第二十四話 アビスグリズリー
立ち並ぶ木々を躱しながら物凄いスピードで向かってくるアビスグリズリー。餌に向かって全速力のグリズリーとか最早、恐怖でしかない。
チラッと後ろにいるクロエを見るとグリズリーの方を見て顎で殺れと指し示している。いつにも増してクロエが鬼教官だ。
ピクッ
「い、いえ、何も言ってません……」
あー見えて、本当にピンチになったら助けてくれると信じたい。えーっと、信じてるよ?
どうやら本当に迷っている暇はなさそうで、グリズリーが10メートルぐらいの場所まで来たところで僕は構えていた杖から魔法を放った。
「火球! 火球!」
魔法のコントロールはクロエのお墨付きを頂いているだけあってかなり正確なようだ。予定通り1発目を頭に命中させ、怯んだ隙を逃さずに左足にも見事当て爆発させた。
ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
グリズリーは転がりながら火を消すと叫び声をあげている。顔は爆発による火傷で怖さが2倍増しとなっている。めっちゃ怒ってるな。ど、どうやって倒そうか。
左足は当たり場所がよかったのか動いておらず、引き摺るようにして移動している。ならば確実に足を潰してしまおう。狙いは右足だ!
「火球! 火球!」
尚も近づいてくるグリズリーの顔面へ足止め代わりに再度食らわすと、左側に回り込み右足を爆発させた。
思いの外、顔面への攻撃も効果覿面なようで大きな巨体がふらついている。かなり効いているみたいだ。更に両足が動かなくなったグリズリーは最早、唯一動く前足を使って威嚇するぐらいしか出来ない。
「火球! 火球!」
ドサッ……
グリズリーの後ろに回り込んでの後頭部への爆発で勝負あった。
「6発か。初回にしてはまずまずだな」
「何発ぐらいで倒すのが理想?」
「火球のみで倒すなら4発。慣れてくればそれぐらいで仕留められるだろう」
「4発か。確かに倒せないこともなさそうだけど、圧が半端ないんだよね。顔も怖いし」
「少し休憩するか。ここは奴の縄張りだったから他のグリズリーが来ることもない」
「それは助かるかな。あっ、グリズリーの売れる部位はどこになるの?」
「爪と毛皮なのだが、毛皮については火属性魔法で仕留めた場合は売り物にはならんのでな。今回は爪だけだ。毛皮を売れればもう少し孤児院にお金を入れられるのだがな」
「火の賢者の悩ましいところだね。僕も火属性以外の魔法を覚えたら少しは助けになれそうかな」
「そうだな。期待しているぞハルト」
休憩タイムを利用して僕はこっそり『冒険の書』を取り出すと、魔物図鑑の新しいページを見た。
アビスグリズリー
HP:120
MP:0
経験値:200
なるほど、ワイルドボアよりも経験値は美味しいけど、倒すまでのMP消費量と単体でしか出現しない効率の悪さを考えると微妙なところだ。
「何か考えごとか?」
「うん。効率のよいレベルアップの方法がないかなと考えていたんだ。例えばだけど、罠を使って魔物を倒した場合って罠を仕掛けた人に経験値が入るのかな?」
「ふむ。罠を仕掛けた者は関係なく倒した者が経験値を得る。誰もがその考えを抱くが、経験を伴わないレベルアップは身を滅ぼしかねない。効率よりも魔物の弱点を学び倒し方を身に付けてもらいたい。今は私を信じて力を蓄えるのだ」
「そうだね。もちろんクロエを信じてるよ。変なこと言ってごめん」
どうも効率を求めてしまうのは何処か頭の中にゲーム感覚があるのだろう。あまりよろしくない考えだね。いくらセーブ&ロードが出来るとはいえ気をつけよう。
「うむ。グリズリーはマウオラ大森林の中間層ではシルバー殺しと言われている魔物なのだ。戦いに慣れてきたシルバータグの冒険者が何人も返り討ちにされてきた」
「グリズリー相手に油断はしないと思うけどな。顔怖いし、足早いし、爪怖いし」
「顔の怖さは関係無いが、単純に強さのバランスが高いレベルにあるからな。ハルトの言うようにスピードと攻撃力は魔物の強さを測る上でとても重要なのだ。グリズリーを一人で問題なく倒せるようになればギルドでも一人前として見るようになる」
「なるほどね。僕は魔法使いだから離れて戦えるけど剣で戦う人とか一人で倒せるの?」
「剣士が一人でグリズリーを倒す場合の目安はレベル20相当は必要だ」
「20!? そ、それは大変だね。やっぱり魔法使いって恵まれているの?」
「魔法使いのポテンシャルは高いぞ。基本職の中では一番だろう」
「ちなみに、他にはどんな職業があるの?」
「戦士、弓士、僧侶、武闘家がメイン職業といわれている」
「僧侶ってレベルアップ大変そうだよね」
「あまり攻撃的な魔法が少ないからな。最初は苦労するだろうがパーティーとしては回復や強化、弱体化系の魔法は重宝される。魔法使いの次に人気の職業だ」
「なるほどね。3番目以降はどんな感じになるの?」
「戦士、武闘家、弓士の順になるな」
「何となくわかるのは弓士は矢が消耗品だからでしょ?」
「流石ハルトは博識だな。上級職の魔法弓士ならば矢代が掛からずに済む。魔法で矢を造れるからな。まぁ、どちらにしろ上級職などほとんどの者が成れないから考えるだけ無駄であろう」
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