第二十二話 レベル上げ
目的地に着いたのはそれから間もなく経ってからだった。クロエが選んだのは支流から少し逸れた湿地帯だった。
「ここに陣を張るの?」
「そうだ。あそこに大きな岩があるだろう。岩の後ろに荷物を置いて待機だ」
なるほど、岩の後ろは高い土壁となっており後ろを気にしないで戦いに専念できる。裏を返すと追い詰められた時に逃げ場がないのだが、クロエ的にこのエリアなら問題ないという判断なのだろう。
「この場所にした理由を聞いてもいい?」
「ハルトはどう思ったのだ?」
「岩の後ろに隠れられるのと荷物も隠せる。あとは、後ろを気にしないで戦えるから?」
「半分は正解だ。ワイルドボアは泥浴びが好きでな、この場所は泥浴びに最高の湿地帯なのだ」
「つまり何もしなくてもワイルドボアがやってくるんだね」
「しかもゴブリンやフォレストウルフが無用な争いを避けるため近寄ってこない」
「ワイルドボアに集中できるということだね」
「そうだ。しかも! 後ろを見てみろ」
岩の後ろの壁から湧水が落ちて湿地帯に流れ込んでいる。
「水確保!?」
「素晴らしいだろう」
「流石、クロエだね! 水は大事。僕が一番最初に覚えたことだよ」
クロエは早速、湧水の滴り落ちる場所に桶を置き水を溜め始めた。
「ハルトは荷物を置いたら見張りをしてくれ。魔法が届く距離に入ったワイルドボアは攻撃していいぞ」
「了解! じゃあ、どんどんレベル上げていくよ」
早速、2体のワイルドボアが草を掻き分け顔を出している。周りを警戒しているようでなかなか泥浴びをしない。僕たちが歩いていた匂いが残っているのかもしれない。やはりワイルドなイノシシだけあって臭覚半端ない。
「まぁ、そうは言ってもあいつら所詮はイノシシだからな。ほら来いよっ!」
「こらっ、ハルト! 逃げたらどうする……」
こちらを見上げるとプギープギーと声を上げながら突っ込んできた。
「えっ!」
「よしっ! 火球! 火球!」
馬鹿にされたと思ったのか定かではないが怒りに任せて分かりやすく真っ直ぐに向かってくるワイルドボアは狙いやすい標的に過ぎなかった。
「ハルトは何でわざと声を出したのだ。逃げられるとは思わなかったのか?」
「いや、猪突猛進っていうし怒らせた方が楽に倒せるかなと思ったんだよね」
「ちょとつ……? それはどういう意味なのだ?」
「猪突猛進っていうのは僕のいた世界の諺でワイルドボアが直線的に突進するように、目標物に対して向こう見ずに突き進むことを言うんだ」
「なるほど。ハルトはワイルドボアが直線的な動きしかとれないとわかっていてわざと挑発したのだな」
「ダメだった?」
「いや、2体ぐらいならそれで構わない。むしろ良い狩り方だ。ハルトがどのくらいの数まで対応出来るのか見てみたい。私もついているから限界までチャレンジしてみるといい」
その後、お昼休憩を挟みながらたっぷり夕方までのワイルドボア狩りはグループ8体までは僕一人でも対応可能ということがわかった。
今は更にレベルも上がったため10体ぐらいなら大丈夫な気がする。
目の前には燃えて灰と化したワイルドボアの屍で溢れかえっていた。湿地帯だったのにその場所だけ熱で乾いてしまっている。
「レベルが上がったのは2つか?」
「うん。レベル7になったね。もうちょっとで8になるんじゃないかな」
「想定以上に順調だな。魔法のコントロールセンスも良いし、魔力量も多いようだ。将来有望だと思うぞ。それで、新魔法は覚えたのか?」
「新魔法ね……一応覚えたよ」
ステータスと共に僕の新魔法も紹介しよう。
ハルト(16)レベル7
☆新しい魔法を覚えました
職業:魔法使い
HP:80
MP:12/60
筋力:35
耐久:30
早さ:30
魔力:70
運:120
魔法:魂浄化、火球、毒消治癒、☆深眠
装備:魔法使いのローブ+5、木の杖(魔法攻撃)+20
次のレベルアップまで経験値あと800
深眠 使用MP3
初級の状態異常系魔法。敵グループを対象に眠り状態にすることができるが、その効果はランダムであり効かない場合もある。ぐっすりと深い眠りに入ることが出来るため野宿や夜番など旅のお伴として重宝される魔法である。
出た! 旅のお伴シリーズ。
「ディープスリーパー? 何だその魔法は? 聞いたことがないぞ」
「そうなの? たいした魔法じゃないと思うよ。ランダムで敵を眠り状態にするだけっぽいし」
「いや、戦闘中に敵を眠らせるとか最強の魔法に思えるのだが……」
「えっ、地味じゃない? もっとブワッとズババーンってな魔法を覚えたい。あとやっぱり回復魔法は必須だよね。とりあえず明日に期待かな」
「ハルト、帰りがけに魔物に遭遇したらそのスリーパーを使ってみてもらいたい」
「うん、構わないよ。クロエも夜なかなか眠りにつけない時とか呼んでくれれば魔法使うから気軽に言ってね」
「そ、そんな使い方も出来るのか!?」
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