まぁ、そういうのが面倒だから周りには黙っていてもらえると助かるよ。実際どんなことがこの世界で助けになるのかまだ考えてないんだよね」
「つれないのね。まぁ、いいわ。今日は1日同行させてもらうからよろしくね」
「えっ? 僕のレベル上げだからあんまり面白くないと思うよ」
「短期間でシルバータグになったそうじゃない。邪魔はしないから安心してよ」
なんかチェックされているみたいで微妙ではあるけど隣街の賢者と話す機会もそう多くないだろうからこちらもしっかり情報収集させてもらおうと思う。
「はいはい。クロエ、ギルドには明日の件で行くんだよね?」
「うむ、本人がいればいいのだが。まぁ、いなくてもエミリーに言付けを頼めばよいだろう。明日は深淵に出発だから今日はワイルドボアをターゲットにして早めに切り上げよう」
「うん、了解」
話ながら歩いていたらいつの間にかギルドに到着していた。僕自身、リンカスターの街にも大分慣れてきた。とはいえ、油断すると迷子になるのでまだ気をつけたい。
リンカスターの街は裏道に入るとどこも似たような狭い路地となり同じような風景に見えてしまいまるで迷路のように感じる。軽い気持ちで近道しようとしたら逆に大変なことになること必至。買い出しからの帰り道で軽く迷子になったことは秘密だ。
「ハルトさん今日は早いお越しなんですね。あっ、賢者様もご一緒でしたか」
「私もいるわ」
「ひえぇー、賢者様がお二人も!?」
どうやらアリエスはレアキャラらしい。エミリーが驚いているのは珍しい。
「すまないエミリー。ロドヴィック殿かダリウス殿はおられるか?」
「あっ、はい。ちょうど明日からの打ち合わせをしております。みなさんが来られたことをお伝えしてきますね」
「あぁ、助かる」
エミリーが向かった先で何やら争うような声が聞こえてきた。エミリーが扉を開けたことで音が漏れたのだろう。
「何で俺が同行できないんだ! ドラゴンスレイヤーの称号を俺に渡したくないということか!」
「おい、静かにしろジャミル。声が聞こえちまうだろうが! 人員については領主様と賢者殿で既に決められているのだ」
「手柄はお前らだけで独り占めか。ふんっ、あの賢者らしい厭らしい考えだな」
「これはニーズヘッグを討伐出来たのかを確認するためのクエストだ。手柄も何もあるか」
「だったら俺が同行してもいいだろう」
軽く溜め息を吐きながらクロエが入室した。
「……失礼する。すまないなジャミル。メンバーは変更なしだ。私のパーティとロドヴィック殿、ダリウス殿で向かう」
「パーティだと?」
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