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第百八十八話 海獣アスピドケロン2

 僕のことを指差して、ユーリットさんとベリちゃんに何やら抗議している姿から、きっと僕の話が信じられないということなのだろう。

 イノシシは海を渡ると聞いたことはあるけど、ワイルドボアが泳げるかなんて僕は知らない。


「クロエ、ワイルドボアって泳げるのかな?」


「そんなこと言われてもなー、やつらが泥好きなのは知っているが、私は川を泳いでいる姿だって見たことはないぞ」


「だよね。僕の魔物図鑑にも分布図みたいのは載ってないんだよな。困ったな」


 ワイルドボアの脂の魅力にやられるのはドラゴンだけではなかったようだ。しかしながら、アスピドケロンと海上貿易をするのもねぇ……。渡すのは構わないけど、僕たちにメリットがないし、何よりそろそろベルナールさんが辛労で倒れかねない。


「どうするのだ?」


「とりあえず、わかっている情報だけでも伝えてあげようかなと」


 僕は、みんなを連れて外に出た。途中で手頃な棒を拾って、砂浜にワイルドボアの姿を描いてみる。


「これは、ワイルドボアか。ハルトは意外な才能があるのだな」

「パパすごーい。ワイルドボアそっくりだよー」


 そこまで、絵心に自信はなかったのだけど、一目見てワイルドボアとわかるぐらいには似せられたようだ。アスピドケロンの女の子は、僕の描いたワイルドボアをジーッと見ていて自分の記憶を辿っているのだろう。


「えっ、やっぱり見たことないの? 大きさ? 大きさはね、あの小舟ぐらいかなー」


 視線の先には隣の島へ向かうための小舟がある。アスピドケロンの女の子は、ベリちゃんに抱き着きながら泣きそうになっている。そんなにボア肉が好きなのかよ。


「やっぱり海では見たことがないようですね」


「えっとね、私たちはここに住んでるわけではないのー。もうしばらくはここにいるけど、暖かくなったら街へ戻るんだよ。アスちゃんも来る?」


 ベリちゃん、アスちゃんが来たらベルナールさんのキャパを大幅に超えちゃうからね。


「ベリちゃん、その子が暮らしてる場所は海なんだ。森があるリンカスターでは暮らしていけないんじゃないかな」


「でも、人の姿になれるから街にも来れるでしょ? たまに、こそっと遊びにきたらいいんじゃないかなー」


 こそっと、気軽に伝説的な生物が街に訪れたらベルナールさんもたまったものではないだろうね。


「ベリちゃんは、アスちゃんに遊びに来てもらいたいの?」


「う、うん。ダメなのかな?」


「い、いいんじゃないかな」


「ハルト、そんな簡単に返事していいことではないだろう」


「わ、わかってる。でもさ、ベリちゃんが孤児院の子達以外で、はじめて友達をつくるのかなと思うとさ」


「な、なるほど。そう言われると、無碍に断るのも確かに可哀想だな」


 完全にバカ親な考え方になってしまっている。街に迫るかもしれない危険と我が子の可愛さを天秤に掛けてしまうのはよくない。


「ベリちゃんが責任もって、リンカスターに招待するというのならいいよ。その代わり、もしもアスちゃんの正体がバレたり、疑われてしまうようなことがあったら、二度と街で会えなくなっちゃうからね」


「うん、わかった! アスちゃん今度、家にご招待するね」


「でも、連絡の手段とかどうするの? いきなりアスピドケロンの姿でカイラルの漁港とかに来ちゃダメだよ絶対」


 この世界にスマホでもあるのなら、連絡のとりようもあるのだろうけど、もちろんそんなものはない。


「うん。えっとね、リンカスターは海から離れてるの。だからね、このバカンスが終わったら一旦一緒に戻ればいいんじゃないかな」


 ベリちゃんが、アスちゃんにそんな提案をしているけど、他に手段もなさそうなので、しょうがあるまい。


「うんとね、多分だけど大丈夫だと思うよ。私のパパとママだからね」


「ベリちゃん?」


「うんとね、アスちゃんがね、パパとママとも喋ってもいいって」


 人見知りなのか、上から目線なのかわからないが、コミュニケーションをとれるのはありがたい。


『か、隠しごととか、してたら怒るからな』


 一言めから、信頼の薄さを感じさせる発言だ。何でそんなに人間不信なのだろう。


「隠し事が全くないかと言われたら、もちろんそんなことはないけど、君に対して意図的に何かを隠すようなことはしないと約束するよ」


『お前たちはまだ信用していないが、ベリルとユーリットは信用してもいい』


「何でそんなに人間に対して不信感があるのかな?」


『ママから言われた。人間はいきなり攻撃してくる野蛮人だと。きっと頭が少し弱いのだろう。矮小なくせに、大人数で攻撃をしてくるから面倒くさいって言ってた』


「なるほど、ママがいきなり攻撃されたのか……」

「船に近づきすぎたのではないか? アスピドケロンが船に近づいてきたら、何かしら攻撃をしないわけにもいかないだろう」


『違う。船の方から近づいてきた。先に攻撃してきたのも人間の方からだったと話していた』


 なるほど、何年前の話なのかはわからないけど、ないこともなさそうだ。アスピドケロンが人間に対して距離を置くというのもわからなくもない。


「それで、ママは無事だったのかな?」


『当たり前だろう。見事返り討ちにして、船ごと沈めてやったそうだ。それからは、我々の姿を見ても船が近づいてくることはなくなった』


 マップに表れる緑のマークについては、無関心な場合も敵対する可能性なしとして表示されるようだ。


「なんだか、ご迷惑を掛けたようで人間を代表して謝るよ。僕たちとしても、ベリちゃんの友達だというのなら歓待するよ」


『い、いっぱい食べてもいいのか?』


「いいけど、もちろん限度はあるよ」

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エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
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