第百八十話 ユーリットの秘密2
「何故、魔法使いなんて嘘を吐いたのかは、この際不問にするが、信用していいんだよな?」
「もちろんです。それは僕とクロエが保証しますよ」
「ならいい。ほらっ、これが新しいゴールドタグだ。失くすんじゃねぇぞ」
「ありがとうこざいます。ギルドマスターさん、いやロドヴィックさんと呼んだ方がよかったですか?」
「ハルトとクロエのパーティメンバーなんだ。それならロドヴィックで構わねぇ」
とりあえず、無事? に冒険者登録は出来たようなのでホッとしている。
「あとな、ユーリットさん。ゴールドタグについての説明をクロエからちゃんと聞いといてくれ。緊急時にはギルドに協力してもらうことになる」
「かしこまりました。クロエさん、よろしくお願いしますね」
「うむ。それではロドヴィック、私たちは孤児院へ用事があるので、また今度来よう」
「おう、たまにはゆっくり茶でも飲みにきてくれ」
それにしても、ユーリットさん強かったな……。
強力なパーティメンバーが増えて、僕たちのグループも益々安泰になってきた。しかも、近接戦闘もいける前衛? メンバーは嬉しい。
ギルドを出ると、やはり気になっていたクロエからユーリットさんに質問が飛んだ。
「ユーリットさんは、その、本当にモンクなのですか?」
「違いますよ。みなさん知っての通りフェンリルです」
「で、ですよね。それで、ギルドの水晶は何故レベル四十のモンクと表示したのですか?」
「あの水晶が情報を読み取るものだとわかったので、こちらの見せたい情報を表示するように細工をしてみたのです」
「ユーリットさん、そんなことできるの?」
「はい、例えばここに小さな小石があります。それを握って開くと、はいっ」
目の前には小さな金の塊がユーリットさんの手のひらに。小石が金に変わってしまった。
「ど、どういうこと!?」
「これは、私の幻術です。少し強めの催眠術といったところですか。先ほど、私は水晶ではなく、ロドヴィックさんとギルドの受付の方に幻術をかけたのです」
「そ、そういうことだったんですね」
「ひょっとして、ユーリットは人を眠らせたりとか出来るのか?」
「私でも、さすがにそこまで強烈な幻術は難しいですね」
なるほど、眠らせるのは強烈なのか。
なにわともあれ、フェンリルという種族について、これからいろいろと話を聞いていきたいと思う。移動が楽になるかなーぐらいの感覚でしかなかったのだけど、よくよく考えてみたら伝説の生物なわけで、ドラゴン級の力の持ち主なのだから。
そして、話を聞くからには僕の秘密についても開示するべきだろう。パーティ登録することでのメリットも大きいはずだ。
「お土産はケオーラ商会に届いているはずなのだよな、ハルト」
「うん、そのはず。いっぱいあるからベネットにも一緒に運んでもらおうね」
「それは妙案だな。ついでに私たちが孤児院を手伝う日程も決めてしまおう」
ベネットの頑張り次第ではあるけど、デートに誘うよう背中を押してあげようと思う。
「なんだか楽しそうですね」
「ベネットはね、マリエールのこと好きなんだって! だからベリルも応援するの」
「あら、そうだったのね」
「ちょ、ちょっと、ベリちゃん。大きな声で何を言ってるのかな!?」
冒険者ギルドからベネットのいるケオーラ商会リンカスター支店はとても近い。たまたま、外にいたベネットが僕たちの話を聞いていたようで顔を真っ赤にしてあたふたしている。
「えー、じゃあマリエールのこと嫌いなの?」
「いや、嫌いじゃないよ。む、寧ろ好きだけども……」
「やっぱり、ベネットはマリエールのことが好きだったのだな」
「ちょっと、クロエまでからかわないでよ」
「僕たちはベネットのことを応援しようと思っているんだ。これから孤児院にお土産を届けに行こうと思ってるんだけど運ぶの手伝ってもらってもいいかな」
「は、はい。それは勿論です。結構な量でしたもんね」
「孤児院についたらマリエールに少しお休みをとってもらおうと思ってるんだ。そこで相談なんたけど、ベネットにはそこでマリエールをデートに誘ってもらいたい」
「デ、デートですか。僕がマリエールを!?」
「孤児院のみんなは気づいているけど、マリエールはベネットの気持ちに気づいてないんだよー」
「ベリちゃんの言う通り。つまり、マリエールにベネットのことを意識させるには、ちょうどいい機会かなと思ってね」
「あ、ありがとうございます。ハルトさん」
「それで、ベネット。デートには何処に誘うつもりなのだ?」
「うーん、やっぱり服とかアクセサリーとか買ってあげられたらと思うんだけど、どう思うクロエ?」
「いいのではないか。少し生活に余裕が出ているというのに、マリエールは服とか買ってないようだからな。タイミングとしてはいいと思う」
「アクセサリーはちょっと早すぎない?」
「そうか? ベネットの気持ちが伝わると思うぞ」
「そんなもんなの? 僕は失敗した時を考えて、どっちともとれる曖昧な感じで、少しずつ距離を詰めながら様子を伺ったりするんだけどな」
「私の時は、そうではなかったではないか」
「あ、あれは勢いというか……。あ、うん、なるほど。こういうのは勢いも大事なのかもしれないね」
本当に好きな人に対しては、ダメだった時のこととか考えないのかもしれない。気持ちの方が先に動いてしまう感じなのかな。うん、弱気じゃダメだよね。頑張れベネット!
「ベネット、アクセサリー、タイミングを見て攻めてみてもいいかも」
「が、頑張ってみます」
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