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第百九十四話 心の平穏

 パーティ登録をどこか簡単に考えていたアスちゃんは、ママの所へと確認のためシンバル地方へと戻ることになった。そんなにボア肉が食べたかったのか、それともベリちゃんと友達になりたかったのか。いや、友達になるのにパーティ登録は関係ないか。二人はすでに友達なのだ。


「アスちゃん、またねー」


「ベリル、すぐに戻ってくるから待ってなさい。それからボア肉をたっぷり用意しておいてよ」


「ボア肉はいっぱいあるから無くならないよー。怖いドラゴンさんがいるんだから気をつけてね」


「ドラゴンのベリルからそれを言われるとは思わなかったわ。でもそうね、気をつけるわ。ありがとうベリル。では行ってくるわ」


 アスちゃんは海へと飛び込むと綺麗なドルフィンキックをしながら、あっという間にその姿は小さくなっていった。さすがベリちゃんに先生をしていただけあって、そのスピードは速い。


「あー、大きくなったよー」


 浅瀬を超えたあたりで、アスちゃんの姿はアスピドケロンへと変わっていた。自分でも一人前といっているだけあって、その大きさはいつか定期船から見たサイズと同じぐらいになっていた。やはり、伝説の生物だけあってその姿はどこか神々しさすら感じさせる。


「それで、ヴイーヴルはいつまでゆっくりできるの?」


「せっかくだから少しゆっくりしてもいいですか? リンカスターから緊急の連絡が来るとしてもそれなりに時間が掛かるでしょうし、別に急いでハープナに戻らなくてもいいのですよね」


 確かに、早馬で飛ばしても一日は掛かってしまう。それならここまであっという間に来てしまったヴイーヴルなら少なくとも一日は猶予がある。というか、そんなに危機ばっかりあるとは思えないのでしばらくいてもらってもいいんじゃないかな。


「今、思ったんだけど一日に一回確認のためにハープナに戻ればそれで大丈夫なんじゃないかな」


「あんまり、外出しているとアリエスに文句を言われそうね。でもたまにはいいかしら。大分外出できるようになってきたし、ユーリットさんとも親交を深める良い機会ですからね」


 ニーズヘッグやシーデーモンがいた大陸の浄化もかなり進んでいるようで、ヴイーヴルが神殿にずっといなければならないという状況ではないようだ。ひょっとしたら代わりにアリエスがお祈りとかしているのかもしれないけど。


「ヴイーヴルさん、この椰子の実のジュースを冷やして飲むと美味しいのですよ」

「あら、そうなのですか。私にもお一ついただけますか?」

「ええ、もちろんですよー」


 どうやらヴイーヴルもバカンスを満喫することを決めたようだ。アリエスにはこちらの状況はわからないし、アスピドケロンと揉めているからとか言っておけば、なんだか物騒だからとこっちに興味も持たないだろう。


 意外とアリエスは安全第一なところがある。シーデーモン戦で危ない戦いには懲りたのだろう。そういう意味では僕とかクロエは精神的にかなりタフになってきている気がする。


「久し振りに何も考えずに休暇を楽しんでいると、なんだかみんなに申し訳ないな」


 孤児院育ちのクロエがそう思うのも仕方がない。働かなければ生きていけない暮らしを送ってきたのだから。それでも、これだけ大変な思いをしてきたからこそ、心をゆっくり休めるバカンスが必要なのだ。


「気にしたら負けだよクロエ。僕たちはいっぱい大変な思いをしてきたのだから、ゆっくり休む権利があるんだよ」


「権利か。アストラルでそのような考え方はないと思うのだが、確かにハルトの言う通り休むことも大事なのかなと思う。ハルトがいてベリちゃん、そして仲間がいてのんびり過ごすバカンスというのは、しばらく経験していなかった平穏を思い出す」


 この世界はみんな生きるのに必死で、のんびりバカンスとかしちゃうのも、かなり上位の貴族に限られるだろう。つまり、休暇をとる余裕がないのもわかる。


「もっとのんびり暮らせるといいな。やっぱり適度に働いて適度に休むのが大事だよ。マリエールとかお金稼げると思ったら倒れるまで働こうとする勢いがあるし」


「ずっと貧しい暮らしをしてきているから、稼げるチャンスは逃さないという考えなのだろう」


 ビール工場もある程度稼働率が上がってきたら定期的な休日をしっかりとってもらわなければなと思う。今はまだ注文に追いついてないから、しばらくは休めないとは思うけども。人員も増えてきているし、そろそろ調整を考えてもいい。


「そんなに働かなくても十分稼げているのにね。戻ったらそのあたりの改善も進めていかないとね」


 でも、今は僕もしっかり休みをとらせてもらおう。クロエの言うように心の平穏は、生きる上でとても大事なことだ。


「ハルト、ケオーラ商会の船が近づいてきているぞ」


 隣の小さな島の方から、ケオーラ商会の船がこちらに向かってきている。物資の搬入は昨日来たばかりなので、二日間はこの島には来ないはずなのだ。


「何かあったのかな?」


 遠目には、この世界では珍しく少しばかり肥えた感じの男性が、商会のリーダーさんに指示しながら船を進めている。どうやら厄介ごとのようだ。

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