第二十話 孤児院
「火球!」
ちょうど一匹が離れた隙を逃さずに二匹まとめて仕留められた。いきなり仲間をやられたホーンラビットはパニック状態に陥っていたが暫くすると落ち着きを取り戻したようで草むらの中へと飛び込んでいった。
「ハルト、追うぞ!」
「えっ、いや、草むらの中に入っちゃったよ」
既にホーンラビットの姿は無く見失ってしまっている。
「いいから、ついて来るのだ」
マジか、あれを追うのか。クロエは嗅覚が犬並みなのかもしれないな。
「ハルト、何か言いたそうだな……」
「な、何でもありません。行きましょう!」
「うむ。なるほど……あっちか」
耳!? 少し耳がピクピク動いていたような……聴覚もか。
クロエはホーンラビットと一定の距離をとりながら気づかれないように追いかけ巣穴を確定していく。レベル上がっていくとクロエのようになれるのだろうか。レベル32が普通に化物に見える。とはいえ、これが味方だと思うとクロエと知り合えて本当によかった。
「ハルト。あそこが巣穴だ。見えるか?」
50メートルぐらい先にホーンラビットが穴に入っていく姿がなんとか見ることが出来た。
「うん。あそこだね。それで、どんな感じにやればいい?」
「そうだな。この地形だと巣穴は横に広がっている可能性が高い。見えている穴を中心に両脇5メートルの範囲を計5発撃ってみよう」
丘の斜面を利用した巣穴でそこまで奥行がないと判断したようだ。
「じゃあ、やってみるね! 火球」
巣穴を中心に爆炎が広がっていき斜面が抉れていく。内側が巣穴だけあって崩れやすいのもあるのだろう。かるく地形を変えてしまう魔法というものに改めて驚いてしまう。
「よし、逃げ出す奴がいないか確認しに行こう」
「うん、了解」
近づきながら『冒険の書』で経験値の確認をしてみると100稼いでいる。つまり20匹は倒しているようだった。これはこれで効率がいいのかもしれない。
もちろん、クロエ並みの嗅覚と聴覚があって出来ることだけどね。
「巣穴は全部壊せているようだな。中を見ることは出来ないが数十匹は倒せているはずだ」
うん、20匹だね。
「このやり方は素材の回収が絶望的なのであまりお奨めは出来ない。しかしながら、巣穴をしっかり壊すことは個体数を減らす上で効果的だ。これだけ壊せば再生もできないだろう」
「そうだね。でもこれ、やり過ぎちゃうとブロンズの冒険者から顰蹙を買わないかな?」
「うむ。実はハルトの言う通りなのだ……。街の安全を思えばそんなこと言ってる場合でもないのだが、これを生活の糧として生きている者もおるだけになんとも複雑ではある」
「じゃあ、あまり他の人に見られないようにしないとだね」
「その辺は抜かりない。周辺に誰もいないのは確認済みだ」
胸を張っているクロエが急に年相応に見えて可愛く思えてきた。
「な、なんだその親が子を見るような目は! ハルトは私と同い年であろう」
「うん。そうだね」
「普段は子供っぽい癖に、たまに妙に大人っぽくなる時がある……」
「何か言った?」
「な、なんでもない。ほら先に行くぞ」
「ちょっ、待ってってば!」
急にプリプリし始めたクロエの後を追い掛けながら周囲を見渡す。何と言うか改めて思うのは、一面大草原の景色の中に電線がないだけでかなり新鮮に感じるものだ。
あぁ、やっぱり僕は異世界に来たんだなぁ。
その後、もう一つの巣穴を破壊したところで本日のラビットハンター業務は終了となった。残念ながら本日はレベルアップなし。クロエに明日は上がると思うぞと慰められたのだが、残りの経験値がわかっている僕にもちろん焦りはない。
「ハルト、暗くなる前に戻ろう」
「そうだね。泥だらけだな……お風呂入りたいよ。そういえば僕は宿屋とかに泊まるの?」
「いや、私と同じところに住めばいい。空き部屋もあるし問題ない」
「い、いいの?」
「何を今さら。面倒を見ろといったのはハルトだろう」
「いや、まぁそうだけどさ」
改めて16歳の女の子の家に居候させてもらえる奇跡に感謝したい。
ドラゴン、倒してみるもんだな。よく考えてみるとそっちの方が奇跡か。
街に戻り、露店で人気の食べ物を大量に購入してクロエの家に来たのだが、そこは家というより教会であった。
教会の裏側にまわると子供達がいっぱいいてこちらを見ると鼻をスンスンさせている。
「クロエお姉ちゃん、おかえりなさーい」
「お姉ちゃん帰ってきたぁ!」
「ふぁぁ、串肉いっぱぁいだよぉ!」
「に、にくぅー!!」
「あら、クロエ戻ったのね。おかえりなさい。そちらの方はお客様かしら?」
「ただいま、マリエール。実は今日からここで一緒に暮らすことになるハルトだ」
「ま、まだ、早いわ! 私だってまだ結婚していないのにクロエに先を越されるなんて!」
「お、落ち着けマリエール。ハルトとはそういう関係ではない。ハルトは異世界からの転移者でな、マウオラ大森林で出会ったのだが領主様と相談した結果しばらくの間私が面倒をみることになったのだ」
「そ、そう。もう! びっくりしたじゃない」
明らかにホッとした表情で胸を撫で下ろしたマリエールさんだったが、僕の目線を感じて慌てて挨拶をしてくる。
「は、はじめまして教会のシスター兼、この孤児院を運営しておりますマリエールです」
「こちらこそ、急に失礼いたします。ハルトです」
「あぁー! こいつだよ。昼にクロエお姉ちゃんをたぶらかしてデートしていたのは!」
「デ、デ、デートではない! 領主様にお会いしていたのだ!」
「あたちも見たの。広場でボア肉のパン包みをまるで恋人のように食べていたのよ」
「こ、恋人ではない!」
なるほど、街で子供の目線を幾つか感じていたのは孤児院の子供達だったのか。
なんだかクロエのことを好きな子供達がいるということにすごい安心感を覚えた。
しばらく毎日投稿頑張ります。
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