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第百八十二話 マリエール2

 年少組の面倒を見ながら、持ってきたお土産の整理などをしていると、ちょうどドニー達が工場から戻ってきた。

 今までは危険を冒して、街の外に出て薬草の採取などをしてお金を稼いできた。しかし、今は安全に工場での勤務でお金を稼ぐことが出来て、その一部は将来に向けた貯金をする余裕まで出てきている。


「あっ、ハルト会長が戻ってきている!」

「クロエお姉ちゃんだぁ」


「みんなお帰りなさい。手洗いと、うがいをしてきてね。お土産をもってきたのよ」


「やったぁ! 楽しみだよぉ」

「わーい、ありがとう!」


 年長組が楽しそうにしていると年少組も一緒に騒ぎはじめる。確かに毎日この環境なのだからマリエールも大変だとは思う。でも、この騒々しさがマリエールの活力の源でもあり、笑顔に繋がっているのだろう。


「そういえば、マリエールさんは?」


 いち早く、洗面所から戻ってきたドニーが、留守番していたマリエールさんがいないことに気がついたようだ。


「僕たちが来たから、ベネットと一緒に夕ご飯の買い物に行ったよ」


「ベネット兄ちゃん頑張ってるね」


「うん、頑張っている。問題はその気持ちが伝わっているかなんだけどね……」


「マリエールさんは、その辺り鈍感だからなぁ。はっきりと伝えないと無理な気がするよね」


 いつも一緒にいる子供たちが感じていないということは、やっぱりマリエールがベネットの気持ちに気づいていない可能性は高い。


「実はね、ベネットの気持ちをマリエールに伝わるように二人だけの時間を作ってあげようと思うんだ」


「うん、うん。いいと思う! それで、どうするの?」


 次に部屋に戻ってきたリノアが、話を聞いて興味津々だ。ここらへんは、やはり女の子だなと思う。


「私とハルトで少しの間、孤児院の家事を手伝おうと思ってるのだ。空いた時間にベネットにデートに誘ってもらおうと思っている」


「ベネット、大丈夫かなぁ」


「だから、みんなもベネットが誘いやすいようにうまく雰囲気作りを手伝ってもらいたいんだ」


「わかったよ」「任せてちょうだい」


「うん、頼むね」


「ところで、そちらの人は誰なの?」


 目線の先にはベリちゃんを抱っこしているユーリットさん。すっかり紹介するのを忘れていた。


「僕とクロエのパーティに新しく入ってくれた冒険者のユーリットさんだよ」


「ここは子供たちがいっぱいで、とても活気のある場所ですね。はじめまして、ユーリットです。仲良くしてくださいね」


 ドニーを中心に部屋に戻ってきた全員がユーリットさんと挨拶をすると、ユーリットさんの包容力からなのか、小さい女の子が周りに集まり始めている。子供は適応力が早いというか、僕の時もその日の夜にはウサギとカメの昔話を聞かせていた気がする。


 少しは時間が経ってから、大量の芋を抱えたベネットとマリエールが戻ってきた。


「ただいまー。もうみんな戻ってるのね。ドニー、悪いけど火を起こしてくれる? それからリノアは洗濯物をしまって、年少組の体を拭いてあげて」


「はーい」


 ここからは孤児院の怒涛の日常が始まる。転んで泣き叫ぶ子供達や夕飯の支度にとりかかる年長組。年少組の体を拭いてあげるリノアに、ユーリットさんやクロエに甘えてくる年少組の子供達。慣れたように食材を捌き、料理の手伝いを始めるベネット。


 一般的にこの光景を見たら、ちょっと手に負えないというか、これが毎日続くのかとか思うと、気が引けてしまうのも致し方あるまい。

 でもこれが孤児院の日常でマリエールの普通で、クロエやベネットが育ってきた環境なんだ。

 ベネットが皮をむいたイモを受けとって、煮込み料理の準備をしていくマリエールを見てると不思議とお似合いの二人に思えてくる。


「ベネットにカッコよく見える幻術をかけているのですけど、誰も何も言わないのですね」


「ユーリットさん、もう幻術かけていたんですね。それは、つまり……」


「ええ。ここにいるみんなは、ベネットのことが大好きなのですね」


 さっき、僕にかけた幻術のように反応が薄いのはそういった理由があるのか。はたまたユーリットさんの幻術が本当に効き目がないのかのどちらかだろう。

 しかし、ギルドでの幻術をみると、やはり効果はそれなりに高そうに思える。前向きに考えるとして、その好きの気持ちが友情からなるものなのか、愛情からのものなのか……。マリエールのそれが愛情の方であることを祈りたい。


 いつもの騒々しい夕食タイムが終えると、食後の果物でも大騒ぎしながら子供たちの取り合いがはじまった。やはり果物は人気なので取り合いになるのだけど、それでもドニーたちが年少組に譲ってあげているところを見ると、孤児院のみんなの優しさを強く感じる。


「今日の夕食はすごかったね!」

「しばらく甘味を頂けると思うと、いい夢がみられそうだよ」


「甘い物を食べたんだから、ちゃんと歯を磨いてから寝るのよー」

「「はーい」」


「みんな、久し振りにクロエやハルトに会えて楽しそうだったわね」


「お土産も喜んでもらえてよかったよ」


「子供たちはまだ小さいのに、みんな自分の役割をちゃんとこなしていてえらいわね。マリエールさんの教えなのかしら?」


「そうですね。私とクロエが小さい頃の方が、生きることに必死だったから、もっと大変だったかもしれないわ。あの頃と変わらないのはベネットぐらいかも」


「まるで僕が小さい頃から変わってないみたいじゃないか」


「ええ、昔から変わらず優しいわよ。クロエがひどい目に合ってた時も、私が薬草採取で怪我をした時も、いつも近くにいてくれたじゃない。私たちは親がいないから、守ってくれる人が少ないし、注意してくれる人もいないものね」


「そうだね……」


「だから、いつも近くで見守ってくれているベネットが心強かったし、一応は頼りにしていたのよ」


「そうだな、ベネットは小さい頃から頭が良かったし、優しいからみんな頼りにしていたのだ」


「だから、何というかベネットを見ていて、自分たちに足りない部分はみんなで補えばいいという文化が孤児院に生まれたのかもしれない。あらためて感謝するわベネット」

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