第百九十話 バカンス3
「それで、ハルトさんとクロエさんは今後の予定というのはどうなっているのですか?」
「今後の予定というと?」
「いえ、次に倒しに行くドラゴンとか?」
「ユーリットさん、ドラゴンはそんな気軽に倒しに行くクエストではないのですからね!」
ちなみに僕たちがまだ会ったことのないドラゴンといえば、霊獣ムシュフシュ、地竜バラウール、黒竜ジルニトラ、自然竜ファフニールの四体になる。
霊獣ムシュフシュには『氷の賢者』テオ様が、黒竜ジルニトラには『雷の賢者』ライオット様が、地竜バラウールには『水の賢者』イライジャ様が、自然竜ファフニールには『闇の賢者』アガタ様がいる。
この中でも特に凶暴と言われているのが地竜バラウールと黒竜ジルニトラだと聞いている。バラウールに関してはユーリットさんに怪我を負わせた張本人だし、ジルニトラはアスちゃんママと絶賛揉めている。この二体とは極力関わらない方向で行きたいと思っている。
「まぁ、私も静かに暮らしたいのでその方が良いのですけどね。でも、ハルトさんとクロエさんを見ていると周りがそうさせないというか、自然と巻き込まれていきそうに思えるんですよねー」
なんと不吉なことを言うのだろう。僕もクロエもどちらかというと巻き込まれ体質であることは否定できない。不幸なものほど気づいたら近寄ってきているのだ。どこか生き急いでいるように思えるほど、ドラゴンや伝説上の生物とのエンカウント率が高い。すでに半分のドラゴンと会ってるし、伝説の生物は二体が現在進行形で一緒にいる。
「クロエの移動制限が解除されたことで、僕たちはもう何かを依頼されても断れる立場にはあると思うんです。それこそ、ドラゴンによって賢者様が倒れてしまったとかの緊急事態でもない限り、ベルシャザール王からも声はかからないでしょう」
「ハルト、不吉なことを言うな。ハルトが言うと本当のことになってしまいそうで怖いぞ」
「クロエまでそんなことを言うの? 巻き込まれ具合なら、クロエだって同じくらいに高レベルだからね」
「そ、そうだったのか!?」
「いや、だって若くして賢者になって苦労しちゃってるし、初めて会った時なんてニーズヘッグにも殺されかけていたし!」
「そ、そう言われてみると、何と厳しい人生を送ってきたのだろうか……。で、でも、ハルトに会ってからは大変なことも楽しく思えるようになってきたような。今では良い思い出ばかりだぞ」
「あらあら、お熱いわね。きっと二人が出会ったのは必然だったのでしょうね」
「私もパパとママに会って、とっても幸せなのー」
午前中の水泳教室が終わったベリちゃんがクロエに抱き着いて頭をぐりぐりしている。めっちゃ可愛い。
「私もベリちゃんと会えてとっても嬉しいぞ」
頭を優しく撫でられて、ベリちゃんもとても嬉しそうだ。そんなベリちゃんとクロエを見ながらアスちゃんは少し悲しそうな眼をしている。
「私もママに会いたいな……」
「会いにいけばいいんじゃない?」
「危ないから離れてなさいって、しばらく近寄るのも禁止されてるんだもん……」
なるほど、怪獣大戦争真っ只中とあってはアスピドケロンの娘といえど近寄れないのか。確かにいつ凶暴なドラゴンが飛んでくるかわからない場所で暮らしていたいとは思わない。そう考えるとリンカスターの街って、結構ヤバい土地だったんだろうな。
「海は広いんだから、ジルニトラの行動範囲から離れればいいのに」
「ママは海の生物を代表している。海でアスピドケロンが逃げるわけにはいかないの」
なるほどね。どういうコミュニティを形成しているのかわからないけども、海には海の考えがあるのかもしれない。
「それで、戦況としてはどうなの。ママは大丈夫そう?」
「当たり前よ! 海でアスピドケロンが負けるわけないじゃない」
いや、そんなこと言われてもアスピドケロンのことをよく知らないし。でも、一方的にやられているというわけでもないのならひとまず安心か。
「それにしてもわからないのはジルニトラの行動かな」
「そうだな。ドラゴンが縄張りを離れて行動するというのは珍しい」
「ふんっ、海の魅力にやられてしまったのだろうな。美味しいお魚に、ミネラルたっぷりの海水、そして広大な海原」
餌を求めてわざわざ縄張りの離れるのか? 最悪のケースを考えるのなら縄張りの拡大、もしくは新しい縄張りをを求めて移動しているとかか。
「クロエ、ジルニトラのいるシンバル近くのドラゴンの縄張りはどうなっているのかわかる?」
「うむ、西の大陸は縦長で北側のジルニトラと南側の霊獣ムシュフシュとで分け合っていると聞いている」
ひょっとしたら、西の大陸の関係性に何か問題が起きているのかもしれない。今のところ、ドラゴン討伐の緊急指令とかも出てないからあくまでも想像の中でしかないけども。
単純にジルニトラの食いしん坊っぷりが発動して魚大好きになったとかの方が平和でいいんだけどさ。
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