第百九十六話 第二王子2
「なんだ。もう私の話は終わっている。言いたいことがあるなら、そこの部下に話せばよいだろう」
「シンバルでのジルニトラ、アスピドケロン討伐というのはお断りさせて頂きます。見ての通りバカンスの最中ですし、お金にも困っておりません」
「ほう、王室の話が聞けぬと言うのだな」
「王室の話なのであるなら話は聞きましょう。でも、今の話はグリーズマン王子の個人的なお考えのように思われますが、違いますでしょうか?」
「やはり、こういう奴らだったか。私自身が王室の人間なのだ。つまり、私の話は王室の意向と同じである。こんなところで休んでないで、さっさと討伐に向かえ馬鹿者がっ!」
「グリーズマン王子の仰る通りだ。『火の賢者』パーティはベルシャザール王家に歯向かうつもりか?」
「歯向かうつもりなどございません。ですが、これでは命令です。私たちはベルシャザール王家の部下ではありません」
「つまり、賢者殿のパーティはシンバルで困っている民衆を助ける時間があるなら、ポーネリア諸島でバカンスをしているということか」
「そもそも、シンバルには『雷の賢者』ライオット様がいらっしゃるのでしょう。話をするのであればライオット様にするのが筋というものでは?」
「あの使えない賢者が何も出来ないから、お前らに話をしているのだろう。ドラゴンを討伐出来るというのは嘘なのか?」
すると、さっきまでのんびり知らん振りを決め込んでいたヴイーヴルが助けに来てくれたようだ。
「ハルト、もういいでしょう。この者が話している内容がベルシャザール王家の意向とは思えません。物資はくれてやるから早々に立ち去るがよい」
物資はもちろん、ヴイーヴルの物ではないんだけど、気持ちは一緒なのでちょっとスカッとした。おそらく、僕たちがグリーズマン王子とこれ以上揉めないように、喧嘩を吹っ掛けてくれているのだろうと思われる。
「お前は誰だ。私が誰だかわかってないのか? 生意気な口をきく女だ」
「私はヴイーヴル。ハープナの神殿にいる宝石のドラゴンですよ」
「ヴイーヴル……だと!?」
「噂は兼がね聞いておりますよ。出来の悪い次男坊さん。通常、王位継承第二位である貴方は地方の領主になどなりません。まぁ、第一王子にお世継ぎが生まれたことで、そのお役目も無くなったのでしょう。三男は『風の賢者』とご結婚するそうですし、益々肩身が狭くなりますね」
何故か、ヴイーヴルが王室の内情に詳しい。グリーズマン王子に対して初手から煽っていくスタイルだ。何かしら情報を持っているのかもしれない。
「不敬ですぞ! グリーズマン王子へ謝罪を要求します」
確かに発言だけとられたら不敬と言われてもしょうがない。ヴイーヴルに何か作戦でもあるのだろうか。
「自然竜ファフニールからも情報が入ってますよ。何でもサルムーンの領主任命式において、ファフニールに頭を下げるよう命じたとか? ファフニールはその場で断ったそうですが、共生の道を歩むドラゴンを何と心得ているのやら……」
「ふんっ、頭を下げるぐらいどうってことないではないか。私の権威を民衆に示せればそれでいいのだ。その方があとで統治しやすくなるであろう」
「なるほど、そんなことの為にファフニールに頭を下げさせようとしていたのですね。よくわかりました」
「何がわかったのだ。何故ここにヴイーヴルがいるのかはわからぬが、お前らは早くシンバルへ向かえ」
「これからベルシャザールへ宣戦布告をしてきましょう。ハープナ、リンカスター、サルムーンは共生の道を考え直します。王室からの不当な扱いが是正されない限り人類の敵となることも厭わないと」
「はあああ? ちょっと待て、何でそうなる!?」
「あなたの話は王室の意向なのですよね? 私もこうみえて『火の賢者』パーティの一員ですし、ファフニールは長年の親友です。仲間がベルシャザール王室から不当な扱いを受けるのであればもちろん全力で戦わせてもらいます」
「お前らが敵にまわるのに、何で街全体がベルシャザールに宣戦布告することになるのだ!」
「確かに、リンカスターはどう判断するか微妙なところではありますが、ハープナと直接戦うような判断はしないでしょう。ハルトとクロエもいますし」
「で、では、サルムーンとハープナは間違いなく敵になるというのか」
「なりますよ。領主もどちらを敵に回したら不味いのか、よく理解しているでしょう。更にいえば、共生の恩恵を受けている街だからこそ、我々の及ぼす影響力をよく理解しているといえます」
「ヴイーヴル?」
「ハルト、来たばかりなのですが、ちょっとベルシャザールに行ってきますね。王室がこの馬鹿を守って戦争に突入するのか楽しみに意見を聞いて参ります。話し合いも含めて往復二時間も掛からないでしょう」
そう言うとヴイーヴルは、その姿をドラゴンへと変化させた。
「お、おいっ、ちょっと待て。わかった、今回の件は不問にしよう。やはり同じ仲間で揉めるというのはよくない」
「そ、そうですね。グリーズマン王子のお優しいお心遣いに免じて、今回の件は無かったことにしましょう」
「では、ハルト、クロエ、ちょっと行ってきますね。今晩は美味しいディナーを用意しておいてください」
聞く耳を持たず。ヴイーヴルはドラゴンの姿になると大きく羽ばたきながら、あっという間に王都の方角へと飛び去っていった。
「い、行ってしまったな。ハルト」
「そ、そうだね。クロエ」
そして、目の前には困惑気味のリーダーさんと、顔を真っ青にしたグリーズマン王子ご一行が膝をついて王都の方角を眺めていた。
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