第百九十八話 怪獣大戦争1
それからしばらくは、グリーズマン王子のこともすっかり頭から抜けてしまい、ゆっくりとバカンスを楽しんでいたのだけど、ママのところへ報告に行っていたアスちゃんが、かなり深刻な表情で戻ってきたのだった。
「ハルト、マ、ママを助けて……」
「アスちゃん、どういうこと?」
どうやら、シンバル沖で行われている怪獣大戦争であるが、思いの外、激しい戦闘が繰り広げられてしまっているらしい。守備力の高いアスちゃんママの体も無数の傷を負ってしまっているようなのだ。
「あそこまで傷だらけのママを見たことがないの……。状況が状況なだけに、パーティのことも相談することもできなかった。このままだと、ママが死んじゃう。お願い、みんな。ママを助けて」
かなり本格的な争いになってしまっているようで、アスちゃんが近づくとすぐにここから離れるように言われてしまったらしい。悲しそうに遥か遠くの海を眺めながら、アスちゃんは泣いている。
「パパ……」
ベリちゃんが助けになってあげたい気持ちを隠さずに話しかけてくる。もちろん、手を貸してあげたい気持ちはあるんだけど、相手がドラゴンなだけに政治的な要素も絡んでくる。
「どうしたものかね」
「ハルトはどう思っているのだ?」
「僕は……」
悲しそうに俯いて泣いているアスちゃん。その背中に手を添えて慰めているベリちゃん。
あー、うん。政治とか関係ないな。僕がどうしたいのかが大事なんだ。目の前には他に頼る人がないアスちゃんがいて、ベリちゃんはその助けになりたいと思っている。そして僕たちには、助けになれる力があるかもしれない。
「迷うこともないね。黒竜ジルニトラを倒しにいこうか。一応確認だけど、異論とかあれば聞くよ」
「うむ、異論はない」
「パパぁー!!」
「た、助けてくれるの?」
「あらあら、楽しそうなお話ね」
ドラゴン相手の戦いにも関わらず、反対意見がないとか、このパーティはおかしいよね。それからユーリットさん、まったく楽しい要素がみつからないんだけども、一体どの辺りが楽しそうなのかなまったく。
「それじゃあ、早速だけど作戦会議といこうか。アスちゃん、状況をもう少し詳しく教えてもらえるかな?」
「う、うん。ジルニトラは定期的に現れるようで、私が行った時にはいなかった。ジルニトラもそれなりに傷を負っているため、傷が回復したらすぐにまた戦闘になるみたいなの」
「喧嘩というか、戦闘の理由は何か言ってなかった?」
「ジルニトラから一方的に攻撃を仕掛けてくるようなの。もともと話し合いとかすることはないのだけど、こんなことは初めてだって言ってた…」
「そもそもだけど、ジルニトラとアスピドケロンって会話できるの?」
「そんなのわからない。でも、普通は出来ると思うんだ。ママはジルニトラの様子がおかしいって言ってたし」
喧嘩を吹っ掛けてきた理由が何かあるのか。僕の知っているドラゴンは軒並み知能も高く、言葉はもちろん、その知識を活用している。共生するドラゴンと街の関係が強いのも、それらが理由の一つになるだろう。
「ハルト、シーデーモンのようなケースは考えられないだろうか?」
「場所が海だけに、嫌な予感はするよね」
といっても、シーデーモンがドラゴンを乗っ取るとかちょっと想像できない。イシュメル様のようなケースはさすがに無理がある。
「ところでハルトさん。戦いの場は海の上になるのかしら? どうやって戦いましょう」
ユーリットさんのごもっともな質問が飛んできた。海の上で戦うのは僕たちには不利すぎる。相手は自由に空を駆けるドラゴンなのだから。
「シンバルには行ったことがないんだけど、ドラゴンと戦えそうな場所とかあるのかな」
「どんなところでも、街から離れれば大丈夫だとは思うが、海に出る前に陸地で迎え撃つということだな」
「海上で戦うのはさすがに厳しすぎるからね」
「ハルト、シンバルにはどうやって行くのだ?」
「それなら、私の背に乗っていくといい」
近くまではアスちゃんが乗せていってくれるようだ。戦闘場所は着いてから考えることにしようか。
「それじゃあ、ケオーラ商会のリーダーさんに伝えてから、シンバルにすぐに向かおう」
「ヴイーヴルやベルナールさんには伝えなくてもいいのか?」
「僕たちは誰かに頼まれてジルニトラ討伐に向かうんじゃない。バカンスのついでに友達のママを助けに行ったら、たまたま出会った悪い魔物をたまたま討伐してしまったんだ。それがドラゴンとか名前がジルニトラとか知らなかったし、偶然なんじゃないかなというスタンス」
「そ、それはひどいな。でも悪くない」
「そうですねぇ。ハルトさんとベリルちゃんの魔法を見られるのは楽しみだわ」
「そ、その、討伐が前提になっているけど、本当に倒すつもりか、あのジルニトラを……。追い払うとかじゃなくて、倒せるの? ママがあんなに苦戦しているのよ!」
アスちゃんからしたら、頼ってはみたけどママとユーリットさんやベリちゃんと一緒になって、みんなで戦えば追い返せるかもという気持ちまでだったのだろう。
「せっかくシンバルに行くんだから、ついでに倒しちゃうよ」
こいつアホなのかも、って感じの目線をアスちゃんから感じながらも、どうやって魂浄化を当てるかを考えていた。
新作、『僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑』をはじめました。
呼び出した召喚獣が、何故かタイ料理屋の店主だったし、この召喚獣いろいろとおかしい。是非お楽しみ頂けますと幸いです。
下記リンクから読みにいけます。ブクマ、評価頂けると嬉しいです!