第二百話 怪獣大戦争3
ジリジリとした暑さが身に沁みてくる。日差しの強さと砂漠からの照り返しせいなのだろう。まだまだ気温は上がっていきそうだ。
「それにしても暑いですねー」
大型のフェンリルの姿になっているユーリットさんは、モフモフな毛の影響でさらに暑そうに思える。
「ジルニトラも水浴びしたくなるってものかな」
「ジルニトラの棲みかは最大のオアシスだと言ってるだろう。水は十分にあるのだ、海へ来るのは別の目的だ」
「そうだったね。それにしても、まだジルニトラは来ないか……」
アスちゃんが指し示した方角からは何もくる気配がない。ここからは、シンバルの街の方もかなり遠くに見えているという程度なので、この場所に大型のフェンリルがいても、案外目立たないのかもしれない。まぁ、近くを人が通ったら別だろうけど、この周辺はジルニトラが海へ向かうルートになっているはずだから、誰も近寄らないだろう。
「シンバルでは水魔法が使える者は優遇されているらしい。水は生きる上で大事なものだからな」
「なるほど、それなら僕の氷魔法は引く手あまたなんだろうね」
「事業が失敗して無職になったら、シンバルに引っ越すのもありかもしれないぞ」
クロエが不吉なことをおっしゃる。
「そうしたら、アスちゃんとご近所さんになるね!」
ベリちゃん的には引越に前向きなようだ。しかし、僕にはリンカスターの方が住みやすそうに思える。こういう場所はたまに遊びに来る程度が丁度いい。暑すぎてちょっと生活するには大変そうだ。
「来ましたよー」
ユーリットさんの気の抜けた感じの言葉のせいか、あまり緊張感が伝わって来ないのだけど、確かに目線の先には黒いドラゴンがこちらに向かって飛んできているのが確認できた。
「よしっ、みんな準備を!」
遠くから見えるジルニトラはどこかフラフラと力強さを感じさせない感じで飛んでいる。時折、落下しそうになるほどにその姿は弱々しい。
「ハルト、相当弱っているように見えるのだが……」
クロエが言おうとしているのは、普通に攻撃して倒してみるか? ということなのだと思う。それぐらいドラゴンとしての強さ、畏怖というものが欠けている。
「それでも、相手はドラゴンなんだ。気は抜かないよ。倒せそうなら全力で倒すまで」
「うむ、そうだな。では、作戦通りに!」
徐々に近づいてくるジルニトラだが、まるでこちらを無視するかのように高度を維持している。
防御上昇!
大きいフェンリルがピカピカに光ると、ジルニトラが一瞬こちらを見た気がした。しかしながら、それはほんの一瞬ですぐに、高度を上げて海へと向かおうとしている。
「クロエ、攻撃を」
煉獄乱舞
多分、高度が高すぎて魔法は届かないかもしれない。それでも、こちらが敵意を向けることで、ジルニトラは怒り狂って地上に降りてくるはずだった。
「行ってしまったな……」
「なんでだろ、完全に無視されちゃったね」
僕らの知っているドラゴンはもっと凶暴で、自分が一番強くて、人間のことを食料であるかのようにみている。そんな人間が攻撃してこようものなら、怒り狂って飛びかかってくるはずなんだ。
「今から海へ行っても間に合わないな……」
「それでも、ユーリットさん僕たちを海岸まで運んで」
「わかったわ。早く乗ってくださいねー」
ジルニトラの様子は明らかにおかしい。あんなフラフラな状態で、何のために海へ行きアスちゃんママと戦うのか。
僕たちが海岸に辿り着いた時には、既に怪獣大戦争が勃発していた。
アスちゃんママに飛び掛かるジルニトラと、それを迎え撃つように、体全体で雷を纏い電撃を喰らわしている。
海上では稲光と轟音が響き渡り、アスピドケロンと黒竜ジルニトラの激しいぶつかり合いが行われていた。ジルニトラから攻撃を仕掛けているのは見てわかる。
「ジルニトラとは戦いにならなかったのね」
「ごめんね、アスちゃん。全く見向きもされなかったよ」
「見てたわ。魔法攻撃を完全に無視してたものね」
「ジルニトラの様子は確かにおかしい。この戦いが終わって、ジルニトラが再び棲みかに戻る時にまた攻撃をしかけよう」
アスピドケロンとジルニトラの戦いもどこか変だ。お互いにぶつかり合いをしているだけで、ジルニトラは攻撃をしているというよりも雷攻撃を自ら受けに行っているような感じすらある。それでも、巨体同士の激しいぶつかり合いが何度も続くと、お互いに沢山の傷を抱えており、壮絶なぶつかり合いにより海は真っ赤に染まっていく。
「ママ……」
どうにかしてあげたいけども、ジルニトラがこちらに興味を示してもらえない以上、手の打ちようがない。
はるか先で行われている怪獣大戦争を見ていることしかできないのだから。
「ハルトさん、このピカピカは何時になったら元に戻るのかしら。なんだかちょっと恥ずかしくなってきたわ」
あー、ユーリットさんが目にしみる。時間が経てば元に戻ると思うよ。ジルニトラの攻撃が来ると思って全力で魔法を掛けてしまったんだよね……。
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