第二百十一話 ライオットの正体1
「ハルト、無事だったか!」
「うん、ベリちゃんのおかげで助かったみたい。それにしても、これはひどい……」
ライオットの屋敷を奥へ進んでいくと、すぐに実験室と思われる大きめの部屋が見つかった。部屋にはすでにクロエとユーリットさんがいて、人体実験をされていたと思われる幼い二人の子供が助け出されていた。
「まったくだ! そいつがライオットなのだな?」
手や腕には無数の配線が繋がれていて、雷属性の魔法が定期的に流されていたのだろう。子供たちは目も虚ろで言葉を話せないようで心配だ。クロエがすぐに回復魔法を掛けているのだが、手足の火傷の痕は消えそうにない。
「ハルトさん、ライオットはどうされるのですか?」
「実はほとんど情報をとれなかったんだ。だから、もう少しライオットから話を聞きたい。安全に話を聞く手段ってあるかな?」
「それについてだが、ちょっと気になるものを発見した。これだ」
クロエの手には、束ねられた古びた紙にびっしりと書かれたメモのようなもの。
「クロエ、それは?」
「うむ、どうやら実験の記録らしい。新しいページにはこの子供たちのことが書かれている。そして、ページを捲っていくとジルニトラについてと思われる記述も見受けられる」
「それはナイスな発見だね。他にもないか探してみよう。ベリちゃん、念のため玄関のカギを閉めておいて」
「うん、わかった!」
ライオットが目覚めても素直に話をするとは考えにくい。そう考えると、ここで選択肢を増やしておくのは悪くない。
「クロエ、ユーリットさん、ここを基準に『冒険の書』はセーブしておく。それから、ライオットから話を聞くのはアスピドケロン、アスちゃんママに協力を仰ごうと思う」
「なるほど、雷属性には雷属性をぶつけるというのだな」
「それから、ベリちゃんがライオットの魔法について気になることを言っていたんだ。その辺りも含めて一度相談がしたい」
「むっ? この音は!?」
どうやら玄関のカギ閉めに向かった、ベリちゃんのいる方角から戦闘と思われる音が鳴り響いた。
「玄関の方へ急ごう!」
慌てて実験室を後にして、最初に案内をされた部屋のあたりでは、既にベリちゃんと黒い翼の魔物が複数戦っていた。
「ベリちゃん、これは!?」
「シーデーモンと似た魔物みたいなの! 攻撃を与えるたびに戦闘力が上がるから気をつけて」
「シーデーモンだと!?」
そういえば、クロエにはまだ伝えてなかった。ベリちゃんがあやしい魔力のことを話していたんだっけ。
それにしても、いつでも倒せるけどどうするべきなのか確認をしたのだろう。ベリちゃんの成長が頼もしい。
「うん、消し去ろう」
魂浄化!!
二人で魔法を放てば、この狭い屋敷の中で逃げ切れるはずもなく、黒い魔物はあっさりと消え去っていった。
『冒険の書』のマップには魔物がいた気配はなかった。つまり、この場に突然現れたということになる。ライオットが何かしらの罠を仕掛けていたのだろうか。
「ハルト、あの魔物は?」
「あー、ごめん。ライオットに部屋に通された時に、ベリちゃんがシーデーモンと似た魔力を感じるって言ってたんだ」
「そ、そうなのか? ベリちゃん」
「一度攻撃したら倍の大きさになったの。魔力の感じも同じ。シーデーモンとは違って空を自由に飛べるタイプの魔物だと思うの」
つまり、二回の攻撃で更に強くなってしまう厄介な魔物で、飛行タイプということか。シーデーモンは海の中と洞窟内を少し浮くように移動をしていた。水陸両用タイプがシーデーモンだとすると、今回の魔物は陸空両用タイプということか。
「他にもこの魔物がいるかもしれない。何故『冒険の書』に反応がないのだ?」
そんなことを僕に言われても困ってしまう。僕だって知らないのだから。
「出現するまで反応がなかったってことなのかな。問題は、あの魔物がどこから現れたのかということだと思う」
「ライオットの屋敷に入る前にマップ機能で確認した時には、屋敷の中にはライオットと何人かの反応しかなかったはずなのだ。おそらく実験された子供たちだと思ったのだが……まさか!?」
「そうだね。そう考える方がしっくりくるよ。今はどうなってるのかな?」
マップ機能は僕たちを表示していて、近くにいるライオットが赤いマークに。そして、クロエとユーリットさんが抱いている二人の子供たちも同様に赤いマークになっていた。
「クロエ、ユーリットさん、その子たちから離れて!」
みるみるうちに子供だったものの肌が赤黒く変色していき、背中からは肉を突き破るようにして小さな翼が生えてきた……。目は赤く、口はシーデーモンのように大きく裂けている。
つまり、先ほど消し去った飛行型モンスターも元は実験台にされた子供たちだったのかもしれない。
「くっ、癒しの風!」
クロエの魔法も効果はなく、子供だったモノは完全な魔物へとその姿を変えてしまった。
ブックマークや星評価で応援していただけると嬉しいです。ぜひ、よろしくお願いします。