第十八話 ギルドマスター
「ちっ、何でこんな時間に賢者がギルドにいんだよ。まさか、また新たな犠牲者を探しに来てるんじゃねぇだろうな!」
「こちらはもう終わる。すぐに出るから案ずるな」
「うわっ、賢者様がウサギ狩りで小銭稼ぎかよ! 頼むからもっと大森林の奥に行ってくれよ。駆け出しの仕事まで奪う気か?」
「ちょっと、あなた達っ……」
「よいのだエミリー。ハルトのタグは完成したようだな」
「えぇ、これがハルトさんのタグです」
「ありがとうエミリーさん」
「エミリー、素材の買取金額は次に来たときでいい。私達はもう出るよ」
「賢者様、申し訳ございません」
「構わない。では、行こうハルト」
「う、うん」
「ちょっと待てっ! お前、見ない顔だがそこの賢者とは一体どういう関係だ。もしかして一人で賢者のレベル上げを手伝っているのか?」
「クロエとは友達だよ。見ての通り僕はブロンズなんで残念ながら大したお手伝いは出来ないけどね」
「何だ駆け出しかよ。それにしても賢者に友達だとさ!」
「友達ごっこしてる暇があるなら頼むからドラゴンを見張っててくれよ」「本当だぜ。それとも賢者様はまだレベルが足りませんかぁ?」
「お前らはクロエを何だと思ってるんだ。こんな女の子一人に任せっきりにしておいてよくそんなことが言えるな! クロエがどんな思いでドラゴンと向かい合ってるか知ってるのか? 死にそうになりながらボロボロになりながら街を守っているのを知らないとでも言うのか!」
「うるっせいガキだな!」
「……当たり前なんだよ。その女はな、俺達仲間の屍の上に強くなってるんだ。だから……」
「だから街を守るのは当たり前? ふざけるな! 何もかもクロエ一人に背負わせて、お前ら恥ずかしくないのか」
「おぅおぅ随分、生意気な奴だな。なんだ賢者に惚れちまったか? 文句があるなら俺を倒してから言ってくれよ。ほらっ、かかってこいよ駆け出し!」
「ハ、ハルト、関わるなっ!」
「おっと賢者は口を出すんじゃねぇ! これはその駆け出しと俺達パーティの問題なんだからな」
「大丈夫。クロエはそこで見ていて」
「だ、だが!」
「……セーブ」
「何ブツブツ言ってやがる!? どうした駆け出し! 来ないならこっちからいくぜ」
「……えーっと、最初は右で次は左。近づいてきて左蹴りがくる。僕が避けるとその後に大振りの右っと」
僕はあらかじめ動きを知っているかのように攻撃を半身になりかわしていく。
「あぁ? 逃げるだけは一人前かぁぁ?」
近づいてきて左蹴りがきた。体勢を崩しながらも大振りの右が飛んでくる。僕を甘く見すぎだよ。
ここだぁ!!
右から来るパンチにカウンターの左を合わせ、ピンポイントに顎を狙って打ち込んだ。
僕としては予定通りに倒したのだけども、周りは騒然としている。まぁ当たり前だろう。普通、駆け出しのブロンズがシルバー相手に勝てるわけないのだから。
「ハ、ハルト! これは一体どういうことなのだ!?」
「なっ! だ、大丈夫かダミアン!」
「ど、どういうことだ!? ダミアンはシルバーの戦士だぞ!」
ふぅ、ようやく成功できたか……。
何を隠そうダミアンとの対戦はこれが12回目である。何度もボコボコにされていたので床に倒れたまま動かないおっさんを見るととっても清々しい達成感を感じている。
そう。僕は『冒険の書』を使い何度もロードを繰り返しダミアンの動きを読みきってみせたのだ。
「て、てめぇ、一体どんなイカサマ使いやがった!」
「賢者が何か魔法を使ったんじゃねぇだろうな」
「ちっ、3人でかかれば大丈夫だ! おい、やるぞ!」
「あっ、3人はまずい……」
ダンッ!!
「そこまでだ!」
「ギ、ギルマス!?」
こめかみにピクピクと動く血管がその怒りを表している。筋骨隆々の大きな身体をした偉丈夫。肩まであるアッシュブロンドの長い髪をかきあげると残りの三人を睨みつけていた。
「どうやらお前ら死にたいらしな。エミリーから話は全部聞いたぞ! 今日登録したばかりのブロンズに喧嘩仕掛けるとか頭おかしいんじゃねぇか。……つか、やられてんのダミアンか!?」
「ちょっと待ってくれ。ギルド内で喧嘩したっていうならその駆け出しも同罪だろ!」
「アホが。わかってねぇようだな。その子は正当防衛が適用されるからお咎め無し。で、お前らは暴行及び未遂の罪で牢獄行きだボケっ! ったく、周りで見てる奴らも何で止めねーんだよ! エミリー悪いが衛兵を呼んできてくれ」
「はいっ」
「ちょっと待てよ! ギルマスはエミリーの言葉を全部信じるってのかよ。なぁ? 証拠はあるのかよ! 決めつけるのはよくねぇぜギルマス。証拠があるなら見せてもらいてぇなぁ?」
そう言うと周りを見渡し睨みつけている。喋るんじゃねぇぞと脅しをかけているのだろう。
「おい、お前ら。こいつらがこう言ってるが何か違うのか?」
それを見てクロエが声をあげてくれた。
「ロドヴィック殿、ハルトは巻き込まれただけなのだ。彼らは私に文句があったのだよ」
「またか……なるほどな。クロエはこう言ってるが他の奴らはどうなんだ? エミリーとクロエの言ってることが違うっていう者がいるなら発言してみろ!」
「チッ!」
逆にこう言われてしまうとわざわざ手を挙げて発言しようなんて物好きはいない。ロドヴィックの誘導戦略が上手に嵌まったというべきだろう。誰しもこんな状況で関わりたくないのだから当たり前だ。
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