第二十五話 特訓
あれから森を歩き続けてはダッシュして向かってくる強面のグリズリーをひたすら討伐するを繰り返している。慣れたもので5発以内では倒せるようになってきているから不思議なものだ。人間何事も経験が大事なのだろう。
ちなみに、基本職業のことだけど、戦士や武闘家、弓士でも魔法を使えるとのこと。どちらかというと付与魔法としての使い方が多いらしい。つまりは剣や矢などに魔法の力を付与することで属性やパワーを乗せられるようだ。
「戦士の剣技ならパワースラッシュなどがよく使用される付与魔法だな」
「おぉ、なんだかカッコいい名前だね! 僕は魔法戦士を目指してみようかな」
「上級職はレベル40を超えてから選べるようになるから、それまでに自分の適性をしっかり見つめ直すといいだろう。そもそも上級職に届かない者がほとんどなのだがな……」
例えばレベル40を超えた魔法使いが剣で魔物を倒すと戦士としてのレベルが上がるのだそうだ。ちなみに、レベル40以下の魔法使いが剣で魔物を倒しても魔法使いとしての経験値しか貯まらない。
話を戻すと、レベル40を超えた魔法使いが剣で魔物を倒し経験値を積み戦士レベルが10を超えると初級魔法戦士に。20を超えると中級魔法戦士に。30を超えると上級魔法戦士となる。
「上級職に成れる者など限られてくる。そんなに簡単になれる領域ではないのだぞ。どうもハルトは先を急ぎ過ぎるところがある。さっきも話したように今はじっくり経験を積み重ねて力を蓄えてほしい」
「も、もちろんだよ。でもさ、また戦士や弓士でレベル上げなきゃならないって大変だよね」
「むう、実際はそうでもないぞ。よく考えてみろ。剣や弓を使わなくてはならないがステータスはレベル40オーバーなのだ。割りと楽にレベルが上がる気がするだろう」
「確かに! 最初からレベル上げをし直すのとは大分違うのか」
「剣でアビスグリズリーを倒せば、いきなり戦士レベルが3つか4つ上がるのだ」
なるほど、そう考えると悪くないな。夢は広がるな。
基本職は生まれながらに決まっているのだけど上級職は自ら選択出来るのだそうだ。しかし、その選択はあくまでも基本職に左右される。
各基本職から派生する上級職はこんな感じになっている。
●戦士(基本職)
+弓士 ハンター
+武闘家 グラディエーター
●弓士(基本職)
+戦士 ハンター
●武闘家(基本職)
+戦士 グラディエーター
●僧侶(基本職)
+戦士 パラディン
+武闘家 モンク
+魔法使い プリースト
●魔法使い(基本職)
+戦士 魔法戦士
+弓士 魔法弓士
+僧侶 プリースト
●賢者
こう見ると魔法使いと僧侶が人気だというのも理解出来る構成だ。いくら付与魔法が使えるといっても戦士、弓士、武闘家からのスタートだとなかなか辛いものがあるな。
「魔法使いのジャミル氏が調子に乗るのもわからなくもない」
「ジャミルが調子に乗ってるかどうかは置いといて、昔は魔法使いというだけで貴族の養子や婚姻関係を結んだという話を聞いたことがある」
「それって、両親の基本職業が生まれてくる子供に影響を与えるってこと?」
「昔はと言ったであろう。今では何の因果関係もない迷信だと言われている。しかし、魔法使いが婚姻の相手として今でも人気な職業であることは確かだ」
「一応聞くけど何で?」
「どの世界でも同じだとは思うのだが不自由なく養える力を持っている者は人気じゃないか? どんなパーティでも魔法使いが攻撃の要になるからな。パーティによっては収入に格差があるのも珍しくない。ハルトも魔法使いだと知られたらモテるだろう」
「悪い気はしないけど、そういうモテ方はちょっと困るな」
「ハルトは正直だな。まぁチヤホヤされるから勘違いする者が出てくるのも事実だ」
「ジャミルめー!」
「いや、だからジャミルがそうだとは言ってないからな」
「うちのパーティには戦士と僧侶が必要になるのかな?」
「パーティか。そうだな……。ハルトが回復魔法を覚えたら前衛に1~2名いればバランスも良いかもしれないな。まぁ、私がいるから確実に新規メンバーは増えないがな」
相変わらず自虐っぷりが半端ないクロエさんだ。
「ダリウスさんは仲間には出来ないの?」
「ダリウスはリンカスターギルドのまとめ役だからな。あまり私にばかり肩入れさせる訳にもいくまい」
「なるほどね。まぁ、ダリウスさんもジャミル先輩にも会ったことがないから何とも言えないけど、その辺りの判断はクロエに任せるよ。僕まだこっちに来て3日目だし」
「3日しか経っていないのだな……。なんだかハルトとはもっと前から知り合いだったような気がするぞ」
「なんだろうね。なんだか1日1日がとても濃い気はしてるよ」
初日から死んだり死にそうになったりしてたからね。しかも今は普通に魔法使ってるとか夢みたいだよ。
「魔法使いとはいえ、ハルトは僅か数日でシルバータグになったのだよな……。少し飛ばし過ぎているか? いや、しかしそこまで危険な感じでもないのだよな」
「何かご不満でも?」
「ハルトは平和な世界から来たと言っていたが、最初はなるほどなと感じる緩さが確かにあったのだ。それがレベルが上がるにつれてかなり解消されていってる。前にみせた異世界の武道とやらが影響しているのだろうか」
「珍しいね。クロエが褒めるとか」
「今日の帰りギルドでステータスを確認してみたらどうだ? ひょっとしたら上昇幅が高いのかもしれないぞ」
「そうなのかな? ちなみにだけどレベル12の魔法使いの平均値ってどんなものなの?」
「そうだな、魔力などの高い項目で数値60ぐらいだろうか」
バサバサバサッ
ハルト(16)レベル12
職業:魔法使い
HP:130
MP:62/110
筋力:60
耐久:55
早さ:55
魔力:120
運:170
「へ、へぇー」
も、もちろん高いんだけど大幅に突き抜けてる訳でもなくなんとも微妙な数値だ。まぁ、平均値よりもやや高い成長率というところだろう。自慢するほどの数値でもないだろうし、このまま成長が止まらないことを祈るばかりだ。
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