第百八十三話 マリエール3
どうやら、マリエールもベネットのことを認めているようで、ベネットを頼りにしていることがわかった。問題は、この気持ちが恋とか愛とかに繋がっているかだろう。
「マリエール、僕たちしばらくクエストとはいえリンカスターを離れていたから、家の掃除とかで助けてもらってたお礼をしたいんだ」
「そんなのいいわよ。顔出してくれるだけで十分だし、すでに沢山のお土産ももらってるわ。それに、ハルトには生活の基盤を立て直してもらってるから感謝こそすれ、お礼は十分過ぎるくらいもらっているもの」
「マリエール、遠慮なんかしなくていい。金銭的に余裕が出ているのはわかるが、マリエールが全然休めていないのを、子供たちも心配しているのだ。少しは仕事を調整したらどうだ」
「そうね。わかってはいるんだけど、貧乏性なのよね。稼げるときに稼いでおかなきゃって気持ちがどうしても……。でも、子供たちに心配されているようじゃダメね」
「仕事は、今後調整していくとしてとりあえず、ゆっくり休んで自分の時間を大切にしてみてよ。僕とクロエがしばらく孤児院の家事全般を引き受けるからさ。ずっと休んでないんでしょ?」
「それはそうだけど、急に休めって言われても何をしたらいいかわからないわ。普通に朝から洗濯や食事の準備をしてしまいそうだもの」
「マ、マリエール、それなら僕がマリエールの休みをプロデュースするよ。マリエールは僕について来ればいい」
「プロデュース? うーん、そうね。何も考えずに行動した方がいいのかもしれないわね。じっとしていると、掃除洗濯食事の準備とあっという間に一日が過ぎてしまうもの」
「やったー! じゃあ、これから三日間はマリエールは孤児院から離れてもらうよ」
「えっ、孤児院から出るの?」
「当たり前じゃないか。ここから出ないとマリエールは家事を手伝ってしまうからね。さぁ早く準備をして、今日の夜からケオーラ商会が用意する特別なスイートルームに移動してもらうからね」
どうやら、ベネットもそれなりにいろいろと考えていたようだ。確かにマリエールがここで暮らしていたら年少組は甘えて頼ってしまうし、マリエールも家事を手伝ってしまう。それでは本当の意味での休日にはならないだろう。これは、マリエールにゆっくり自分の事を考えてもらうための休みでもあるんだ。
「本当に大丈夫なのかな? クロエ任せても大丈夫?」
「たった三日だぞ。何も気にすることはない。私たちもしばらくしたらバカンスに行く予定があるしな、ハルト」
「うん、ポーネリア諸島でゆっくり過ごそうと思っているんだよね」
「ポーネリア諸島でバカンスとか言われると、なんだかズルいわね。いいわ。私も休みってのを満喫してみようかしら。ベネット、お願いしてもいい?」
「もちろんだよ。じゃあ行こうかマリエール」
「ええ、よろしくね」
まるで王子様がお姫様の手をとるように片膝をついたベネットがマリエールの手をとる。少し恥ずかしそうにしながらもベネットに合わせるマリエール。こうみると満更でもなさそうに思えるので、とにかく頑張れベネットとなっている。ユーリットさんの幻術も少しは貢献していると思いたい。
「行ってしまったな……」
「私たちは、今日からここで生活するのね」
「あっ、ユーリットさんまで巻き込んでしまってごめんなさい」
「いいのよ。私も子供たちは大好きですからね。年少組の面倒は私に任せてもらってもいい?」
「はい、助かります。では、僕とクロエでそれ以外を手分けして行いますね」
「うむ、そうしよう。そもそも、普段はマリエールが一人でやっているのだからな」
クロエの言う通り、慣れていないとはいえマリエールさんがいつも一人でこなしていることだ。もちろんドニー達の助けもあるのだろうけども、孤児院のみんなにもせっかくだから楽しく過ごしてもらいたいし、張り切っていこうと思う。
というわけで省略させてはもらうが、かなりドタバタの三日間だった。ドニーたちも、いつも以上に大変だったと思う。本当にごめんよ。
「ご飯は今までにないぐらいよかったよ」
「ありがとうドニー。そう言ってもらえると僕たちもこの三日間頑張った甲斐があるってものだよ」
「このスパイスのレシピは内緒にするんだね?」
「うん、カレーの日は孤児院の窓をフルオープンで匂いを振り撒けばいいよ。すぐに声がかかるだろう」
翌朝からマリエールがいないことで、年少組が泣き叫ぶ中、孤児院はハードなスタートをきった。
ここで、温存していたカレーを提供したのだが、これが正に起死回生だった。子供たちに大人気のカレーは、異世界アストラルでも効果は抜群だった。トウガラシ少なめ、果実多めに甘く作った試作カレーは、大人気で食事の時間は信じられないぐらい静かだったのだ。
「カレーにも驚かされたけど、このコメというのもカレーに合って、とても美味しいよね」
「わかってくれるか、ドニー」
「これも売れそうだよね」
「ふふふっ」
ちなみに、気になるマリエールとベネットのことだけど、結論から言うとそれは見事にくっついた。孤児院に戻ってきた二人は、手を繋ぎながら、少し恥ずかしそうに目をふせていた。
もちろん、その姿を孤児院の子供たちにも見つかると、からかわれながらも祝福の言葉をもらっていた。子供たちにとっても、母のように慕うマリエールの幸せは、自分のことのように嬉しかったのだろう。
「マリエールお姉ちゃんおめでとう」
「ベネットやるぅ!」
「よかったー、ベネットは浮気したらビール工場出入り禁止だからねー」
もちろん浮気はダメだけど、ビール工場出入り禁止はベネットが社会的に死ぬことになるので勘弁してあげてほしい。
とはいえ、二人が幸せそうなのは僕たちも嬉しい。この三日間、頑張った甲斐があったというものだ。
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