第百七十六話 帰還2
カイラルからリンカスターまでは、もちろんユーリットさんに乗っていく。もちろん、そのサイズのままリンカスターに入ってしまったらベルナールさんはもちろん、ギルドのロドヴィックさんも慌ててしまうと思うので、目で見えてしまう範囲からは歩きで進むことになる。
「あら、馬車は必要なかったのね。ローランド馬車を頼めるかしら」
馬車でリンカスターに向かう気だったアリエスは、ローランドさんに馬車をリンカスターまでお願いしようとしたのだろう。
「うん、その馬車はケオーラ商会に預けておいてください。後ほどリンカスターまで来るように手配しておきますよ」
「ハルトったら、ケオーラ商会を顎で使えて、とてもうらやましいわ」
「それだけ貢献していますからね。でも、とても助かっていますよ」
「私もたまには使っていいのかしら」
「どうでしょうね。ハープナの麦も大量に必要になってくるのは確かだから、リンカスターでベネットと交渉してみたらいいんじゃない。まぁ、ベネットなら何も言わずに頷きそうだけどさ」
「そうね。でも考えてみたら私、ケオーラ商会にお願いすることあまり浮かばないわ」
アリエスは、ただ顎で使ってみたいという欲が願望としてあるだけで、普段からハープナにいる宝石の巫女としては何をお願いしたらよいのかわからないらしい。
「豊穣祭の相談とかしてみたら? 何かいい案が出てくるかもしれないよ。来年はもっとリンカスタービールも取り扱ってもらいたいし、美味しい料理も提案できそうだからね」
「面白そうな話ね。ハープナも外部の商会との繋がりを持った方が魅力的に発展しそうよね」
「アリエス、文化の融合は素晴らしいことです。私も後押しします。もちろん神殿の利益が大切ではありますけどね」
「ヴイーヴルも後押ししてくれるのなら問題ないわね。リンカスターに足りないものをハープナで補いつつ、良い所をしっかり頂戴するわ」
ハープナはヴイーヴルとアリエスがいる限り順調に成長していきそうだ。何か頼りにできることがあれば、こちらからもお願いしようと思う。なんだかんだ言ってお隣さんだからカイラル共々仲良くしたい。
「それにしてもユーリット、ヒト型のイメージから想像できないぐらいに大きいのね」
「前回乗った時よりも大きいね。まだ大きくなれるの?」
「いえ、これが最大ですね。人数的にもスピードを維持するなら六名ぐらいが限界でしょう」
スピードを馬車ぐらいに緩めれば数十名は行けちゃいそうだ。ユーリットの大きさは体長十五メートルぐらいまでになっている。もはや、僕の知っているドラゴンよりもサイズ的には大きい。
予定通り、揺れることなく快適なフェンリルの旅は数十分でリンカスターの近くまで辿り着いてしまった。馬車の訓練をしていた頃が懐かしい。もう余程のことがない限り馬車に乗ることもないだろう。
ユーリットから降りて、リンカスターまで歩く道程でヴイーヴルが僕に話し掛けてきた。内容はベルナールさんとの話し合いについてだ。
「ハルト、領主様とはどのような話になるのでしょうか」
「そうですね。ユーリットさんの扱いとハープナの考え、というかヴイーヴルの判断は聞かれるんじゃないかな」
「なるほど、理解しました」
「ヴイーヴルはどう思ってる? ドラゴンではないけど伝説的な生物がお隣に引っ越してくることになる訳だからさ」
「少なくともハルトとクロエがいる間については、私が何か言うことはありませんよ。私はお二人を信頼していますからね。ユーリットとも親交を継続していけば、お互いの理解が深まるとも思っています。ニーズヘッグとは比べるまでもありません」
「あるがとうヴイーヴル」
「ヴイーヴル、ありがとうございます。私もハルトたちのように信頼を勝ち取れるよう努力いたしますわ」
とりあえずはお隣との話し合いは何とかなるようだ。あとはベルナールさんの判断にもなるけど、街の中に伝説的な生物が暮らしていていいのかという問題になる。
ただ、今後しばらくは移動するに際してユーリットと行動を共にしなければならないので、僕たちとしても一緒に暮らすのが都合がいい。
毎回、お出掛けするたびに深淵に行って移動するとか正直面倒くさい。とは言っても、僕たちが決められることでもないのでどうしようもない。
「私からは、領主様には安全であるということはお伝えしましょう。実際に、ユーリットからは邪悪な気配は感じませんし、もしそうであるならばハルトとクロエの敵ではないでしょう」
ヴイーヴルから、ありがたいフォローをいただけそうだ。ベルナールさんはヴイーヴルへの信頼が厚いから助かる。
「さて、久し振りの帰宅になるな。領主様との話し合いが終わったら家の掃除をしなくてはなるまい」
「そうだね、マリエールさん達が掃除をしてくれていたとは思うけど、ほこりが溜まっているかもしれない。それに、場合なよってはユーリットの部屋や生活道具を準備しないとならないからね」
「何から何まで申し訳ございません。この御恩は、いつかみなさんにお返しできるようにします」
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