第百六十九話 人間不信のドラゴン
シルミーママの乗り心地はとても素晴らしく、走っているのを感じさせないぐらいに全然揺れを感じさせない。僕たちに気をつかって走ってくれているのだろうけど、それでこのスピードはありがたい。
(間もなくリントヴルムのいる洞窟に到着します。ニーナとシルミーは席を外させるので、リントヴルムと腹を割って話をしてみてください)
「うん、シルミーママありがとう」
「ふぇ、も、もう、到着しちゃったの? フェンリルすごーい」
ベリちゃんは、シルミーママの体温のあたたかさで半分寝てしまっていたらしい。毛に絡まりながら幸せそうな表情である。
「うん、馬車とかもう乗りたくなくなっちゃう快適さだったね」
目の前にある洞窟が現在のリントヴルムの住処のようだ。特段に大きいわけでもなく、なんなら入口は地上からは分かりにくく、一段下がった地下が出入り口となっている。
(ニーナ、リントヴルムとの話し合いには、『火の賢者』と連れの者だけでさせてほしい。内容については、あとで私が共有することを約束する)
「ん、任せる。私はシルミーと周辺の狩りをしてこよう。火の準備を頼む」
(ええ。ありがとうニーナ。ではクロエ、ハルト、それからベリル、奥へ参りましょう)
ニーナはシルミーに乗ったまま走り去っていった。もっと同席することに食いつくかと思ったが、リントヴルムが苦手なのか、シルミーママを信頼しているのか、ちょっと不明だ。
とりあえずは、今はリントヴルムに集中しよう。シルミーママが少しサイズダウンしていくと、続けとばかりに洞窟の中へと入っていく。
セーブ1 リントヴルムの洞窟
まぁ、念のためのセーブだ。使わないことを祈っている。
「じゃあ、行こうか」
「うむ、ベリちゃんも足元を気をつけるのだぞ」
「うん、大丈夫!」
クロエ、実は足元を気をつけなければならないのは、間違いなく僕の方だ。ベリちゃんの体幹はしっかりドラゴン補正がかかっているからね。
洞窟の奥へと進んでいくと、光が差し込んでいる場所に出てきた。どうやらここを住処にしているらしい。草花も生い茂っていて、雨や風も防げるベストスポットといえる。
リントヴルムはこちらを一瞥すると、面倒くさそうに首をあげて、その眠そうな目を少しだけ開いてみせた。
「フェンリル、そいつらが契約を確認に来たっていう人間か?」
(そうです。ニーズヘッグとアンフィスバエナを倒した『火の賢者』ご一行ですよ)
「ドラゴンを倒した……か。なるほど、強そうには見えないが、その小さい奴は何だ? 見えているのに匂いを感じねぇ」
「はじめまして、リントヴルム。僕はハルト、隣が『火の賢者』クロエ、そして、この子はホワイトドラゴンのベリルといいます」
「ド、ドラゴンだと!? フェンリル、どういうことだ?」
(このことはニーナには、内緒にしてほしいらしいのです。詳しいことは私も聞いてないので、ハルトから説明してもらえますか?)
「お、俺のことを討伐するつもりか?」
「違います。僕たちは、三者間契約の確認のために王都から調査できました。それから、ベリルについてはいろいろとありまして、僕たちの娘として育てています。もちろん、危害を加えるつもりはありません」
「そ、そうか。俺は人間のことは信用をしていない。しかし、フェンリルのことなら少しは信じられる」
人間不信のドラゴンさんのようで、警戒心がとても強い。
「お前、何でドラゴンを育ててるんだ?」
「生まれたばかりのドラゴンに遭遇してしまったんです」
「刷り込みか……」
「それもありますけど、この子と出会ったことを大事にしたかったんです。ですから、何かあれば僕が責任を持ちますし、ベリルが成長するまでは僕たちが親です」
「そうか。お前からは確かに決意のようなものを感じる。面倒くせーが、その気持ちは信じてもいい」
さっきから、いつでも逃げられるように腰をあげていたリントヴルムだったが、そのお尻をようやく地面につけた。話し合いに応じてもらえるようだ。
「ありがとうございます」
「早速だが、ノースポリアの人間を襲わないというのは本当なのであるか?」
クロエが豪直球を放り込んだ。まー、そこを一番に確認しなきゃならないんだけどね。
「少なくとも俺は人間を襲ったことはない。逆にニーナからは問答無用で襲われたことがあるがな」
「なるほど、やはり代替わりがあったのですね。私が調べたところ、百年ぐらい前までは被害があったと聞いてます」
「そうなんだろうな。成体になってからは賢者がしつこく追ってきやがるから、何となくそうなんだろうとは思っていた。俺は何もしてねぇのに……」
「それは、何だか申し訳ありません。知らなかったこととはいえ、こちらでも被害状況を鑑みて調査をするべきでしたね」
「賢者がニーナなら、そこまで頭が回らないのもわかる。それに俺も人間と話し合いができるとは思っていなかった。今回は運が良かったとも思っている」
生まれて百年近く経っているとはいえ、人間と接する機会がなかった為、お互いの存在を恐怖していたということか。
「つまり、共生を望んでいるということで間違いないということですね」
「いや、共生とはちょっと違う。そっとしておいてもらいたい。たまに話にくる程度ならいいが、基本的には指定した縄張りに入ってこないでくれ。俺は静かな暮らしをしたいんだ」
「そういうことですか。了解しました。では、確認のため魔法を撃たせてもらいます」
「はあ?」
魂浄化!
(ハ、ハルト!?)
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