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第百九十五話 第二王子1

 船が近づいてくると、困った表情のリーダーさんと腕を組んで鼻息の荒い肥えた男性、そしてその部下と思われる面々が見えてきた。


「何の用か知らないけど、僕たちの心の平穏を邪魔しないでもらいたいよね」


「あの服装から察するに高位の貴族であろう。言葉には気をつけて接するのだぞ」


「あーうん、了解」


 態度も体も大きそうな、その男性は海水に濡れないように、リーダーさんに抱えられながら砂浜に降り立った。不穏な空気を感じたのか、ベリちゃんはすでにクロエの後ろに隠れている。ユーリットさんとヴイーヴルは我関せずといった感じで、タープの下で椰子の実ジュースを楽しんでいる。きっと甘くしてもらっているに違いない。


「お前が島を三つも貸しきっているという者か。私の部下が王都からの積み荷に、巷で話題の干物を大量に乗せていると聞いてな。わざわざ直接交渉に来てやったのだ」


 リーダーさんが申し訳なさそうに頭を下げているけど、別に彼が悪いわけではない。


「これだけ大量に持ってきているのだ、干物の半分をグリーズマン王子に献上せよ。島に持ち込んだ他の積み荷についても調べさせているが、高く買ってやるから安心しろ」


 予想以上に面倒くさい人達が来たようだ。グリーズマン王子って誰だっけ?


「……ハルト、ベルシャザールの第二王子だ」


 なるほど、ラシャド王子のお兄様か。クロエも面識はないようだけど、名前は知っていたようだ。言われてみれば、髪の毛が若干チリチリしている感じが似ていなくもない。ラシャド王子よりもかなり肥えているようだけど……。


「はぁ……干物は献上して、他の物資は購入されるということですね」


「後でこの商会の者に伝えておくから、確認しておくといい」


 面倒くさいが、食糧なんて後で追加すれば問題ない。ここは大人の対応をして、早めにお帰り頂くのが吉だろう。


「かしこまりました」


「それから、お前らの名前を聞いておこう。これだけ金をかけて貸しきっているということは、それなりに名のある者なのだろう」


「いえ、私もとある商会の会長をしておりまして、たまたま大きな仕事が終わったものですから、みんなで休暇を楽しもうと思ったのです。名前はハルトと申します」


「ハルト……ハルト……。どこかで聞いたことがあるような名前だな。おいっ、何だったか思い出せ」


 部下に無茶ブリをするグリーズマン王子。ハルトなんて名前は、アストラルでは珍しいと思うけど、僕の名前はそんなに知られていない。


「は、はぁ……。えーっと……そうだ! 思い出しました! 確か、あの『火の賢者』と一緒にパーティを組んでいるとかいう冒険者の名前です」


「ほう、そうか。あの忌々しい奴らの仲間と同じ名前だったか」


 忌々しい奴らですか……。

 初対面なのに何だかすごーく嫌われているような雰囲気だ。しかし、そこまで言われてしまうと挨拶をしないわけにもいかなくなる。


「グリーズマン王子、お初にお目にかかります『火の賢者』クロエと申します」


「なんだと! では、お前らが『火の賢者』パーティか」


 グリーズマン王子がめっちゃ怒っているんだけど、僕たちには全く身に覚えがない。


「失礼ですがグリーズマン王子。何をそんなに怒られているのでしょうか?」


「怒っているだと!? 当たり前だ。俺は自然竜ファフニールのいるサルムーンの領主になるはずだったのに、お前らのせいでラシャドがノースポリアの領主になるから、追突人事が起こって、気付けばシンバル行きだ」


「ラシャド王子がノースポリアに……。つまり、ニーナ様と一緒に行かれたのですね」


「おいっ、何を喜んでる。俺は安全なサルムーンから黒竜ジルニトラのいるシンバルに行かなければならなくなったんだぞ!」


 つまり、こういうことらしい。ラシャド王子がノースポリアに入ることで、ノースポリアの領主は新しい場所へ飛ばされるわけなのだけど、ネゴもなく急な異動になるので、心情的にも環境の厳しい領地には行かせられない。すると身内に安全な領地であるサルムーンに赴任が決まっていた次男を見つけてしまう。


「なるほど、それで絶賛怪獣大戦争が始まっているシンバルに行くことになってしまったのですね……」


「何を他人事のように言っている。そもそもラシャドがノースポリアの領主になったのは、お前らの入れ知恵のせいだろう!」


 僕たちは、そういうのに巻き込まれるのが嫌だったから何も進言しなかったし、王室に判断を任せたのだ。そもそも、ラシャド王子とニーナ様がノースポリアに行くのだって、今知ったのだ。


「本当に私たちは知りませんでしたし、この件には関わっておりません」


「『火の賢者』の言葉など信じられんわ。王都で人気が出たからと調子に乗りおって。そうだ、お前らがジルニトラを退治すれば片付くではないか」

「それは名案にございます。ついでにアスピドケロンも討伐させれば一石二鳥かと」

「ふむ、そうすれば平和な街になって人も多く来てくれるな。その方向で話を進めておけ」

「かしこまりました。グリーズマン王子は一度戻られますか?」

「うむ、そうしよう。疲れたから少し休んでいる。あとは頼んだぞ」

「お任せください」

「おいっ、そこの者。早々に船を出せ!」


 いや、いや、船を出せじゃないよ。このダメ王子!


「グリーズマン王子、ちょっとお待ち頂けますか?」

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