第二十六話 不公平
街に戻るとクロエは食材の購入に行くとのことで別行動だ。僕はいつものようにギルドで素材の買い取りをお願いにきている。
一人でいるせいなのか、なんだか周りからジロジロと見られているような気がする。な、なんだよ。お金とかあげないからなっ!
ちなみにクロエだけど、なるべくギルドに顔を出さないようにしているのだろうと思う。荒くれ者や賢者嫌いの多いギルドではあるが、僕のレベルがある程度上がったのでもう大丈夫だと判断されているのだろう。最早、今後の買い取りについては僕に一任されそうな勢いである。
目線を感じてちょっとだけ嫌な気分になりながら買い取りの査定待ちをしていると受付を担当しているエミリーがおもむろに話しかけてきた。
「ハルトさんは賢者様とパーティーを組まれていらっしゃるのですよね?」
「パーティー? そうだね、二人きりだけど。それがどうかしたの?」
「それがどうもギルドで変な騒ぎになっておりまして……」
ちょいちょいと手招きされて、エミリーに近づくと周りに聞こえない程度の大きさでその騒ぎとやらの話をしはじめた。
「ハルトさんがあっという間にシルバータグになったのを見て不公平だ! 何か賢者の入れ知恵でレベルを上げているに違いない。賢者は俺たちに迷惑を掛けたのだから自分たちのレベルアップも手伝うべきだ! とか騒いでいるのです」
「それはまた随分と勝手なことを言うもんだね」
「はい。マスターにも匿名で嘆願書が届いたようで、キレたマスターが暴れたりして今ギルド内は大荒れなのですよ」
困った顔をしながらも情報を教えてくれたエミリーには感謝だ。
僕はわざと周りに聞こえるように言ってやった。
「当たり前だけど、クロエにレベルアップを手伝えというのならドラゴンを街に近寄らせないようにするのも手伝ってもらわないとね!」
「ハ、ハルトさん!?」
「もちろん、決めるのはリーダーだからパーティに入りたいならばクロエに頭を下げてお願いすることになるかなぁ」
「てめぇ、新入り! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「調子にねぇ……じゃあ聞くけど、君はクロエとともにドラゴンと対峙したことはあるの?」
「お前馬鹿か? ドラゴンを追い払うのは賢者の仕事だ。手伝うにしてもゴールドタグ以上の役回りだ。俺には関係ねぇ」
「関係ない? 街を守ってもらっているのに? 君達はドラゴンのことをクロエに丸投げしているのに更にレベル上げも手伝えと言うの?」
「俺ぁよぉ、一応賢者のレベルアップを手伝ってやったんだ! だったら俺のレベルアップを手伝ってもらう資格が奴にあるとは思わねぇか?」
「お前ただの荷物持ちじゃなかったか?」
「いいんだよ、どうせわからねぇんだしよ!」
「エミリー、クロエのレベルアップを手伝った報酬はギルドから支払われているんだよね?」
「はい、全て支払われております」
「じゃあ、君たちはクロエというかギルドにお金を払ってレベルアップを手伝ってもらい、尚且つ、クロエがドラゴンの見張りを出来ない間、ゴールドタグの冒険者達の支払いもお願いしないとならないね」
僕がエミリーを見るとすぐに頷いて説明を引き継いでくれた。
「ゴールドタグ5名以上の確保ですと10日で約5百万ゴールドが必要です。とはいえ、5名ものゴールドタグの冒険者がリンカスターに集まることは難しいでしょう」
「ありがとうエミリー。ということらしいんだけど支払えるの? その依頼を見かけたら一応は考えてみるよ」
「お、お前はどうなんだ! 金払ってねぇだろ!」
「僕はパーティの一員だからね。もちろんドラゴンが街に近づくならクロエの手伝いをするために一緒に対峙するよ。君たちは出来るの?」
「ふんっ、口では何とでも言える」
ガチャッ
「あっ、マスター」
「なっ!? ギルマス!」
奥の扉から出てきたのはギルドマスターのロドヴィックだった。
「お前らまだその話をしてるのか! 次またその話をしたらまたぶん殴るぞコラッ!」
「だって、この新入りだけ卑怯じゃねぇかよ!」
「勘違いしているようだから言っておくが、前回深淵のドラゴンが街に近付いた際、そこのハルトはクロエとともにドラゴンと対峙している。領主様からの情報だから間違いない」
「マ、マジかよ!?」
「ということなので、僕はそろそろ家に帰りますね」
「毎度すまねぇな、ハルト」
「いえ、問題ないですよ」
「そういえば、ダリウスが今日戻ってきたとクロエに伝えといてくれ。2日後には出発できるそうだ。もちろん俺も準備万端だぜ」
「そうだったんですね。了解しました、クロエに伝えておきます」
「ハルトも来るのか?」
「えーっと、そのつもりです」
「そうか。ダリウスも俺もいるから安心してくれ。リンカスター最速でシルバータグになったハルトの戦闘を見るのを楽しみにしてるからよ」
「はははっ。ロドヴィックさんは前衛なんですか?」
「見た目で判断しやがったな! まぁそうだけどよ。ダリウスと俺が前衛を受け持つから安心してくれ」
「それはとても心強いです。足を引っ張らないように頑張ります」
「お、おい! 新入り、お前も深淵に行くつもりかよ!」
「そうですけど?」
「お前わかってるのか? ニーズヘッグが本気になればあんな若輩賢者、あっさり殺られるんだぞ!」
「それを理解していて何もしないあなた達が僕には信じられない。クロエを手伝うことは何もドラゴンと対峙することだけではないはずです」
「…………」
「きっとクロエがいなくなったらあなた達は街を出るんでしょうね。別に構わないんですけど、僕たちに構うのもやめてもらっていいですか?」
「…………」
「ハルト、それぐらいにしてやってくれ。こいつらのことは俺も教育していく。それにしてもお前本当に16歳かよ」
「すみません。偉そうなことを言ってしまいました。では二日後よろしくお願いします」
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