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第百七十三話 二人の絆 

「少し時間がほしい……。シルミー行くぞ」


 洞窟を外に向かうニーナ様の後を追うようにゆっくりとシルミーもついていった。


 ニーナ様も僕が無茶を言っている訳ではないことをわかっているのだろう。自分の幸せとシルミーと離れなければならない悲しみにどう折り合いをつけようか悩んでいる。


(ニーナには人間の友達が少ないのだと思う。私たちと会ってからニーナは、ほとんど街に戻っていないの。少なくとも半年近くもね)


「賢者も賢者なりに大変なんだろう。性格はかなりむかつくところもあるが、ここにいるニーナは楽しそうに過ごしていた。街に戻らないということは、もちろん俺の監視もあったのかもしれねぇが、もっと違う何ていうか、温かさみたいなものを求めているように思えた」


(そうですね。ニーナは人一倍、家族というものに憧れている。言葉には出さなくても、シルミーに頼られることで幸せを感じていたし、私を母のように慕っている節もありました。リントヴルム、あなたのことも仲間として信用しているように思えましたよ)


「ぼっち仲間かよ。けっ、お互いに通じる部分があったのかもしれねぇな」


 そういった賢者の状況にはクロエも思うところがあるのだろう。


「ドラゴンに相対する賢者は、街の人々からは嫌われることが多いのです。私もリンカスターで賢者になってからは嫌われておりました」


(ドラゴンから街を守る賢者が嫌われるのですか?)


「賢者になりたての頃というのは、そうなりがちなのです。ニーナ様も私同様、歳が若いので……つまり、賢者になって日が浅い」


「リントヴルムを前にして話しづらいのですけど、賢者を引き継いだばかりの頃は、ドラゴンから街を守るために、急激にレベルを上げなければならないのです。そのために、犠牲となる冒険者も多いのです」


 思えば、僕が会ったころのクロエと今のクロエは顔つきは全然違う。あの頃はどこか壊れてしまいそうな厳しい表情をしていたように思える。今は厳しい表情の中にも、優しさがあるというか、時折り笑顔さえ見せてくれる。


(亡くなった家族や友人から恨まれるということですか。どうりで、強さを求めがちなところが気になっていました。十分に強いのにまだ力を求め続けるのです)


「そうですね……。賢者の強さはいろいろな人の犠牲の上に成り立っています。私には助けてくれる孤児院の仲間がいましたので、何とか耐えることもできました。ひょっとしたらニーナ様には頼りにする人が、近くにいなかったのかもしれません」


(ニーナからは友達や家族の話は聞きません。話に出てきたのはラシャド王子ぐらいですか)


「家族に対しての想いが強いのかもしれませんね。ニーナ様はあなた達と過ごすことで幸せを感じてしまったのでしょう」


(皮肉ですね。人間同士ではなく我々に家族を感じるとは。ハルト、クロエ。ニーナにとってここで暮らし続けることと、結婚して王都で暮らすことはどちらが幸せなことなのでしょう?)


「それはとても難しいことです。幸せの定義は人それぞれ違いますし、好きな人との結婚といっても、王室は特殊でしょう。そこでの暮らしが窮屈に感じる可能性だってあります」


「どちらにしろ、ニーナ様次第でしょう。自分の未来を自分で決められるのです。少なくとも賢者にさせれてしまった時とは違う」


 クロエの言う通りだろう。ニーナ様が選択をするしかない。自分の将来の為に自分で何かを決められる人生なんてそうない。


「ニーナのことも正直言って可哀想だとは思うが、俺もおれで静かな暮らしを送りたい。人間を襲うつもりもないし、一生賢者から逃げ回る生活なんて考えるだけで鬱陶しい。ニーナが共生を考えるならそれでもいいし、三者間契約を選ぶならそれを守ることを約束する」


「リントヴルムが意外といいドラゴンでよかったよ。ドラゴンの代替わりというのも悪くないのかもしれないね」


「う、うるせぇ!」


(……二人が戻ってきたようですね)


 洞窟の外で話をしていたニーナ様とシルミーが無言のまま戻ってきた。ニーナ様は何かを決心したような顔をしている。何を決意したのか……。


「待たせた。シルミーともいっぱい話をした。結論から言うと、私は全てを諦めない。今までいろんなことを諦めてきた。だからもう諦めることはやめた」


「や、やめたというのは?」


「三者間契約とか共生とかどっちでもいい。シルミーとも一緒にいるし、ノースポリアからも動かない。ラシャド王子とは結婚するが、王子にはノースポリアに来てもらおうと思う」


(めちゃくちゃね。ニーナらしいけど……)


「おい、そ、そんな話通るのかよ?」


「ニーナ様、本気ですか? これで王家と揉めて、ラシャド王子との結婚が無くなってしまっても平気なのですか」


「王家は賢者の血を欲している。そこはつけ込みやすい部分だ。それに王子は第三王子なのだから、公爵家としていつか外へ出ることになる。ならば結婚を機に、その場所をノースポリアにすればいい」


 めちゃくちゃではあるけど、筋は辛うじて通っている。これがニーナ様の判断というわけか。もう諦めないという言葉に強い意志を感じるし、共感しないわけでもない。第一希望として王家に伝えるのもなくはないか。


「その話が通れば、三者間契約でも共生でもどちらでも良いということになりますかね」


「いや共生とか、めんどくせぇって俺は最初から言ってるからな!」


 いや、話し合いって大変だよね。倒した倒されたとかすっごいシンプルでいい。


 とはいえ、王家にも判断してもらわなければならなくなった。そもそも、僕たちの役割は信用できる契約かそうでないかを見極めることで、今後の話し合いは当事者同士で進めてもらいたい、本当に……。

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